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サクセスリポート  

丹後のじざけや 松栄屋
〒629-3241 京都府京丹後市網野町木津415-1
TEL.0772-74-0058 FAX.0772-74-1405
 京都府の北端に位置する京丹後市網野町。日本海沿岸の小さな町に、地元丹後の地酒を専門に扱う酒販店「松栄屋」はある。入手困難な希少な酒や、古酒を含む豊富な地酒の品揃えと、蔵元との連携により実現した種々の取り組みで注目される。同店の創業は昭和10年。祖父が「よろずや」として店開きしたのが始まりだった。
 
 
 丹後半島は古くより、酒造りの盛んな地域である。しかし橋本氏が地酒の魅力に魅せられ、地酒に特化した店作りに着手したのは、7年前に店を継いでからのことだった。「日本酒自体に馴染みがなかったので、お酒の勉強からのスタートだった」と語るように、最初の3年は店の経営よりも地元の酒を始めとする日本各地の酒について研究する日々が続いた。
 30代半ばでの転職と継承。酒販店経営のノウハウはなく、どのような酒を揃えれば顧客に喜んでもらえるかも分からない。地道な努力を支えたのは、「店を潰したらあの世の祖父に顔向けができない! 」という情熱だ。そして辿り着いたのは、これまで知らなかった驚くべき日本酒の旨さと奥深さだった。 「甘さや辛さ、清涼感、コク、種々の香り…酒蔵や杜氏、そして地域ごとの水や酒米。日本酒には、酒蔵ごとの個性があったんだ――」多くの人々は、自分のように本当の日本酒の美味しさを知らないのではないだろうか? 同氏の脳裏に、そんな疑問がよぎった。そして気付いたのは、消費者が本当に旨い酒に巡りあう場がないことだった。 「消費者に酒を売る窓口の大半は地域のスーパーや酒販店ですが、市場で凌ぎを削るのはいずれも大手メーカーの酒ばかりという現状です。大量生産、大量消費の手ごろな価格の酒を消費者が購入してしまうのは、日本酒の魅力を理解して売ってくれる人がいないこと。実際、私が酒を購入するときにも、この酒が欲しい! そう思わせるような接客をする店はなかった」。蔵元がどれほどいい酒を作ったとしても、それを伝える人がいない、そしてその良さを理解して売ることができる酒屋も少ない。
 同氏は日本酒業界が抱える問題に直面し、改めて自らの故郷に目を向けた。今更ながらに地元の酒造りの文化に深い愛着を感じ、より強く切実な現状に気付かされた。このままでは皆に本当に旨い酒を届けることはできないばかりか、地域の素晴らしい文化が消えてしまう可能性もある――。同 氏は、地酒の魅力を消費者に伝え、地域の誇るべき資産を守るのが自店の使命であると行動を開始した。

 
  丹後には現在12の酒蔵があり、実に400種以上の銘柄が造られている。同氏は足繁く地域の酒蔵に通い、蔵の代表の酒造りに対する想いやこだわり、知識の深さ、酒の特徴を学んでいった。そして銘柄ごとの酒の原材料や造り手、酒にこめられた蔵元の想いを、接客を通して伝えていった。さらに言葉だけでは伝えきれない、酒の繊細な風味を伝えるために試飲を取り入れるなど、蔵元との交流で得たアイデアを次々に導入、地酒の魅力を伝えようとする同氏の奮闘は、徐々に顧客の心を掴んでゆく。その甲斐もあり、蔵からの信頼も揺るがないものになり、やがてその年の酒の特徴や仕込みの話をいち早く入手できるほか、年間生産量が数十本の希少種、蔵に眠る貴重な古酒を優先的に入手できるまでに。一方、松栄屋からは現場での顧客のニーズなどを蔵にフィードバック。双方の連携は、造りや味、そしてラベルデザインなど商品開発にも広がっていった。

 
 酒を媒体にしたネットワークは、地元の酒を愛する人々で集う異業種交流の会“酒々人々”の創設に繋がった。丹後の酒蔵や酒販店、農家、旅館、クリエイターがアイデアを出し合い、丹後のこだわりの酒を売り出し、地域の活性化に繋げるという地域再生プロジェクトである。野木武氏による無農薬栽培の酒米で仕込み、ラベルデザイン・販売に至るまで自分達で手がける。
 最後に、同氏は「地域企業の厳しい状況に変わりはないが、個々の経営者が『自分さえ良ければいい』ではなく、その地域を広く眺めた活性化に目を向ければ、きっと良くなる。心ある人達と協力して、地域を活性化させたい」とこれからの目標を語ってくれた。その力強い言葉は、同氏と地域の人々の更なる飛躍を確信させるものだった。
 
 

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