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サクセスリポート  

■株式会社 京都庵
〒620-1313 京都府福知山市三和町下川合37番地の4
TEL.0773-58-3366 FAX.0773-58-3766
 産業廃棄物―それはいずれの企業にとっても、日々頭を悩ます問題だ。この問題に真正面…、否、少し変わった独自の視点で取り組んだ会社がある。 最終的に、原料のリサイクル率90%という脅威の数字を達成するが、その成功のキーは意外や身近なところにあった。 株式会社京都庵で工場長を務める、梶川尋正氏にお話を伺った。
 
 
 緑豊かな山々に囲まれた、丹波地方の中心部で、いなり寿司などに使う「味付けあぶらあげ」を手がける株式会社京都庵。同社の設立は今から16年前。コンビニエンスストアの増加による弁当市場の拡大を機に、親会社である大阪の食品製造会社が全国進出を決断。日本全国の地域に上質な味を提供するため、京都に生産工場を設立したのが始まりだという。当初より親会社の一工場ではなく、独立採算させるためのグループ企業として設立された同社が、主力としたのが「油揚げ」と「豆腐」。豆腐作りに欠かすことのできない、美しい地下水に恵まれたこの土地が選ばれたというわけだ。
 
 設立以来、順調に業績を上げた同社だったが、8年目に主力商品の信用を失いかねない事件に見舞われる。スーパーに卸していた豆腐のパッケージに不備が相次いで発覚。事件がマスコミに大きく取り上げられてしまったのだ。情報は瞬く間に全国に広まり、社を揺るがす事態に発展。食中毒や大手企業による賞味期限の詐称事件など、食品に関する事件が相次いだ背景もあり風評はどうすることもできず、苦渋の決断で「豆腐」の生産を中止し、主力商品を「油揚げ」に一本化した。
  さらに、大豆を煮ることで出る多量の工場排水や廃棄物等の問題も切迫した状況に追い討ちをかけていた。三和町は、農業、林業、畜産など美しい自然を生かした事業が主産業である。この排水などの環境問題は、地元産業の根幹を揺るがすものとして、地域から大きな反発を買っていた。
  工場長の梶川氏が現職に就いたのは丁度この頃だった。製造現場で指揮を執った同氏は「製造現場からの抜本的な改革」の必要性を感じたという。「商品は自然の恵みを享受して作られるもの。折角、この美しい自然のなかで、お客さんに喜んで頂ける商品を提供しようと社を立ち上げたのに、このままでは取り返しのつかないことになる」と打開策を模索していたところ、ある大学が排水を浄化させる新薬を試すモデル企業を募集しているという情報を入手。排水浄化システムの導入には、莫大な予算がかかることを懸念していた矢先のことだったため、藁にもすがる思いですぐさま応募した。その後、一年間の試験期間を経て、工場排水の汚染問題はほぼ解決。この取り組みは、研究成果として公開され、注目を浴びることに。環境に対し、真摯に取り組む姿勢が評価され、社のイメージアップにも繋がった。
 
 次に同氏が取り組んだのは、油揚げを製造する際に出る、廃油と大豆の絞り粕=おからなどの産業廃棄物の問題だ。順調な業績の伸びに比例して、廃棄物の量は増加する一方。日々、捨てられるだけの廃棄物を眺め、同氏は「もったいない」と感じていたという。そして「捨てるのではなく、有効活用する道はないのだろうか?」と考えた。
  そんな時、かねてより交流のあった地元の畜産家から「家畜の飼料におからを使う」ことを聞いた。瞬間「これだ!」と思った同氏は、早速地元の畜産家におからの無償提供を持ちかけた。さらには廃油もディーゼル燃料として、再生利用することに。地元の農業家に安価で提供していたが、この取り組みは突如中止に追い込まれることに……。廃油の販売などに関する廃棄物処理法に引っかかってしまったのである。折角の取り組みを無に帰さないため、ディーゼル燃料は廃油石鹸として活用。おからは農協経由で販売することにした。油揚げの切れ端を刻み揚げ用に転用するなど、これをきっかけに社内からもさまざまなアイデアが出るようになった。地道な取り組みが功を奏し、原料のリサイクル率はなんと90%にまで到達。この地元に密着した環境への取り組みは、さまざまなところから評価を得て、「安全な食」を提供する同社の信頼に繋がっている。
 
 同社は現在、大手を始めとする国内ほとんどのコンビニエンスストアに商品を納品している。主力は「助六」のいなり寿司用の油揚げだ。同社の油揚げが全国に広まった理由は、手がける油揚げの味や形状のラインナップが豊富なことに尽きる。その数約40種。その中でも拘るのが、味。全国各地への営業を通し、味の嗜好は5つに大別。濃い味、薄い味、甘めの味……。その秘密は、醤油の味だという。東北、関東、九州、関西、四国でそれぞれに使われる醤油の味が違い、その地域にあった醤油こそ、その地域の人々が馴染んできたおふくろの味だからだ。味をつけた油揚げを使ういなり寿司は、地域の味でなければいけない。だからこそ、醤油の味が決め手になるのだ。
 また、コンビニの商品ならではの、商品サイクルへの対応も同社の強みだ。コンビニエンスストアで置かれる弁当は、年間で大体3回商品のラインナップが変わる。顧客の嗜好は、少しずつ変化している。今どんな味が好まれているのか?次は何が求められるのか?その日々の地道な研究が、安定した納入を支えている。食の安全と環境への取り組みで得た信用、求められる食品を提供するためのたゆまぬ努力が結実し、今の成長に繋がっている。
 昨今、企業に対する食の安全や環境に対する取り組みはさらに求められている。企業の大小に関わらず、「取り組みにくい課題」と及び腰になりがちな問題だが、同社のインタビューを通して、視点を変えて取り組めば、打開策は身近にあるのかも知れないと感じた。同社の今日の成功は、どこよりも早く真摯にこの問題に取り組んだからこそ。そこから得た経験値により、強い組織力を持つ会社に成長したのである。

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