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サクセスリポート  

■有限会社 岩本製作所
〒610-0343 京都府京田辺市大住池ノ端45-9
TEL.0774-65-3999 http://iwamoto-mfg.jp/
 2009年12月、関西の地元企業を集めた展示会「第8回元気企業ビジネスフェアNANTO」でひと際注目を集めたブースがあった。京都府京田辺市にある「有限会社 岩本製作所」。業務用プリンターで使用されるリボンカセットの受託生産が中心事業の同社だが、注目を集めた展示品は、柔らかな樹脂でできたカラフルなノベルティグッズだった。
 
 
 有限会社岩本製作所は、旋盤加工技術でネジを生産する鉄工所として1967年操業を開始した。取締役・岩本俊樹氏は、創業者である父・正昭氏より後を継ぎ現場を取り仕切っている。現在、中心事業はプリンター用リボンカセットの受託生産であるが、目を引くのは「各種樹脂成型、シリコンルアー加工、消臭剤製造・販売」と主力事業とは一風異なる多種多様な業務内容である。「中小企業、特に製造業が不況と言われる中で、苦難を乗り切ってきた背景は、この変幻自在の事業沿革にある」
 同社は創業以来、生産する製品を様々に変化させながら成長を遂げてきた。プラスチックやアクリルの加工、ビデオやゲームソフトケースのフィルムカバー溶着、LED部品製造、時にはバレンタインチョコの包装や消臭剤の製造も行ったという。現事業は手掛けてきた製品の一つである、タイプライター用のインクリボン製造から応用発展させたものだ。
 多彩な製品展開に感嘆の念を禁じえないが、これまで積み上げたものをガラリと変える時、そこに伴うリスクや恐さを感じなかったのだろうか?
 「いかなる製品でも、時代の流れで必ず流行り廃りが出てくる。何か起きた時のためにいつも準備をしています。ベースがあればなんでもできる」と同氏は語ってくれた。それぞれ何のつながりも無く見えるのだが、鉄工所時代の旋盤、溶着技術や既存の設備が土台にあり、その応用で製造できるものにアンテナを張っているという。
 「先代が現役のころから、特定のものを作ることにこだわりはなかった。しかし、仕上がりには人一倍こだわった」。そんな父の姿を小さな頃から見てきた俊樹氏には、柔軟な姿勢の中でも、確かなものづくりを行う同社のDNAが自然と体に染み込んでいたのだろう。己の強みを理解した上で、どんな形にも姿が変えられるフレキシブルな企業体質こそ、変化の速い時代を生き抜いてきた証である。

 
 変化への柔軟性と対応力で、さまざまな局面を乗り切ってきた同社だが、2006年、さらなる新展開に繋がる転機が訪れた。
 主力製品のプリンター用リボンカセットの製造方法が時代に合わなくなってきたのだ。同製品は生産コスト削減のため、メーカーが生産拠点を海外移設し始め、また本体機種の多様化も進み、多品種少量生産や納期の短期化が求められるようになってきていた。当時、同社では7人の作業員が3日間で1000個をまとめて製造する工程を採用していたが、それでは対応できなくなってきたという。
 商工会から現場改善アドバイスの話が来たのは、ちょうどこの頃だった。製造現場管理指導の専門家が、工場のレイアウトや作業員の役割分担にメスを入れ、生産効率を上げることを提案した。
 「うってつけの話ではありましたが、これまでの常識を覆す内容ばかりで、採用には躊躇しました」と当時を振り返り、俊樹氏は語る。最も大きな変化を求められたのは、工場のレイアウトであった。作業工程における人の配置やデリケートな機械特性など「これまで作業場の配置転換をしてはならないことが前提」であり、不可能と誰もが思った。とはいえ、常に高いレベルでモノづくりにこだわってきた経験上、現場に何かしらの改善が必要である思いがくすぶり続けた。
 二の足を踏む同氏を決断させたのは、“動くものを動かしていけないはずはない”というアドバイザーの言葉だったという。その時「変わらなければ衰退する」と強く感じた同氏は、改善の中で、工場の象徴だった11mのベルトコンベアーも取り去った。
 結果、生産総量を落とすことなく1日単位で完成品を上げ、小ロットの受注も対応可能となった。また、工場内に3人+約40uの余剰が生まれたのである。
 「あの時、商工会が改善を進めてくれたことに感謝しています」固定観念を崩して変化を受け入れたことで新たな収益を生む機会を手に入れたのだった。
 この改善指導は現在も続いており、作業員の“多能工化”を進めている。多能工化とは、作業員が互いの仕事を補完しあう技術を身につけることで、これにより欠員が出た時のリスクがなくなり、品質も安定化が図れるという。改善4年目の現在、売上は右肩上がりだ。

 

 前段の現場改善で得られた余剰人員とスペースを活用し生まれたビジネスがある。これこそ展示会で注目を集めた樹脂製品である。
 同社のブースには、素材の質感や形を手に取って確かめる人々が群がり、その中でもひと際、ハバネロという唐辛子を樹脂で作成した食材サンプルが注目を集めた。素材の特性上、見た目の色や質感、硬さまで実物に近いレベルで再現したという。場合によっては匂いまで付けることも可能で、収穫時期に関係なく生産者がお客さんに提示できる食材サンプルとして、今後の発展が期待できる商品だという。
 これまで、エンドユーザー向けの製品を販売する機会が少なかった岩本氏にとって、お客さんの反応がすぐ返ってくるのは新鮮だったという。「笑顔が直に見られる仕事を今度はしていきたい」と熱っぽく語る。
 また、現在商品化に向けて試作を進めているのが、オリジナルの樹脂ノベルティや釣りルアーの制作キットだ。形を自由に形成できる性質を活かして、誰もが簡単に小ロットで手に入れられる仕組みを考えている最中だという。「モノが氾濫する現代において、自分だけの一点ものを求める人々のニーズに応えられれば―」と語る氏の目は、すでに同社の「次の変化」を見据えていた。




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