京都府商工連だより
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SMALL STANDARD

人が交わり、コミュニケーションが生まれる仕組みやビジネスをつくりたい。

SMALL STANDARD當間 一弘
丹後半島の東端、舟屋の伝統的な街並みで名高い伊根町に、2017年に移住し、SMALL STANDARDを立ち上げた當間 一弘さん。カフェ&ホテルをベースに「食」に関わるさまざまな事業を展開し、地域の活性化に貢献しようと取り組んでいる。初めての地に根をおろし、新しい事業に挑戦する理由や将来の展望を伺った。
SMALL STANDARD
〒626-0423 京都府与謝郡伊根町平田140
TEL:090-3500-3391
http://smallstandard.com/

伊根町に移住して食ビジネスでの起業を決意

 2018(平成30)年11月、舟屋の風景で全国に知られる与謝野郡伊根町に、古民家を改装したホテル「guri」がオープンした。オーナーの當間 一弘さんは、伊根町に魅せられて2017(平成29)年に移住。この地に暮らし、「食」に関わるさまざまな事業を展開するべくSMALL STANDARDを立ち上げた。
 「2014(平成26)年に初めて仕事で伊根町を訪れ、舟屋の風景に衝撃を受けました。こんなに海に近い暮らしは日本のどこを探してもないと思い、移住を決めました」と當間さん。大の海釣り好きであることに加え、食に関わるコンテンツが充実していることが、伊根町を選んだ理由だ。「丹後半島は、古くは日本海から大陸の食文化が入ってくる玄関口であり、豊かな食の歴史を持っています。また農業や漁業が盛んで、酒蔵や酢の醸造所の老舗もある。食をビジネスにする上で理想的な場所だと思いました」と語る。

コミュニティのハブになるカフェ&ホテルを作りたい

 それまでは東京を拠点として主に飲食店の設計から運営までを手がける企業に勤務していた當間さん。一級建築士として店舗などのデザイン・設計を手がける他、飲食業の事業計画の策定にも従事してきた。その中で、地域の人々と関わり、地域を活性化する事業に幾度か携わったことで、次第に自ら地域に暮らし、当事者としてそれに取り組みたいという思いが膨らんでいったという。
 舟屋の伝統的な街並みが重要伝統的建造物群保存地区に指定されている伊根の集落には、国内外から多くの観光客が訪れるが、観光業に関わらない地域の人々と観光客が交わる機会はほとんどないのが実情だ。「そうした課題を解決するため、地元の人も観光客も両方が集い、自然とコミュニケーションが生まれるような、コミュニティの『ハブ』となるカフェを作りたいと考えました」と「guri」を開業した理由を明かす。
 當間さん自ら設計し、築60年以上の古民家を改装。2階を宿泊施設として1日1組だけを受け入れる。B&Bスタイルにし、地元産の野菜や魚を使った朝食を出そうと計画している。2019年2月には1階にカフェをオープンするべく、目下準備を進めているところだ。

商工会の後押しを得て初めての土地で起業

 初めての地に根をおろし、事業を立ち上げようとする當間さんを力強く後押しするのが、伊根町商工会だ。「補助金の案内や申請方法の指導から、融資を受けるにあたっての金融機関の紹介まで。おかげで開業準備を進めることができました」と當間さん。ゆかりのない土地で事業を始める上での課題は資金面だけではない。「地域の人や産業がどのようなバランスで成り立っているのか、事業を興すには何に留意しなければならないのか、地域外の者にはわからないことを教えていただけるのがありがたいですね。新しい事業に取り組む時、良いタイミングで人・モノ・金にアクセスできるよう状況に適した支援を提案してくださることが助けになっています」と語る。
 まずはカフェとB&Bの運営を軌道に乗せ、地域に根を張ることが目標。それを足がかりに、将来は多様な事業展開を考えている。「人が循環し、コミュニケーションが生まれ、地域の課題を解決したり、地域が活性化する仕組みやビジネスをつくっていきたい」と當間さん。SMALL STANDARDが伊根町にどんな新しい風を吹き込むのか、楽しみだ。

地域の人と関わり、地域に貢献する楽しさを知ったのが移住のきっかけ

 伊根町に移住する以前は、東京を拠点に主に飲食店の設計から運営までを手がける企業に勤務していた當間さん。一級建築士としてさまざまな店舗のデザイン・設計に携わってきた。
 移住を考えるきっかけになったのが、東日本大震災後の2012(平成24)年、南三陸町に仮設復興商店街を作るためのマスタープランを作成する仕事を担当したことだった。「地域の商店街を盛り立てるために、人が集い、憩いや賑わいの生まれる場を作るなど、商店街のグランドデザインを考えました。その中で地域の人々と関わり、地域に貢献する楽しさや喜びを知りました」と振り返る。
 その後、地域の人々と関わりながら地域が抱える課題を解決したり、地域を活性化するプロジェクトに携わる中で、自ら「プレーヤー」となるビジョンが固まっていったという。

地域の人と関わる仕事を通じてビジョンが明確になった

 南三陸町の商店街作りのプロジェクトから約1年後、當間さんは千葉県のあるサービスエリアの設計から事業計画、その後の運営まで一気通貫して行う事業を任される。事業のために同じ会社に勤めていた奥様と二人、都内から千葉県木更津市に引っ越したほど情熱を注いだ。
 「地域の生産者の方々と一緒に特産品を使ったお土産品を開発したり、週末にマルシェを開催し、地元の野菜や果物を販売するとともに、店舗内のレストランで同じ食材を使ったメニューを出すなど、さまざまな企画も考えました。このプロジェクトを通じて、地域を活性化する上で『食』を使ったビジネスの可能性の大きさに気づきました」と當間さん。こうした経験を経て、少しずつ「移住」を意識し始めるようになったという。
 さらに2014(平成26)年、千葉県市原市で毎年行われている過疎対策、農業地域の再生、地域の活性化を目的としたアートイベント「中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス2014」にご夫婦で参加。閉店した食堂を改装し、期間中、地元の食材を使ったサンドイッチ・カフェを運営した。
 「地域の方々と獣害が問題になっているイノシシの肉を使ったサンドイッチを開発したり、地域の人々が集う『ハブ』となるカフェを作る経験を夫婦で積むことができたのが財産です。この時、『将来こういうことをしたい』というビジョンが明確になりました」。

将来は地域に貢献するさまざまな事業を展開したい

 伊根町でSMALL STANDを立ち上げ、現在はカフェ&B&B「guri」の経営に注力するが、将来はさまざまな事業展開を考えている。
 空家になった舟屋をオフィスに改装し、サテライトオフィスとして他県に本拠を置く企業を誘致することもその一つだ。「地域の活性化などに関心を持つ企業に来てもらい、一緒に地域課題の解決策を考えることもできるかもしれません」と當間さん。
さらに「例えば、『食』を活用して地域課題を解決するアイデアの一つとして、地元で水揚された後、売れずに余った魚と、地域の酒蔵や酢の醸造所が持つ発酵技術を合わせ、発酵食品を開発することも考えられます」と語る。その他、シーカヤックやフィッシングといった海のレジャーに関わる事業など、アイデアは尽きない。今後、伊根町商工会のサポートを得ながら、一つひとつ実現を目指していく。