「新しい挑戦が織物産業全体の生き残りにつながると信じて
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高い技術で西陣織の帯地を手がける
丹後ちりめんで名高い絹織物の産地・京丹後で、機織りを生業とする「機屋(はたや)」を営んできた養父織物。当初は和装のコートなどの生地を織っていたが、現代表の養父孝昭さんの父親にあたる先代が、他に先駆けて京都・西陣の先染めの帯地を織る事業を軌道に乗せたことで急成長を遂げる。1964(昭和39)年からは、代行店として「出職(でばた)」の協力も仰ぎ、受注を増やしてきた。
しかし近年は織物産業の減退によって厳しい経営環境が続いていた。そうした苦境を脱するべく、2008(平成20)年に事業を引き継いだ養父さんは、事業の転換を決意する。「量産から高度な技術や手間の要する『一点もの』や上級品の小ロット生産へシフト。出機を減らし、内製へと事業形態を変えました」。自社工場を建てて、力織機を再導入。現在は14台にまで増やしている。
金糸や銀糸、その他多様な素材の糸を用い、緻密で豪華な西陣織を織り上げるには、織る技術はもちろん、素材ごとに糸の張り(テンション)を調整するなど力織機をセッティングする技術も欠かせない。「こうして培ってきた技術と経験が高品質の商品作りに役立っています」。
斬新な発想で自社商品を開発
加えて、養父織物が同業他社と大きく異なるのは、自ら商品を企画・開発し、顧客に提案できる点にある。その代表例が「波筬(なみおさ)」を復活させたことだ。「波筬」は西陣に代々伝わる織技術だが、量産化の波に押されていつしか廃れてしまった。それに目をつけた養父さんは、専用織機を導入し、「波筬」の復活を試みた。「織機の組み立て方すらわからないところからのスタート。手さぐりで織機を組み立て、織機の調整法や織り方をマスターしていきました」。
完成した「波筬」は、波状にうねった横糸の張りの違いから微妙な立体感が生まれ、独特の光沢を放つ。顧客にも好評をもって迎えられた。
養父さんは「『波筬』が売れることはうれしいですが、本当の狙いは、こうした高品質の商品を示すことで、当社の技術力や提案力を知っていただき、新規のお客様の開拓につなげることです」と言う。現在、西陣のメーカーや問屋の他、全国の小売店からOEM生産の依頼を受ける。
「伝統的な織り方や技法でも、新たな発想で組み合わせることでこれまでにない商品を作れるかもしれない。何かアイデアはないかといつも考えています」と養父さん。「波筬」に続いて、「引箔」や「染め抜き」といった伝統的な技法を独自にアレンジした新商品も開発している。
支援のもと生産性向上に取り組む
「既成概念にとらわれず、次々と常識を覆す養父織物のチャレンジを二人三脚でサポートするのが、京丹後市商工会だ。「経営に関するあらゆる相談に乗ってもらっています。新商品を開発するための補助金を得る際にも支援してもらいました」と厚い信頼を寄せる。その他、就業規則や人事評価、産休制度の導入など、労務について相談した際には、ていねいなアドバイスに加え、社会保険労務士などの専門家の派遣も受けた。
さらに現在、経営支援員のサポートを受けながら生産管理の向上にも取り組んでいる。
「糸の準備から織り上がりまでを一人の織り手が一貫して担当するため、これまで社員同士がコミュニケーションを取る機会は多くありませんでした。アドバイスを受けて、全員の業務内容や進捗を貼り出し、業務を『見える化』。情報を共有することで職人同士の助け合いが生まれ、生産性が上がりました。加えて月2回ミーティングの時間を設けることで、協力し合う雰囲気はいっそう高まっています」と養父さん。
その他、社内はもちろん社外でも職り手の育成に力を注ぐ。その胸には、「自社の成長を通じて関連産業を含めた織物産業全体の存続に貢献したい」という高い志を秘めている。
伝統の技を組み合わせ、新たな商品を考案
「波筬」に続く商品開発にも熱心に取り組む養父さん。京丹後商工会の後押しを受け、平成26(2014)年度、27(2015)年度に連続して国の「小規模事業者持続化補助金」を獲得し、新たに二商品を開発した。
その一つが、伝統的な丹後ちりめんの製造で用いられる「染め抜き」の手法を生かした「織染帯」だ。「染め抜き」とは、色を染まりにくく加工した「先練り」糸で織ることで、下生地の色で「白」を表現する手法。織り上げた生地を染色すると、先練り糸で織った部分だけ色が染まらず、柄が白く浮かび上がる。通常、織ってから染める「染帯」は単色のため、色彩を加えたい場合は、多彩な色の糸で織る「織帯」にするしかない。
養父さんが考えついたのは、「染め抜き」の手法に「織り」の技術を組み合わせることだ。試行錯誤の末に完成した「織染帯」は、「染め抜き」で立体的に柄を浮かび上がらせつつ、グラデーションで色彩の変化も表現されている。
また金糸や銀糸を織り込む「引箔」の技術を大胆にアレンジし、多彩な色を「引箔」の手法で織り上げた新商品も開発。どちらの商品も、これまでにない色づかいや模様が顧客を驚かせた。
商品開発力と提案力で下請け業社からパートナーに
こうした商品開発力は、養父さんの熱意と努力の賜物だ。代行店としていくつもの出織をまとめていた事業を転換し、自社工場を建設して内製中心に切り替えた時、力織機について徹底的に勉強した。
「織物に合わせて糸のテンションなどを調整するためには、織機の構造や扱い方を熟知しました」。
それだけでなく、養父さんは織物の素材や織り方にも精通していく。絹糸から金銀糸までさまざまな素材に加え、多種多様な織物の種類、織物の図案を写し、型紙の役割を果たす「紋紙」の作り方など、自社が請け負う仕事のみならず、すべての製造工程についても知識を深めた。こうした知識が、新商品の開発や顧客への提案の際のアイデアの源泉になっている。
「例えば紋紙の知識があれば、お客様から商品の図柄を見せられた時、『この図柄なら、この織り方の方が美しく効率的に織れます』とか『この織り模様の美しさを際立たせるなら、デザインをもう少しシンプルにした方がいい』などと、こちらから提案することができます。そうしてメリットを提供することで、下請け業を脱却し、メーカーと対等な『パートナー』になりたいと考えています」と語る。
最近は、製造の知識を持たない西陣の若い経営者から「教えてほしい」と請われることが増えてきたという養父さん。それが新しい事業の可能性も生んでいる。
「お客様であるメーカーの製造現場で、製造や管理、人材育成などのノウハウを提供してほしいという依頼を受けました。今後は、そうしたソフトを提供することも考えていきたい」と展望する。
調達先、販売先のネットワークを全国に広げる
「織物産業は分業がはっきりしています。自分だけが儲かっても、糸を供給してくださる会社や、染色業の方など、関連産業なしに事業を存続させていくことはできません」。
そう語る養父さんは今、高齢化などで織物関連企業が減少する京丹後地域だけにこだわらず、全国に視野を広げて糸の調達や染めを依頼できる取引先のネットワークを広げている。「物流や通信網が発達している現代は、調達先も販売先も、全国にあっていい。時代に応じて販売先や販売方法も新たに探していきたい」。
今後さらに養父織物の強みである高付加価値商品の小ロット生産を伸ばしていくために、自社でも織り手の雇用・育成にも注力する。毎年若手人材を積極的に採用するとともに、織機の使い方や織り方を一からていねいに指導し、職人に育て上げる。「3年後をめどに織り手を現在の8名から10数名に増やすとともに、力織機の調整も手がけられる人材を育てたい」と展望を語る。
職人の技術力と豊富なアイデア、高い意欲で養父織物は前進し続けていく。