ビジネストレンド京都
サイト検索
         
 
サクセスリポート  

舟屋の宿 鍵屋
〒626-0424 京都府与謝郡伊根町亀島871
TEL. 0772-32-0356
国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている漁村、京都府伊根町。
「舟屋の宿 鍵屋」は、同町に古来伝わる“舟屋”を活用した“漁業体験型民宿”だ。
2009年3月にオープンしてから、すでに根強いファンを持つことに成功した魅力に迫る。
 
 
 ゆらゆらと海鳥が舞う伊根湾の入り江を、縁取るように230軒あまりの舟屋が軒を連ねる。丹後半島の最北端――NHK朝の連続テレビドラマの舞台にもなった、古き日本を思わせる舟屋の町並みだ。舟屋とは、昔は1階が舟を格納するガレージで、2階が漁具等を保管する物置として使われていたが、昭和に入り2階を住居や民宿への利用が増えてきた。海側から集落を眺めると、あたかも水上に浮かんでいるようだ。
 その舟屋を活かした民宿「舟屋の宿鍵屋」を夫婦で営むのは代表の鍵賢吾氏。かねてより故郷で、舟屋や釣りを活かした飲食店を開きたいと考えていたという。起業のきっかけは、商工会との出会いだった。相談を持ちかけたところ「伊根町は観光地として注目されているが、まだ宿泊施設が少ない。舟屋を活かして民宿を開業してはどうか?」という思いがけない提案をされた。鍵さんは「食事はもちろん、移り変わる景色や釣り、そして舟屋の魅力を存分に楽しんでもらうには、ゆっくり時間をかけて滞在できる、宿泊施設の方がいいのではないか」と、民宿の開業を決意した。

 
 民宿を営むにあたって鍵さんが大切にしたことは、背伸びして利用客をもてなすことではなく、ありのままの伊根の暮らしを体験してもらうことだ。そのために、1日ひと組限定で民宿を丸ごと貸しきれるというスタイルにした。
 伝統的な舟屋に宿泊しながら、“田舎のおばあちゃんの家”のような気兼ねない時間が過ごせる。海を眺めながら本を読んだり、釣りをしたり、海の幸を味わったり――伊根ならではのゆったりとした時間の流れを楽しむのだ。「時計の針を気にすることなく過ごせることが何よりの贅沢」と、喜ぶ利用客は多い。都会にある便利なものは、伊根にはない。あるのは海と時間だけだ。そんな、シンプルな暮らしを一度味わうと、伊根ならではの時間の流れに憧れずにはいられなくなるのだろう。

 

 伊根町に訪れるほとんどの人が、初めて目にする舟屋の町並み。今ではほとんど見かけなくなった椎や松の木で建築されており、歴史を感じさせる外観だ。しかし、舟屋の中からの景色もまた素晴らしい。夜明けとともに動き出す漁船、朝日が反射してきらきら光る水面、そして夕焼けに染まる海――。海から最も近い家で、刻一刻と表情を変える雄大な自然を全身で感じることができる。そんな景色を、食堂の大きな窓から間近に望むことができるわけだが、実はこの窓、ベストな状態で室内から海の景色を楽しめる、鍵さんのこだわりが隠されているのだ。
重要伝統的建造物群保存地区にある舟屋を改修するにあたっては、屋根の形状からサッシや窓に至るまで、ありとあらゆるところに細かな規制があり、窓の高さも例外ではなかった。
 しかし鍵さんは“お客さんはこの景色を楽しみたいに違いない!”と思い、あたかも“室内空間が海に浮かんでいるよう”に錯覚させる――最高の眺めを実現するために幾度も協議を重ねながら、このロケーションが実現できたという。利用客の目線に立っているからこそ、捨てられなかったこだわりがあったのだ。「この窓から海を眺めながらのコーヒーは格別」、そんな言葉をもらったという。

 
 利用客に何よりも喜ばれているのは、ずばり都会では味わえない“食の贅沢”だ。「ここでは旬以外の魚介類は獲れても口にしませんし、それだけでなく一番おいしいタイミングで食べてもらえます。例えば甘鯛の刺身であれば、絞めてから4時間後が一番おいしい」。流通の発達により、どこでもおいしい物が食べられる時代だが、食材が最高に美味しい時間にまでこだわるのは難しい。まさに、伊根だからこそできる食の贅沢と言えよう。
 しかし、最高の食材が手に入るからには、最高の食事を提供しなければならないというプレッシャーもある。「私たちは、伊根の漁師の看板を背負っているのだから、他に負けられない。だから素材を活かす研究は欠かせない」と語る。その向上心からは、漁業の町で生きているという責任と、地域への愛情を感じ取れる。

 
 順調に伊根町のファンを増やしてきている鍵さんのこれからの目標は、地元の漁師にもっと良い環境で漁をしてもらうことだという。「伊根町で私たちのようなサービス業が成り立つのは漁師のおかげだと考えています。漁師がいるから、景色・食事・宿ともに最高のロケーションが成り立っている。それが今、魚の価格は私達が子どもの時より下がり、漁をしないほうが良いのではないかという状況です。そうじゃなくて、良い魚が獲れる伊根の海を誇りにして、私たちが適正な値段で買って相応の値段でお客さんに提供する。そして伊根の町を元気にしていきたい」と語る。
 彼らにとっての民宿の成功は、伊根町と漁業が活性化することを意味する。きっと2人の「舟屋の宿」が、伊根町の魅力を引き出し、“観光地・伊根”のさらなる発展へと導くだろう。


このページのトップへ

 

 

Copyright (c) 2002-2011 京都府商工会連合会. All Rights Reserved.