京都府商工連だより
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パール染色株式会社

「機械には真似できない「ていないな手仕事」を貫きたい」

パール染色株式会社 代表取締役社長林 宏樹
 国内でもほとんど対応できる企業がなくなった手摺りによる顔料プリントを専門に手がけるパール染色株式会社。機械によるオートメーション化が当たり前の現代にあって、先進機械でも真似できない手仕事に誇りを持って取り組む代表取締役社長の林 宏樹氏にその思いを伺った。
パール染色株式会社
〒622-0052 京都府南丹市園部町黒田中河原20
TEL:0771-62-1009
http://www.pearl-senshoku.com

希少な手摺りの顔料プリントに特化

 京都府南丹市に工場を構えて50年近くになるパール染色株式会社。京都市街から離れ、公共交通機関の便もそれほどよくないこの場所に、世界の名だたるハイブランドの靴やカバン、衣服の生地が持ち込まれる。同社は、国内でも数少ない手摺りの顔料プリントに特化した企業として、服飾関係業界では知られた存在だ。

 染色は一般に、染料と顔料という材料の違いによって大きく2種類に分けられる。水に溶かした染料に白い布地を浸し、繊維に染料を化学的に結合させる方法に対し、パール染色が主事業とするのは、顔料に接着剤を混ぜ、生地の上に塗布して固着させるプリント方法。とりわけ同社の強みは、機械では対応できない生地を職人の手仕事で摺り上げるところにある。

 「生地に別の加工が施してある、あるいは生地が分厚すぎるなどの理由でプリント機械に通すことのできないものや、撥水加工を施したナイロン生地など、特殊な素材のために他社では染めることのできなかったものなどが『なんとかしてくれ』と持ち込まれることが多いですね」と語るのは、代表取締役社長の林 宏樹さん。注文を受けると、生地の素材に合わせて最適な接着剤の種類や混合量を検討するとともに、「滑り止めのようなざらざらした肌触り」、「光沢のある風合い」など、顧客の要望に応じてサンプルを作る。「その際心がけているのが、お客さまの希望通りにプリントしたものに加えて、もう一種類サンプルを提出すること。お客さまの求める雰囲気を実現するにはこうした方がいいというように、染色のプロとして提案します」と林さん。

 加えて、短納期に応える柔軟さもパール染色が顧客の信頼を集める理由の一つ。注文を受けてから2、3日で数千枚のプリントを仕上げるといった「高速対応」も少なくないという。

染料から顔料へ時代に応じて変化

 「祖父が京都市左京区で創業したのは、1965(昭和40)年。京都で作られる着物の白生地を染料で染める和装染色から事業をスタートさせました」と振り返った林さん。創業から4年後の1969(昭和44)年、工場の規模を拡大するため現在の地へ移転した。しかし和装産業の縮小とともに和装染色のニーズも減少。そんな苦境を打開するため、1980(昭和55)年に始めたのが、合成皮革の油性顔料プリントだった。

 「それ以降、油性から水性顔料プリント、箔加工などへと技術を広げるとともに、皮や合成皮革、ポリエステル、ナイロン撥水布など対応できる生地の種類も増加。今では服地の他、靴やカバン、壁紙など多種多様な生地のプリントを手がけています」。

商工会とともに課題克服に挑む

 現在の課題は、顧客がファッション・服飾業界に偏っていること。「お客さまの繁忙期が重なるため、寝る暇もないほど忙しい時もあれば、売上が大幅に減少する月もあります」と悩みを語った林さん。課題解決のため、現在は健康・福祉関連業界への新規顧客開拓に取り組んでいる。定期的に定量の受注の見込める顧客を獲得し、収入の安定化を目指す。

 そうした経営の相談に乗り、アドバイスや支援の手を差し伸べるのが、南丹市商工会だ。「助成金の申請や活用の仕方を相談する他、京都府が主宰する経営者のためのセミナーを紹介していただいたりと、ふだん仕事をしていては入手できない情報を教えてくださるのがありがたいですね」と林さん。経営支援員の勧めで経営者セミナーを受講した他、京都府の「知恵の経営」の認証も受けた。

 さらに助成金を活用し、ホームページをリニューアル。新規顧客開拓に生かしたいと意気込んでいる。

 「先進設備による機械化、オートメーション化が主流の現代でも、手仕事にしかできないことがある。それを大切に『ていねいなモノづくり』を貫いていきたい」と将来を見据える。

染色の難しい樹脂素材への短納期でのプリントに対応

 パール染色には、他では対応できなかった特殊かつ難度の高いプリントの依頼が寄せられることが多い。とりわけデザイン性や新規性を重視するデザイナーズブランドの商品には、従来服地やカバン地にはない特殊な素材が使われていることもあり、「試行錯誤の連続です」と林さんは語る。

 「つい先日、あるブランドのゴールデンウィーク企画商品として注文を受けたのが、ポリプロピレンという樹脂素材のシートにキャラクターデザインをプリントしたいという依頼でした」と振り返った林さん。

 経験豊富な林さんにとっても初めて扱う素材。既存の顔料や接着剤ではどれを試してもインクが定着しない。顧客から「このメーカーのインクなら染められるかもしれない」との情報を得て、初めてインク、初めての素材を相手に苦心しながらプリントを成功させた。

 次なる難題は納期だった。「ゴールデンウィーク企画」にもかかわらず、依頼を受けたのは、4月も中旬に差しかかってから。しかし期日を延ばすことは許されない。試し摺りの後、林さんはわずか2日間で依頼枚数を摺り上げ、無事納期に間に合わせた。こうした対応力が、顧客の厚い信頼の所以だ。

希少な50mもの長尺の手捺染台が強みを発揮

 「特殊な加工を施された生地のプリントの依頼に加えて、長尺生地のプリント依頼も少なくありません」と林さん。

 パール染色では全長50mにおよぶ手捺染台を10台保有。長尺の反物を扱う和装染色の企業でも、ほとんどがその半分の25m台しか備えておらず、京都府下でもこれほど長大な捺染台を持つ企業は他にない。

 パール染色の捺染台なら、裁断せずに長尺のまま生地をプリントできるので、生地のロスを減らせるメリットがある。

 加えて、現在パール染色が販売拡大に力を注ぐ健康・福祉関連業界の商品の場合、多彩な大きさ、形にカットされた生地も多く、それらのプリントにも長尺の捺染台は威力を発揮できるという。

収益の安定化、売上のさらなる向上を目指し、人材確保が課題

 収益の安定化とさらなる売上向上を目指す上で、今後は人材の確保も課題になる。「探究心を持ってモノづくりを楽しむことのできる人に来てほしい」と、林さん。

 新しい素材や特殊なプリントと向き合うことの多いパール染色の職人には、自ら考え、試行錯誤して課題の解決策を見つけ出す力量が求められる。

 「例えば、お客さまから送られてきた綿の生地を捺染台に置いてみたら、皺が寄ってプリントできないことがわかったり、樹脂性の生地で弱い熱でも縮んでしまったりと、熟知している素材でも不測の事態は起こります。そうした時に柔軟な発想で対応するためには、日々の勉強を厭わない好奇心や探究心が欠かせません。捺染台に貼れるものであればどんなものにでもプリントしてみようと思うチャレンジ精神をいつまでも持ち続けています。」と林さんは力を込める。

 林さん自身、探究心と向上心を持って経験と知識、技術を積んできたからこそ、パール染色の現在がある。さらに同じ志を持ち、同社の技術を引き継いでいける人材が増えれば、同社の未来は明るい。