京都府商工連だより
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有限会社民宿ほその

多くの方が京丹波の魅力に触れる、きっかけとなる存在でありたい。

有限会社民宿ほその
代表取締役 細野 ほその 章人 あきひと
有限会社民宿ほその 代表取締役 細野 章人 氏

床板を替え、
新たに腰板も貼った廊下

改装した浴室

 京都府船井郡京丹波町の豊かな自然に囲まれた、有限会社民宿ほその。その居心地のよさはもちろん、自家製の米や野菜の美味しさに惹かれて足を運ぶ常連も少なくない。細野農園も営む2代目の細野章人さんに、これまでの道のりやこだわり、コロナ禍における取り組み、展望について伺った。
有限会社民宿ほその
〒622-0304 京都府船井郡京丹波町猪鼻中村80番地
TEL:0771-88-0130
FAX:0771-86-0953

自家農園を強みにビジネス・合宿客を獲得

 有限会社民宿ほそののスタートは、今から36年前。自家農園から年間を通して新鮮な旬の野菜を調達できるという強みを活かし、「リーズナブルながら料理のボリュームは満点」の民宿として定評を得てきた。
 代表取締役の細野章人さんが父親から経営を引き継いだのは、今から十数年前、40歳の頃だ。ただ、21歳の時から父とは別に細野農園を営み、高品質なほうれん草を追求してきた結果、「京都で細野農園の名を知らないほうれん草農家はいない」と言えるまでの手応えを得ていたこともあり、当初は細野さんの母親と妻が中心となって切り盛りしていたという。
 そんな細野さんも徐々に、同社の経営に力を注ぐようになっていく。きっかけは、手伝った際に得た、「お客様が喜んでくれる」という実感だった。「小学生のお子さんが、なんでもない浅漬けを、美味しい美味しいって食べてくれるんですよ」と笑顔で振り返る。その秘密は、単に新鮮なだけではなく、「採れた地の水で調理していること」にあるそうだ。

商工会のサポートにより先を見据えた改装が実現

 民宿経営に及ぼすコロナ禍の影響の大きさは言うまでもない。特に、宴会を目的とした社会人の団体、遠方からの工事関係者、スポーツ合宿の学生や子どもをメインターゲットとしてきた民宿ほそのにとっては死活問題だった。とはいえ、できることは限られる。2020年は空気清浄機やアクリル板の導入などにとどまったという。
 コロナ禍が続く中、2021年に入って細野さんが思い立ったのが、浴室の改装だ。
「ファミリーの顧客もいるのですが、高齢の方や小さなお子さんにとって、うちの浴槽はちょっと深かったんです。浴室の改装は、お客様がいない時にしかできないこと。費用は何とか借入金などで賄うつもりで、工務店との打ち合わせを進めていました」
 思いがけず、京丹波町商工会から連絡が入ったのは、工事の日程も決まり、神社にお祓いの依頼も済ませたタイミング。「宿泊事業者向けの補助金がある」ことを知った細野さんは、「せめて浴室だけでも」という発想から、ターゲット層を広げることも見据えた改装にシフトする。
「着工が遅れていたことが幸いし、補助金の対象となりました。商工会には普段から『こういうことをしたい』と要望を話していて、商工会がそれをわかってくれていたからこそ、実現できたのだと感じています」
 浴室はステップ付き浴槽や手すりを導入して全面改装。玄関は片開きドアから和モダンな引き戸に、廊下の床は無機質なベニア材から温かみのあるヒノキ材に替えた。また客室の畳から手に触れる箇所の塗料まで抗菌・抗ウィルスにこだわり、「昭和レトロ」感がありながら、より快適な空間へと生まれ変わったのだ。

京丹波の良さを発信し地域活性に貢献したい

 これまでにも、京丹波町商工会のサポートを得ながら補助金の申請を行った経験があるという細野さん。「信念はあっても、文章化するのは難しい。そこを助言いただけるので、本当に助かっています。何より、申請書作成のプロセスを通して、思いや目標が明確になっていくことが最大のメリット」と話す。
 固定客の獲得に向け、今後はファミリー層に広くアピールする予定だ。「京丹波町は、遊びに来る場所としてはもちろん、移住先としても魅力的。そう感じてもらえるきっかけを作りたい」と語る細野さんの眼差しは、地域の未来を見つめている。

宿泊客を惹きつける、自家農園の恵み

 同社の魅力を語る上で欠かせないのが、細野農園で育まれる作物の存在だ。米・蕎麦のほか、17棟のビニールハウスで年間約30種の野菜を栽培している。メインは、細野さんが30年以上にわたり作り続け、季節を問わず出荷している、ほうれん草。ラディッシュ、水菜、ルッコラ、カブと合わせたサラダが美味しく、「そのサラダを毎日食べたくて種を蒔いている」のだと言う。
 作物のバリエーションは、夫婦で相談しながら増やしてきた。「妻にリクエストされたら、『はい』って言って作ります」と笑顔で話す。細野さんが嫌いだったトマトもその一つ。スイートバジルと一緒に食べると美味しいことを発見したことから、スイートバジルも定番化。今や庭は、オレガノやローズマリーをはじめ料理に使えるハーブであふれている。
 細野さん自身の「食べたい」という思いが詰まった作物の品質は、顧客のエピソードから窺い知ることができる。「ほうれん草は、『こんなん食べたことない』って言われます。採れたての人参はスティックにするだけで、小さなお子さんが喜んで食べてくれます。それまで野菜を口にしなかったお子さんが、食べられるようになったこともありました」と細野さん。細野農園の米と野菜を食べたい一心で、季節ごとに足を運ぶファンもいると言うから驚きだ。

補助金申請を機に、経営課題解決を直視

 今回の改装を機に、メインターゲットの転換を本格化させた同社。しかし細野さんはコロナ禍以前から、「変わっていかなければいけない」という危機感を抱いていたと言う。京都縦貫自動車の開通に伴い、売上の多くを占めていた工事関係者が通えるようになり、「自分が作った米や野菜を多くの人に食べてほしい」という思いに相反するように、客足が減少し始めたからだ。
 とはいえ、“必要性を感じている”だけでは、行動に移すことは難しい。細野さんにとって改装に向けた補助金申請は、その経営課題に真正面から向き合う契機となった。「数年前にも補助金の申請を経験していますが、その際に作成した書類を見直せたことも大きかったです。考えが甘いなあって反省しながら、自分が前に進んでいるのか否か、その方向性が合っているのか否かを再確認できますし、次にやりたいことが見えやすくなるんです。今後どうするのか、あらためて自分に問いかけることができました」

“懐かしい”と感じてもらえる宿を目指して

 細野さんが理想とするのは、初めて訪れた人も懐かしさを覚えるような、心落ち着く宿。そのために不可欠とも言える空間は整った。「浴槽の出入りが楽になった」「気持ちよく過ごせた」など、常連客からの評判も上々だ。ファミリー層に向けては新たに、農業体験、ホタル鑑賞、川遊び、山歩き、山菜採りなどを楽しめる、京丹波町の自然を活かした宿泊プランを提供していく。
 情報発信に関しては、現在活用しているSNSに加え、動画などのデジタルメディアに目を向ける必要性も感じていると言う。
「じっとしてたらいけない。時代の変化を読めるよう、常にアンテナを張っておきたい。決して馴染みがあるとは言えないデジタルメディアの活用を検討しているのは、そういう思いからです。当社の発信した情報で、京丹波のファンや、『京丹波に住みたい』と思う人を増やしていけたらうれしいですね」。同社と地域のさらなる発展に向けた挑戦は、始まったばかりだ。