京都府商工連だより
文字サイズ

丹菱株式会社

ちりめんのすばらしさを若い世代にも伝えたい。

丹菱株式会社
代表取締役 糸井 いとい 宏輔 こうすけ
代表取締役 糸井 宏輔 氏

「TRIP 1 TANGO」
のフォーマルドレス

新たにオープンした
展示・販売スペース

 織物の産地・丹後地方で、化合繊のちりめんを作り続ける丹菱株式会社。最近、新たに自社ブランドを立ち上げ、オリジナルの最終製品の製造・販売に取り組んでいる。代表取締役の糸井宏輔さんに、変化を恐れず、新しいことにも果敢に挑戦する想い、今後の展望について伺った。
丹菱株式会社
〒629-2262 京都府与謝郡与謝野町字岩滝1788
TEL:0772-46-3365
〈instagram〉https://www.instagram.com/marutan_kyoto/
〈HP〉https://tanryo.com/

他に先駆けて化合繊のちりめんを製造

 日本屈指の絹織物の産地・丹後地方で、伝統織物の丹後ちりめんを作り続けてきた株式会社丹菱。1960(昭和35)年に大手化学繊維メーカーの指定工場となり、他に先駆けて化合繊のちりめんを作り始めた。化合繊に適した撚糸や機織りの技法を開発し、洋服や風呂敷、和装小物、インテリア雑貨に用いられるポリエステルやレーヨンのちりめんを製造してきた。
 「ちりめんは、美しい光沢を生み出すシボが特長です。化合繊のちりめんは、1メートルあたり2000回以上もの強い撚りをかけた緯糸を織り込み、糸の収縮差によってシボを作り出します。撚糸から機織りまですべての工程を自社で行うのが当社の強みです」と、三代目の糸井宏輔さんは明かす。
 ちりめんに加えてもう一つ手がけるのが、「八千代織」といわれる織物を使ったふすま紙だ。木津川市にある山﨑内装工業株式会社と共同で、織物と紙を貼り合わせた独自のふすま用織物を開発した。1967(昭和42)年の発売以来、50年以上にわたって愛され続けている。

新ブランドを立ち上げ自社商品を製造

 時代の変化に柔軟に対応し、「今」求められる商品を作ることを大切にする糸井さん。ちりめんの需要が減少傾向になる中で、オリジナルブランド「TRIP 1 TANGO」を立ち上げ、最終製品の製造にも乗り出した。「シワになりにくくて丈夫、しかも上質な風合いがちりめんの魅力です。これを存分に生かし、日常生活から旅先のおしゃれまで幅広く活用できる洋服を提供したいという想いをブランド名に込めました」と語った糸井さん。現在男性向けにジャケットやスーツ、Tシャツ、女性向けにサマーシャツやエプロン、その他キャップやヘアターバン、手袋といった小物を商品化している。「これまでちりめんの洋服は、比較的高齢の方に支持されてきましたが、若い世代にちりめんの魅力を知ってもらえれば、まだまだ需要拡大の余地はあると思っています」と自信を見せる。

商工会の支援を得てショップ・テラスを設置

 自社ブランド「TRIP 1 TANGO」の商品はオーダー制。お客さまに実際に商品を見て、注文してもらうため、自社工場の一角を改装し、展示・販売スペースを新たに設けた。予約制で、糸井さん自ら案内する工場見学も受け入れる。
 さらに眼前に阿蘇海と天橋立を見渡せる抜群の眺望も来訪者に楽しんでほしいと、ウッドデッキのテラスを設置。「あまのはしだてテラス」と名付け、2022(令和4)年11月にオープンした。「令和5年中を目途に、観光客にも利用していただけるカフェスペースをオープンすることも計画しています」と言う。
 こうした丹菱の挑戦をサポートするのが、与謝野町商工会だ。「展示スペースやテラス、外階段を設置するにあたって補助金を獲得できたのは、商工会の協力があったからこそです。その他にも税金や雇用保険など経営に関するアドバイスをいただくなど、いつも身近でさまざまな相談に乗っていただける存在として、頼りにしています」と語る。
 「やりたいことはたくさんありますが、成功させるにはタイミングが大切だと思っています」と糸井さん。「経営者として時機を見極めながら、これからも挑戦し続けていきたい」と熱く語った。

丹後ちりめんの家業を継ぐ覚悟が変えた仕事への姿勢

 丹菱は、丹後ちりめんの織元として、長年にわたって絹織物を製造してきた。1960(昭和35)年に法人化し、化合繊のちりめん製造に舵を切ったのは、糸井宏輔さんの祖父の代のことだ。化合繊の糸でちりめんに不可欠な撚糸を作るには、絹糸とは異なるいくつもの工程を経なければならない。同社は独自に技術を磨き、ちりめん特有の美しい風合いを出すことに成功した。祖父から父へと代替わりし、さらにその後継ぎとして期待を一身に受けて誕生したのが、糸井さんだった。
 「10代の頃は田舎を出たい一心でした」。そう振り返った糸井さん。いずれ家業を継ぐことは家族の暗黙の了解だったが、中学生になると「どうせ戻らなければならないなら、それまでは思う存分好きなことをしたい」との思いが強くなる。自分で京都市内にある高校を探し、高校入学と同時に親元を離れた。高校卒業後も織物とはまったく異なる業界で働き、ふるさとに戻ったのは26歳の時だ。「20代半ばまで都会で好きなことをしたのが良かったと思っています。丹後を離れてみて初めて地域の良さにも気がつき、前向きな気持ちで戻ることができました」と語る。
 それ以降は丹菱の一員として忙しく仕事をしながら、商工会の青年部や地元の消防団にも所属し、地域活動にも熱心に取り組んできた。
再び転機が訪れたのは、42歳、父親から継承し、代表取締役に就任してからだ。「一番変わったのは仕事に対する意識です。それまでは一従業員として働いている感覚でしたが、代表取締役になって『自分がこの会社をなんとかしなければ』という気持ちに変わりました」と言う。

妻への感謝から生まれた自社ブランド「TRIP 1 TANGO」

 「今は、会社のために何ができるかを考えることが楽しい」と言う糸井さん。その思いを原動力に、次々と新しいことにも挑戦している。
 もう一つ大きな力になっているのが、家族の存在だ。オリジナルブランド「TRIP 1 TANGO」を立ち上げたのも、子育てに忙しい奥様に感謝とねぎらいの気持ちを込めて丹後ちりめんで洋服を作り、プレゼントしたのがきっかけだったという。丈夫で動きやすく、忙しい生活の中でも着やすい、またシワになりにくいため旅行カバンにもコンパクトに入り、旅先でもおしゃれを楽しめる。そんなちりめんの魅力を再発見したのも、「妻のおかげです」と笑う。現在は奥様もデザインや商品開発に加わり、夫婦二人三脚で「TRIP 1 TANGO」の発展に注力している。
 最近注文を受けて新たに挑戦したのが、女性向けのフォーマルドレスだ。丹菱の着尺を用い、デザインや縫製をアウトソーシングして一点もののドレスを誂え、好評を得た。今後もフォーマルウェアの注文に対応していきたいという。

展示・販売スペース・テラスを活用した新展開を構想

 織物工場内に展示・販売スペースとウッドデッキ「あまのはしだてテラス」を新設したことを機に、新たな取り組みを構想している。その一つが、この場所をカフェスペースにして、来訪者にくつろげる空間を提供することだ。「当社の商品を見に来てくださる方だけでなく、地元の方や観光客など多くの人に訪れていただける場所にしたい」と言う糸井さん。2023(令和5)年中を目標に、店内やテラスでビールやコーヒーなどを提供できるよう準備を進めている。その他、「例えば地元の若者と都会から来た人との出会いの機会をつくるイベントを開催したり、地域の活性化につなげる試みにこの場所を活用していきたいと考えています」と展望する。自社の事業はもちろん、丹後ちりめん、そしてそれを生み出す地域を守る取り組みに情熱を注いでいる。