1996年、O-157(腸管出血性大腸菌)による大規模食中毒が続発した。厚生労働省は急遽、給食センターで作った献立サンプルを保存するための検食容器の開発を国内の業者に要請。同社も取引先3社と協力しそれに対応した。作れども作れども、商品が追いつかない状況は、食の安全に対する世間の関心の高さを現していた。同社にも同年に導入されていたHACCP※対応の食器などの要望が数多く寄せられ、「環境ホルモンといった容器からの化学物質の溶解など、食品容器の安全が重要視されていることを強く感じました」という。そのとき頭をよぎったのは、かつて会社を倒産に追い込んだ化学物質の流出事故。当時を振り返り、同氏は強い危機感を感じた。同時に「給食用食器」という「食の安全」を守るべき立場に強い責任と使命感を感じた。そして直ちに食中毒を未然に防ぐための輸送食缶の開発に着手した。試行錯誤を繰り返し、独自の技術で食品の温度を65度以上で2時間キープし、品質を維持する二重構造の蓋付き食缶を開発。実用新案権を取得した。また行政の要請を受けてこの食缶の改良に着手。保温性と耐久性をさらに向上させたステンレス製の角型食缶を生み出した。大規模食中毒に対応したこの製品は、大量給食の現場で広く普及し同社の主力製品になった。