京都府商工連だより
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株式会社香月庵

新オープンのカフェで、「自慢のたけのこ」とコーヒーを味わっていただきたい。

株式会社香月庵こうげつあん 専務取締役 長谷川 はせがわ 静江 しずえ
株式会社香月庵 専務取締役 長谷川 静江 氏

カフェ「unknown cafe 香月庵」店内

人気商品「京都産・筍ご飯の素」

 京都府の南西、乙訓地域で江戸時代からたけのこ農家を営む株式会社香月庵。質の高さで評判を呼ぶたけのこ栽培の他、加工品の製造・販売、さらにはカフェをオープンするなど新しいことにも果敢に挑む。中心となって事業に取り組む専務取締役の長谷川静江さんに家業への思い、将来展望を伺った。
株式会社香月庵
〒617-0002 京都府向日市寺戸町二枚田1-1
TEL:075-933-4560
FAX:075-933-4458
https://www.kogetsuan.jp/

たけのこ農家として220年
自家製のたけのこ食品を販売

 たけのこの産地として知られる京都府南西部・乙訓地域で、株式会社香月庵は約220年にわたって代々たけのこ農家を営んできた。
 良質な地下水と豊かな土壌に恵まれた自家山の竹林を保有。「京都式軟化栽培法」という伝統的な方法で育てられるたけのこは、驚くほど柔らかく、えぐみの少ない甘い味わいが特長だ。春の一時期、最も味が良いといわれる早朝に収穫された「朝掘りたけのこ」は、京都はもとより、全国の有名日本料理店やレストランからも注文が絶えない。
 たけのこ栽培に加え、専務取締役の長谷川静江さんが中心となって、約20年前に始めたのが、自家製たけのこで作った加工品の販売だ。「もともとは、収穫する際に傷をつけてしまって売り物にならないたけのこを自宅で煮つけにし、希望される方にお譲りしていたのが始まりでした。その味が次第に評判を呼び、『ほしい』と言ってくださる方が増えてきたため、自宅の庭に店舗を構え、本格的に販売を始めました。」と長谷川さんは語る。
 最もおいしい時期に収穫したたけのこを下茹でした状態で保存。それを醤油や酢、山椒など、独自の配合で調味し、つくだ煮にする。「筍ご飯の素」や「筍のうま煮」といった定番商品の他、山椒を効かせた「たけのこ山椒」、かつお節の入った「かつお土佐煮」などさまざまな商品を製造。自社店舗の他、ホテルや駅の土産物店、催事などで販売している。食のプロが選ぶ「ニッポンいいもの再発見!バイヤーズ・セレクション2013・2015」に「筍ご飯の素」が選定されるなど、商品は高い評価を得ている。

香月庵の新展開としてカフェをオープン

 2021(令和3)年11月1日、本店のほど近くに新たにカフェ「unknown cafe 香月庵」をオープンした。マネージャーを務めるのは長谷川さんのご息女だ。世界各国の産地から選りすぐり、仕入れたコーヒー豆を自家焙煎し、煎りたて、挽きたてのコーヒーを提供する。
 店内には、香月庵らしく竹のモチーフが随所にあしらわれている。「静寂に包まれた竹林の中に憩い、くつろいでいただきたいとの思いでデザインしました。」とこだわりを語った長谷川さん。店内でも香月庵の商品を販売する他、自家製のたけのこ商品をふんだんに使ったランチメニューやスイーツも考案、提供するという。

商工会の情報提供が新規事業の力になっている

たけのこ農家として家業を守りながら、加工品の製造・販売やカフェの営業など、新しいことにも積極的に挑戦する香月庵。向日市商工会は、そうした取り組みを縁の下でサポートしている。
 「新しい事業を始めるにあたって、補助金などの情報を提供していただけるのが助かっています。また展示会や催事、地域の祭りなど、商品を出展・販売する機会がある時にも案内してくださるなど、きめ細かいサポートがありがたいですね。」と長谷川さん。展示会で商工連のブースに商品を出展することが、東京や大阪など新規顧客の開拓につながっているという。「コロナ禍で土産物店などの売れ行きが厳しい中、商工会に紹介され、大手百貨店のオンラインショップで販売する機会を得ることができました」と語る。
 今後も江戸時代から続く家業を守りながら、次代を見据えて香月庵の新しいかたちを模索していく。

手間と時間をかけて育てる「日本一」の乙訓のたけのこ

 「乙訓のたけのこがなぜおいしいのか。実は育て方に秘密があります。それが、乙訓一帯で行われている独自の栽培法『京都式軟化栽培法』です」。そう語った専務取締役の長谷川静江さん。
 長谷川さんによると、京都式軟化栽培法の特長は大きく二つ、親竹の穂先を切って成長を止めること(芯止め)と、敷き藁や、土入れをすることだという。竹は、親竹から地下茎を伸ばして新しい竹を生やす。新竹は地下茎を通して親竹から栄養をもらい、成長する。親竹の先を切ることで、親竹の成長に使う栄養や水分も新竹に行きわたらせることができます」。また藁を敷き、その上に土をかぶせることで、ふかふかの柔らかい土壌ができる。「手間も時間もかかりますが、その分だけ大きくて柔らかいたけのこが育ちます」と言う。
 栽培法に加えて、収穫にも職人技を必要とする。春先、まだ地中にあってほとんど穂先が出ていないたけのこを見つけ、「ホリ」と呼ばれる刃の長い独特の鍬で掘り起こす。「たけのこが地表に顔を出す直前、地面に小さなひび割れができます。それを熟練の眼で見極めて、土の中のたけのこを探し出すのです」と語る。
 たけのこは、掘り起こした直後から「えぐみ」が出始めるため、乙訓地域ではまだ暗い早朝に収穫する「朝掘り」が主流。こうして「日本一」ともいわれるたけのこができあがるのだ。

たけのこの味わいを生かした調味からパッケージまでこだわる商品作り

 香月庵では、自家山の竹林で栽培したたけのこを使って、つくだ煮や「筍ご飯の素」を製造、販売している。乙訓産たけのこをふんだんに使い、手間暇をかけて作る高付加価値商品として、全国から注文が入る。「でも発売当時は、『1,000円もする筍ごはんの素なんて、どこで売れるのか』と言われました」と長谷川さんは振り返る。しかし次第に口コミでそのおいしさが広がり、大方の予想に反して大きな評判を呼ぶこととなった。
 「一番人気は『筍ご飯の素』です」と長谷川さん。お米と一緒に炊飯器に入れて炊くだけだが、炊きあがった後にふわっと広がるたけのこの香り、口に入れた時の食感や味は加工品とは思えない。
 味はもちろん、パッケージにも工夫を凝らす。香り高い味わいを楽しんでほしいという思いから、商品ブランドとして「薫筍(たかうな)」と命名。「月」をあしらったデザインにも、長谷川さんのこだわりが反映されている。

逆境に負けず、将来を見据えて開業したカフェ

 朝掘りたけのこ、各種加工食品ともに絶大な人気を誇る香月庵だが、近年は幾度も厳しい状況に直面してきた。数年前に京都府南部エリアを襲った集中豪雨で、自家山の竹林が甚大な被害を受けたことは記憶に新しい。いくつかある竹林のうちの一つは、竹が根こそぎ倒れてしまい、再びたけのこを栽培できるようになるまでには数年かかるという。
 その被害からようやく立ち直ろうとした矢先、新型コロナウイルス感染拡大に直面。その影響で、土産物店や観光センターなどで販売している加工品の売上は大打撃を受けた。
 そうした中で将来を見据えた新しい事業として挑戦したのが、カフェ「unknown cafe 香月庵」の開業だった。200年以上続く家業のたけのこ農家と、たけのこを使った加工品の販売、そして第三の事業として、ご息女がカフェの運営を担う。
 「うちのたけのこを愛してくださったお得意様をこれからも大切にしていきたい。その上で、将来につなげていく道も探していきます」。長谷川さんは決意も新たに、力強く前を見据えている。