障がい者がイキイキと働き、自立できる環境づくりに尽力
障がい者を雇用し社会参画と自立を支援
株式会社アクスは、1986(昭和61)年の設立時から障がい者を積極的に雇用し、障がい者の社会参画と自立を後押しする環境づくりに尽力してきた。現在も29名の従業員のうち20名を重度を含めた障がい者が占める。
「事業のために障がい者を雇用するのではなく、障がいを持った人たちが働きやすい事業をつくることが第一の目的です」と語るのは、代表取締役の山田 裕さん。「当社が30年間続けてこられたのは、この姿勢を貫いてきたから」と断言する。非鉄金属のスクラップの選別・卸売事業から始め、ビンや缶、ペットボトルのリサイクル業へと事業を転換。次なる事業として目をつけたのが、循環型農業だった。まずは山田さん自ら循環型農法のノウハウを習得し、ハウスや資材を借りてトマトの栽培からスタートした。
農業に参画し栽培キットを開発
「実際に農業を始めてみると、いくつかの課題が見えてきました」と振り返った山田さん。無農薬の有機農法は虫がつきやすく栽培が難しい。加えて微生物が活性する土は臭いも強く、ハウス内での農作業は快適とはいえない。そこで山田さんは、それらの課題を克服するべく自社での資材開発を思い立つ。着目したのは、フルボ酸という土壌に存在する有機酸の一種。アクスでは、国産の腐植土を生産する原料メーカーの協力を得てフルボ酸入り液肥を開発するとともに、腐植土と複数の有機資材をブレンドしたオリジナルの培養土、さらに発泡スチロール製の栽培ボックスを製造。誰でもどこでも野菜を栽培できるシステムを完成させた。「フルボ酸入り液肥を入れると、生育がよくなるだけでなく、おいしい野菜ができることも実証しています」と山田さんは説明する。
アクスでは、この「野菜栽培ボックスキット」を障がい者施設や高齢者施設、企業、保育園などに向けて販売を開始。「狙いは、さまざまな場所に障がい者の就労機会を生み出すことですが、その他、高齢者のレクリエーションや園児への教育にも活用できると考えています」と言う。
商工会の後押しで自社の強みを再認識
「さらに「野菜栽培ボックスキット」の知名度向上のため、一般家庭で簡単に育てられる京野菜栽培キット「TODAY VAGE」も開発した。小さな植木鉢程度のフェルトポットや信楽焼陶器で簡単に京野菜を育てられる。2016(平成28)年、東京で開催された展示会に出展したところ大きな反響を呼び、ホームページに続々注文が舞い込んでいる。「“TODAY VEGE”を名刺代わりに知名度を高め、野菜栽培ボックスキットの販売を拡大したい」と山田さんは意気込む。
こうしたアクスの挑戦を後押しするのが、宇治田原町商工会だ。「補助金などの情報提供や申請書類作成のアドバイスをいただいたり、京都府商工会連合会の首都圏での商談会に出展する際に推薦していただいたりと、手厚いサポートに助けられています」と山田さん。とりわけ商工会に勧められ、京都府から「中小企業新事業活動促進法」に基づく「経営革新計画」の承認を受けたことが、自社の経営を見直す好機になったと話す。「障がい者雇用が当社の最大の強みだと再認識できた」と山田さん。これからも障がい者雇用を主軸に誰もがイキイキと働ける職場づくりに取り組んでいく。
スクラップ事業からペットボトルのリサイクル事業へ
非鉄金属のスクラップの選別・卸売事業からスタートした株式会社アクス。当初から障がい者雇用に積極的だったが、企業に対して一定割合の障がい者を雇用することを義務付けた「障害者雇用率制度」が制定されるのは、1997(平成9)年のこと。
「それより10年以上前の当時は、障がいのある人を雇用することに対して、お客様はもとより社会の理解も低く、金融機関から融資を受けるのにも苦労しました」と山田さんは振り返った。
障がい者雇用の推進に光明が見えたのは、1998(平成10)年、城南衛生管理組合の委託事業として、ビンや缶、ペットボトルのリサイクル事業を受託したことだった。
「従業員の3分の2がこの事業に従事できたおかげで、一人の解雇者も出すことなく、今日まで企業を存続させる礎を築くことができました」と山田さん。2010(平成22)年、施設も含めてリサイクル事業を全面受託したのを機にスクラップ事業からは完全に撤退した。
障がい者雇用と収益性を実現できる農業に注力
さらにその数年前、新たな事業として着手したのが、循環型アグリ事業だった。非鉄金属のスクラップやペットボトルのリサイクルといったそれまでの事業とは一見かけ離れており、唐突な新規参入のようにも思える。しかし山田さんは「実は、『物質循環』に関わるという点では同じ」だと言う。「それまで無機物を循環して有効活用してきたのに対し、今度は循環型農業を通じて有機物をリサイクルできたらと考えたのです」。
畜産や農業で出る廃棄物などの有機資源を使って農産物を生産する「資源循環型農業」は、環境に優しいだけでなく、収穫した有機野菜を高付加価値商品として販売することで収益も見込める。
加えて「農業は障がい者の自立にも適したビジネス」だと山田さんは農業に着目した理由を語る。
「障がいの程度が多様でも、自分の能力に応じてそれぞれが農作業に取り組むことができます。また他者とあまり関わらず、一人で黙々とできる農作業は、知的障がい者だけでなく、精神障がいのある方でも比較的取り組みやすい仕事だとわかりました」。農業は、収益性と障がい者雇用の両方を実現できる非常に有望なビジネスだというわけだ。
障がい者雇用が地方創生・地域活性化の底力になると信じて
現在、自社の敷地内に設けられた2棟のビニールハウスでは、「野菜栽培ボックスキット」用に、さまざまな野菜を試験栽培している。また依頼を受け、フルボ酸入りの液肥を使って種々の植物の試験栽培を行うこともあるという。さらに最近ではフルボ酸入り液肥を使った稲作も始めた。
「当社で開発したフルボ酸入り液肥を用いると、野菜の糖度が高くなる上、葉野菜で嫌われがちな『えぐみ』や『苦み』も軽減されます。野菜嫌いの子どもも食べられると、ご好評をいただいています」と山田さん。
近年、農業を福祉の現場に取り入れる農福連携の試みが活性化しており、農林水産省も知的・精神障がいのある人の農業分野での就労を支援する政策を次々と打ち出している。「こうした社会の潮流にこれまでの経験やノウハウを生かせれば」と山田さん。自社だけでなく、地域社会全体で障がい者雇用を推進することが、地方創生や地域活性化にもつながっていくと信じている。