京都府商工連だより
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株式会社 村山木工

現代のニーズに応えてこそ伝統工芸を継承していける

株式会社 村山木工 代表取締役社長村山 伸一
 京都市京北、北山杉をはじめ材木の産地として知られる地域に工房を構える株式会社村山木工。指物や組子といった伝統工芸の技を駆使しながら、現代空間の内装やインテリアの製作など新たな分野に事業を広げている。そうした現代に伝統の技を生かす試みについて、同社の代表で指物職人の村山伸一さんに伺った。
株式会社 村山木工
〒601-0316 京都市右京区京北比賀江町亀ノ甲20
TEL:075-853-0481 FAX:075-853-0481
https://www.mu-wood.com/

指物、組子の技を磨き伝統工芸を継承する

 「伝統工芸を次代に継承していく責務を担いながらもそれだけにとどまらず、時代の空気を読み、常に現代のお客さまのニーズに応えるものを作っていきたい」
 そう語るのは、株式会社村山木工の代表を務める村山伸一さん。額縁などを製作する木工所を営む父親の下で5年間修業を積み、指物職人として独立。京都で100年以上続く老舗の人形店で雛人形の調度品や節句飾り、華道・茶道の道具を製作して腕を磨いた。その間、伊勢神宮の二度の式年遷宮で御神宝を製作するなど数々の伝統工芸品を手がけてきた。
 指物とは、釘などを使わず、板に凹凸を削って差し合わせるなど、木と木を組み合わせて作る家具や建具、調度品のこと。村山さんは、指物の技術に加えて、組子や切子、曲物、くり物といったさまざまな木工の技法を組み合わせることで、これまでにない表現を実現してきた。その最たるものが、「立体組子細工」というオリジナル技法だ。板のパーツを少しずらして階段状に組むことで、立体感を生むことに成功。板の厚みや段差が独特の陰影を醸し、変化に富んだ表現が可能になった。

伝統の技を生かして現代空間を飾る

 転機はおよそ7年前。「着物デザイナーの友人から東京のあるホテルの仕事を依頼されたのです。それが神前結婚式ための神殿の内装でした」。村山さんは1年半をかけ、入口の扉や十数メートルに及ぶ天井、壁面を指物や組子の技で装飾し、豪華な内装を完成させた。この仕事が評判を呼び、以来、ホテルや飲食店の内装や建具、インテリアなど主に現代の商業施設を飾る仕事を増やしてきた。
 「ホテルのレセプションカウンターやチャペルの天井を覆うアーチパネルを製作するには、従来の伝統工芸品にはない形や大きさに耐え得る造り、照明の影響など新たに考えなければならないことがたくさんあります。何より伝統工芸の技を生かしつつも、現代空間に映える斬新なデザインが求められます」と村山さん。さまざまなデザイナーとのコラボレーションによってそうしたニーズに応えるとともに、2015年にはデザインから図案の作成、実製作まですべてを自社で実施。デザイナーを招じ入れ、オリジナルデザイン、製作を増やしている。

会社設立、工房新設 挑戦を支援する商工会

 空間の内装やインテリア製作といった規模の大きな仕事を請け負うため、近年村山工房では職人を雇い入れて製作能力を高め、2017年6月には工房を新設した。同年10月には会社を法人化するなど成長を続けている。
 こうした事業拡大を後押ししているのが、京北商工会だ。「元来職人なので経営については知らないことがたくさんあります。会社の設立や人材雇用などに取り組むたびにわからないことを教えてもらえるので助かっています。また工房を建設する際には補助金の相談に乗っていただいたり、申請書の作成もサポートしていただきました」と、きめの細かい支援が助けになっていると語る。
 「今後は異分野や海外などさまざまな人とも一緒に仕事をしてみたい。感性の異なる人とのコラボレーションによってもっと新しいものを生みだせるのではないか。楽しみです」と村山さん。さらなる挑戦に向けて、表情は明るい。

多くのプロと共にチームで完成させる醍醐味

 2011年に初めてホテルの内装を手がけて以降、ホテルやレストランなど大規模商業施設の内装やインテリアの仕事を増やしてきた村山木工。「感慨深かったのは、やはり地元・京都のホテルのお客様から依頼を受けたことでした」と村山さんは振り返った。
 請け負ったのは、ホテル内のチャペルに据えられる祭壇と飾り壁だった。ヒノキの無垢材一面に繊細な切抜き細工と組子細工を組み合わせてさまざまな花の絵柄を施し、裏地には西陣織のファブリックを配置。ライティングによって厳かでありながらきらびやかな仕上がりになった。
 「デザイナー、西陣織の作家、照明や内装の職人など、多くのプロが結集し、チームで空間を完成させる醍醐味があります」と伝統工芸品の製作とは異なる仕事の魅力を語る。

「手わざ」にしかできないものづくりを大切にしたい

 斬新なデザインや多彩な木工技法を組み合わせる製作スタイルなど、これまでにないことに果敢に挑戦しながらも、「人間の手技(ルビ:てわざ)によるものづくりを大切にしたい。機械には決して真似できない人間の技のすばらしさを表現していきたい」と語る村山さん。
 その決意を新たにしたのは、3年前。パリコレクションに出品されたあるハイブランドメゾンの新作を見た時だった。手編みの総レース生地に小さなビーズがびっしりと手縫いされたオートクチュールドレスを発表したオーナーの言葉に感銘を受けたという。「『クラフトマンシップに基づく圧倒的な仕事こそが圧倒的な感動を与えられる』というコメントを聞いて、自分の仕事に間違いはなかったと勇気づけられました」。
 その思いが存分に発揮されたのが、2016(平成27)年に請け負ったホテルのロビーの木工アートの製作だった。レセプションカウンターパネル、パーティション、照明のランプシェードのすべてを村山木工のオリジナルである「立体組子細工」の技法で製作。20万個を超えるパーツを切り出し、一つひとつ手作業で貼り合わせ、組み上げるまでに半年を要した。
 「最も苦心したのは、レセプションカウンターの上部を組み上げる作業でした」と村山さん。他の建具の構造上、設置幅にまったく「遊び」がなく、約10mのシェードを寸分の狂いなく指定の位置にはめ込まなければならなかったのだ。1mmのずれも許されない緻密な作業。指物師としての職人技を駆使し、最後にはピタリと収めてみせた。

現代を生きる人にとって魅力的なものこそ次代に残っていく

 1996(平成8)年に材木の産地として知られる京北地域に工房を構えてから22年が過ぎた。使用する原木には、可能な限り京北産をはじめ京都府産を調達する。原木の皮を削り、製材から行うていねいな仕事は折り紙つきだ。もちろん京都府内では手に入らないウォルナットやチークといった高級材も、オーダーに応じて独自ルートで仕入れている。
 伝統工芸の職人として受け継いだ技を後世に伝えるという強い覚悟を持ちながら、「それだけではだめだと思っています。現代を生きる人々にとって魅力的なものを作ってこそ、伝統の技も生き残っていけると信じています」と語る村山さん。
 「できないかもしれない。そんな『無理難題』から想像もしなかったものが生まれます。それがやりがいです」と、今日も新しいことに挑み続ける。