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サクセスリポート  

■丸久番茶舗
〒610-0255 京都府綴喜郡宇治田原町郷之口田中5
TEL.0774-88-2129 FAX.0774-88-5880
 京都が誇る名産・京番茶。深く炒ぶしたような香りと、清涼感のある香ばしい風味は、京都人にとって子供の頃から慣れ親しんでいる味わいだ。そんな京番茶を、茶葉作りから加工に至るまで、昔ながらの手作業で一貫して行うのが、茶作りの里・宇治田原町にある丸久番茶舗である。小西健一郎氏は、創業60年を越える同社の2代目。家業を引き継ぎ、茶作り一筋に歩んできた同氏が、この番茶を使った画期的な「お香」の開発を着想したきっかけは今から15年前、母親の介護を通してのことだった。
 
 
 介護生活において生じるにおいの悩みは、介護する方、される方にも避けては通れないことである。落ち込む母親を元気付けるためにも、解決策はないかと考えていたところ身近な番茶の効能に辿り着いた。「昔は日常生活の中で、煮出したあとの茶ガラを、タンスや靴箱の消臭に、また魚の臭みを取るための下茹でなどに使っていました。それを思い出し、これは活用できるんじゃないか!と思いまして……」試しに、茶製造の折に出る番茶屑を室内で燻したところ、予想を上回る効果が上がった。居室に残る香ばしい茶葉の香りに、和らいだ母親の表情。目にした同氏は、秘められた効能に驚くとともに、「同じような悩みを抱える人たちにも、教えてあげることができれば」と強く感じたという。また、かねてより番茶屑をそのまま破棄するのを勿体ないと感じていたこともあり、この体験を機に、番茶の消臭力を生かした商品を作り上げることを決心した。
 
  当初から誰もが手軽に、番茶の効果を実感できる商品を作ることにこだわった。悩んだ末に着目したのが、癒しブームで注目されていたお香である。「同じ煙の力を活用するという点でも応用しやすく、しかもお香は良い香りを楽しむだけのもの。消臭という効果をプラスすれば、これまでにない商品ができるに違いない!」早速、同氏は独学で香の作り方を学び、開発に着手。一般的な香と同じ方法で製造を試みるものの、主原料となる“番茶”の十分な効果を発揮できずに頭を悩ませた。試行錯誤を繰り返し、1000を超える試作品を手がけた結果、ついに茶葉の効力を十二分に発揮できる製法を発見。約1年半もの歳月を費やした完成品は、なんと成分の99%が天然の番茶。化学薬品は一切使用せずに、極めて高い消臭効果が期待できる秀作に仕上がった。
 
 次に取り組んだのはお香のデザインである。親しい取引先に試作品として提供したところ、「スティック状の形が線香のようで……」と形状を指摘する声が相次いだ。「効果さえ良ければ見た目は関係ないと思っていた。手にとって貰うためには、使いたいと思わせるような、外見の印象も大切だということに初めて気が付いた」という。そこでアロマ系のお香で人気の高い「コーン型」に改良。その後もさまざまな人のアイデアを取り入れ、ようやく商品化にこぎつけた。完成品は孫の名に因み、「美月香」と名付けた。美月香の評判は口コミで徐々に広がり、ついには大手新聞社に取り上げられるまでに。商品は一躍全国区になった。やがて数多の大手企業も安易に参入を許されぬ、宇治の平等院から、みやげ物として販売したいというオファーを獲得する快挙を達成。だが喜びもつかの間、販売は伸び悩んだ。同氏は早速バイヤーに相談し原因を追究。商品単価の高さが客を敬遠させていた。土産の平均予算は一つ500円前後。美月香は1個1000円だった。「せっかく商品を手にとって貰えるチャンスを無に帰すことはできない!」早速、同寺でみやげ用として販売する少量パッケージの生産を開始。販売数は徐々に伸び、好調な売れ行きを記録している。

 身近な生活の知恵からアイデアを創出し、生み出された美月香。人の暮らしを豊かにしたいという“心”が込められた、地域の小さなイノベーションは、多くの人々の癒しとなるに違いない、と感じることができた。
 
 

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