京都府商工連だより
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韋城製作所

顧客への思いを原動力に、次世代へとたすきをつなぐ

株式会社 韋城製作所 専務取締役山本 真也
 京丹後市で鍛造業を営んできた韋城製作所の大きな特徴は、事業のもう一つの柱として精密部品加工部門を有するという全国的にも珍しい事業構成にある。さらに昨年度、新たな展開に向けて工場を新設した。「地域への貢献」を最終目標に掲げ挑戦し続ける専務取締役の山本真也さんにお話を伺った。
株式会社 韋城製作所
〒627-0014 京都府京丹後市峰山町四軒20-2
TEL:0772-69-1139 FAX:0772-62-2055
http://ijyouforge.jp/

金型製作の技術を活かし精密部品加工部門を確立

 全国でも200社余りと言われる鍛造業者。淘汰が進むなかで韋城製作所は、チャレンジを繰り返すことで成長し続けてきた稀有な存在だ。
 変革の始まりは1962年に遡る。まずは初代山本計之助氏が、戦前に始めた鋸の製造販売から鍛造に転じた。また2005年には、2代目である代表取締役山本正氏が、初代の時代から自社で行ってきた鍛造金型製作のノウハウを活かし、精密部品加工業に本格参入。京丹後市赤坂工業団地に工場を新設し営業に奔走した結果、ほぼ100%を占めていた主要取引先の売上構成比を約50%前後にまで低減させ、顧客基盤の安定化に成功した。正氏の息子であり、営業担当としてその立役者となった山本真也さんは、「初代から受け取ったたすきをつないできたから、今の当社がある」と振り返る。
 現在の赤坂工場には、業界でも高精度・高品質を実現することで知られるブランドの設備がずらりと並ぶ。およそ中小企業では見られない光景だ。「普通なら思いとどまるような投資に踏み切ったのは、父の『顧客に喜んでもらいたい』という思いから。この設備があるからこそ受注に至る案件も少なくなく、多品種少量生産に特化する当部門の強みの一つとなっています」と、山本さん。顧客満足を最重視する姿勢が、たすきをつなぐ原動力となっているといえるだろう。

中物・中ロットの鍛造に対応する森本工場を新設

 もう一つの柱である鍛造部門が手掛けるのは、熱間型打鍛造加工と呼ばれるものだ。材料を常温に近い温度で加工する冷間鍛造とは異なり、丸材料を約1250℃で加熱し、鍛造金型上でプレスにより加圧する。複雑形状に対応可能で、金型や製品の割れの可能性を減らすことができ、強度にも優れているのが特徴で、車のエンジン部品をはじめ生命に関わる重要部品の製造における需要は高いという。
 そして2017年、この鍛造部門は新たな展開を迎える。さらなる伸長を目指し、今度は山本さん主導のもと、京丹後市森本工業団地に鍛造工場を新設したのだ。「鍛造加工を行う本社工場、超精密切削加工を行っている赤坂工場ともに手狭となり、顧客の要望に応えられなくなってきたことがきっかけです。これまで製品重量300gまでの小物・小ロットを得意としてきましたが、森本工場では、今後需要拡大が見込まれる1〜1.5㎏の中物・中ロットの生産体制を構築します。また新工場を拠点とし、難加工材や新素材の加工技術の研究開発にも取り組んでいく予定です」

商工会のサポートを受け思い描くビジョンを形に

 山本さんが工場の新築を思い立ったのは、約2年前。大規模な投資となるため、自治体による支援策を利用したいとの思いはあったものの、どのように進めていけばよいのかがわからなかったという。
 そんな山本さんを支えたのが、京丹後市商工会だ。「ビジョンはあっても、形にできる人とできない人がいます。また特に中小企業の場合、すぐそばに助言をくれるスペシャリストがいるとも限りません。そんな時、最も信頼でき、相談しやすいのが商工会ではないかと思うんです」。商工会のアドバイスのもと、工場新設に伴う設備投資や新規雇用に対する補助金など各種支援への申請書を作成した。目標は、製品として完成するまでの全工程を自社に設置すること。「発展していくことで、地域貢献につなげたい」と力強く語る山本さんの挑戦は、これからも続いていく。

手探りでスタートした精密部品加工部門

 精密部品加工部門では、2005年の立ち上げ時から多品種少量生産を手掛けてきた。しかし、それまで自社の金型しか作ったことがないため、当初、受注可能か否かの判断材料は、「これならできるだろう」という予測のみ。一品ものが多く、1個分の材料しか仕入れていないにも関わらず、失敗してしまうこともしばしばだった。材料調達のため、周辺の同業者に片っ端から電話したこともあったという。
「どこへ行けば材料を譲ってもらえるのか、仕入マニュアルまで作っていたほどです。万が一のことがあっても納期に間に合うよう、2個分の材料を仕入れることもありました。『そんなことをしていたら意味がない!』と言う父をなだめながら地道に注文をとり、加工技術を蓄積してきたんです」。
 その技術は韋城製作所の財産にほかならない。しかし山本さんは、すがすがしい表情でこう話す。「受注は増加傾向にあります。苦労した分、当初は盗まれたくないという思いが強かったのですが、今はこの技術を共有し、協力してくれる企業を探しているところです」。
 地域貢献への第一歩を踏み出す日は、そう遠くはないだろう。

受け継がれる「顧客に喜ばれたい」という思い

 山本さんが韋城製作所に入ったのは、精密部品加工部門設立時。まったくの異業種からの転身で、「茶髪で、赤い眼鏡をかけていた」と笑うが、入社して数年後には京丹後市商工会のサポートを得ながら夜な夜な助成金の申請書作成に取り組むなど、精力的に動いてきた。その原動力を問うと、こんな話をしてくれた。
 「入社してすぐに、ビジネス交流フェアに出展したんです。そんないでたちだったから目立ったのか、商談の機会をいただき、受注に至りました。何もつながりがなかった企業と新たに出会い、広がっていく。誠意をもって対応することで、喜んでいただける。不思議な感覚に包まれながらも、とてもうれしかったことを覚えています」。
 以来、毎年ビジネスフェアに出展し続けている。そこでのマーケティングをもとに、中物・中ロットの生産体制の構築を決断した。顧客の満足を第一としてきた韋城製作所の精神は、着実に受け継がれているようだ。

従業員が幸せになれる会社を目指して

 そんな山本さんが重視するのは、「顧客の幸せ」だけにとどまらない。「従業員に『ここで働いてよかった』と思ってもらえるような会社、授業員が自分の子どもをここで働かせたいと思うような会社をつくらなければ駄目」というのが持論だ。
 新築した森本工場は、そうした思いをコンセプトに設計されている。防音対策として壁面に吸収材を採用するとともに、プレス機械の下には最新のドイツ製の防振設備を設置。作業者が一切揺れを感じない、働きやすい環境を実現した。
 「魅力ある会社になれば自ずと雇用が生まれます。そうして事業拡大を進められれば、結果として地域に貢献できるのではないかと考えています」。
 森本工場の建屋は二棟あり、もう一棟には鍛造加工ラインが敷かれた。将来的にはもう一棟、鍛造後の機械加工専用の建屋も設ける予定だ。「地域貢献について具体的に語るのは、思い描く会社になってから」と力強く語る山本さんの気概に期待したい。