京都府商工連だより
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株式会社エール

100人にひとりでもいい。
カバーを通じて多くの人を笑顔にしたい。

株式会社エールなべ せい
 雑貨卸売業として創業3年目の2008(平成20)年、大山崎町に拠点を構えた株式会社エール。その数年後には、自転車のサドルカバーをはじめ多彩な自社商品を展開するメーカーへと転身を遂げた。新たな挑戦を続ける代表取締役社長・真鍋聖司さんに、その経緯やビジョンについて伺った。
株式会社エール
〒618-0071 京都府乙訓郡大山崎町大山崎尻江34-1
TEL:080-9741-9777 (075-957-0286) FAX:075-957-0287
http://aile-jpn.com/

自社商品のヒットを機に
カバー専門メーカーへ転身

 2006(平成18)年に創業し、文具を中心とする雑貨の卸売業を営んできた株式会社エール。この社名には、四つの思いが込められていると言う。「お店にエールを送ることができる存在であること」。「皆様のエールに応えられるよう努力すること」。「まなべエール(学べる)、生涯初心であること」。そして、フランス語で「翼」を意味することから、代表取締役社長の真鍋聖司さんが抱く、「自分もいつか翼を広げ、空高く舞い上がりたい」という願いも託した。
 その願いが自社商品という形で具現化されたのは、大山崎町に移転してからのことだ。「雑貨業界の売上が減少する中、このままでは先細りになるという思いがありました。打開策として着手したのが自社商品の開発です。取扱商品のターゲットである小中学生を笑顔にできる、世にない商品は何か。半年間、毎日のようにスタッフとディスカッションを重ねました」と真鍋さんは振り返る。
 その中で生まれた「可愛いサドルカバーがあればいいな」という遊び心に満ちたアイデアをきっかけに、2010(平成22)年、従来品とは一線を画すデザイン性にこだわった自転車のサドルカバー『チャリCAP』が誕生。さらに同商品のバージョンアップによる売上向上を機に、そのノウハウを活かしたランドセルや傘などのカバーも開発し、カバー専門メーカーへと成長を遂げる。2020(令和2)年1月、『チャリCAP』の累計販売枚数は200万枚を突破した。

フィット感を追求した
進化版『チャリCAP』

 『チャリCAP』がヒット商品となった最大の理由は、発売後の改良によりデザイン性と機能性を両立させたことにある。一見するとカバーを被せているとは分からないほどサドルにピタッとフィットする伸縮生地を採用し、耐摩耗性に優れたプリントを施した。お気に入りの柄やキャラクターで自転車をスタイリッシュにデコレーションすることが可能だ。
 現在の品質を確立するまでには、約2年を要したと言う。「最も苦労したのは、装着時に可愛いと感じてもらう上でも重要なポイントであるフィット感の実現です」と真鍋さん。展示会で出会い、後に製造委託先となる台湾の縫製工場と連携し、理想の生地を探し歩いた。生地決定後は、試作・調整を繰り返して最適なプリント手法を模索。完成した、サドルと一体化して上質感さえ醸す進化版『チャリCAP』はママ世代から広がり、いまや自転車業界にサドルカバー=『チャリCAP』というイメージを定着させるほどの存在感を放つ。

商工会の協力を得て仕上げた
経営革新計画が前進する力に

 卸売業からメーカーへ。その転換のプロセスにおいて支えの一つとなったのが、大山崎町商工会の存在だ。「自分なりに進めてはいたものの、逃げ道がなくなるという不安を払拭できずにいました。そんな時、経営革新計画の策定を提案してくれたんです。テーマは『問屋業からメーカー業へ転身』。膝を突き合わせて作り上げていく過程で見出した揺るぎない方向性が、メーカーとして踏み出す後押しとなりました」 その際に明文化した「関わる全ての人に笑顔と幸せを届けエール会社を追求し続けます!」という経営理念には、遊び心を忘れない真鍋さんの人柄と、創業以来変わらぬ熱い思いがにじみ出る。「次は、自転車パーツ・ランドセルパーツ業界でナンバーワンを目指したい」と笑顔で語る真鍋さん。その眼差しは、一片の迷いもなく、未来へと向けられている。

お客様からのアンケート回答が
アイデアとモチベーションの源泉

 エンドユーザー一人ひとりの声を大切にする精神は、商品を生み出すプロセスにも色濃くあらわれている。たとえば、ランドセルカバー『らんらんCAP』。商品化のきっかけを問うと、真鍋さんはアンケートの分厚い束を取り出した。「店舗を持たない当社では、エンドユーザーとつながる手段としてアンケートを行っています。数年前は保護を目的とした透明のランドセルカバーが一般的でしたが、回答にいくつか見られた、『可愛いランドセルカバーが欲しい』という要望に着目したことが始まりでした」 『チャリCAP』で採用した伸縮素材や高い摩擦堅牢度を誇るプリント加工技術を応用し、どのようなサイズのランドセルにもフィットする機能性と、人気キャラクターなどを全面にあしらったデザイン性とを併せ持つカバーを発売。手軽にお気に入りの柄で彩ることができ、成長に伴い好みが変われば着せ替えられる点が好評を博し、今では大手ショッピングモールのランドセル売り場にも並ぶ定番商品となっている。
 回答者には廃番の『チャリCAP』などをプレゼントする仕組みをとっており、回答率はもちろん、その内容のクオリティも高い。『らんらんCAP』を装着したランドセルをうれしそうに背負う子どもたちの写真も多数寄せられている。「お子さんが喜んでくれているという事実がモチベーションの源」と、綴じられた一枚一枚をめくりながら目を細める真鍋さん。このエンドユーザーに寄り添う姿勢が、商品の一つひとつに、成長の息吹を吹き込んでいる。

喜んでもらえる商品を、
1点でも多く世に送り出したい

 真鍋さんの夢の一つは、日本の自転車の10台に1台、約690万台に『チャリCAP』を装着してもらうこと。その達成に向けて、たゆみない前進を続けている。2020年にはオンラインショップ限定で、「お尻が痛い」という悩みに応える、クッション性に富んだジェル入りサドルカバーも展開する予定だ。
 そして今、「自転車パーツ・ランドセルバーツ業界でナンバーワン」というスローガンのもと、新たなアイテムの開発にも余念がない。真鍋さんは、「自転車の前カゴ、後ろカゴのカバーなど、『チャリCAP』とのトータルコーディネートを提案していきたい」と意気込む。
「100人にひとりでもいい、誰かを笑顔にできる商品を開発していきたい」。この真鍋さんの言葉こそ、同社のものづくりの真髄だ。さらなる飛躍に向けて、これからも地道に、そして着実に、歩を進めていく。