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サクセスリポート  

■株式会社 加悦ファーマーズライス
〒629-2412 京都府与謝郡与謝野町香河424番地
TEL.0772-44-3630 FAX.0772-44-3631
http://sugi.kyt-net.ne.jp/kayagohan/

 「ご当地グルメ」や「地域の特産品」を販売する魅力的な市場として、注目されている高速道路のサービスエリア(SA)を中心に、百貨店の催事、空港売店、生活協同組合などからオファーが続く(株)加悦ファーマーズライス。地域振興に貢献する第三セクターの成功事例としても注目される同社を支える信念とは?
 
 
 京都府の北部、丹後半島の山間に位置する与謝野町(旧加悦町)のコシヒカリなどを使った寿司や弁当が人気を集めている。商品は鯖のそぼろを使った郷土料理「ばら寿司」や、棒寿司の「焼鯖すし」、「柿の葉寿司」など懐かしさを感じさせるものばかり。一口食すとシャリの一粒一粒が立った、弾力のある食感や豊かな甘みや香りに思わず顔がほころぶ。
 「米の旨さには自信があります」と笑顔で話すのは、同社の代表・西原重一さん。元加悦町の町長から、平成11年に町の出資で同社が立ち上げられた際に就任した。もともと丹後半島は日本有数の米の名産地。冬寒く夏暑い気候の寒暖差や山から流れるミネラル豊富な水、その水を含んだ豊かな土壌は美味しい米を育て上げた。しかし近年の米を取り巻く消費量減少などの諸問題は、同地の伝統をも脅かしていた。「農業がダメになったら、この地域に先はない」―そんな危機感が地元産の米を買い取って商品化し、地域活性に繋げる同社の設立に繋がった。

 
  現在では看板商品の焼鯖すしだけでも土日平均1000本以上を売り、地元からの米の買い付けは年間100tにも上る。今では経営状況は安定しているが、当初は赤字続きの厳しい状態だった。
 西原さんはそんな状況を立て直すため、培ってきた人の輪を頼りに民間企業から人材を招致した。それが現・代表取締役専務の菅野剛さんだ。菅野さんがまず取り組んだのは、営業力の強化だった。「営業の仕事は商品の販促や販路開拓はもちろんですが、販売現場と本社との橋渡しとなり、現地からのニーズやクレーム、問い合わせなどをキャッチし、それを商品開発やサービスに繋げること。一般企業では当たり前のことですが、それができていなかった」という。同社はこれまでの「待つ」スタイルを改め、地道に販売現場に足を運んで現場の意見に耳を傾け、また新規開拓の門も叩いた。そしてその結果、掴んだ情報が同社の飛躍のきっかけとなった。

 

 「今から思えば自信のある商品なのに、評判はイマイチだった」と西原さん。現地で仕入れた情報によると、SAなど商品の販売現場では出荷時よりも品物の食味が格段に落ちていたという。理由は商品の「解凍方法」だった。当時は今と違い商品を冷凍の状態で出荷し現場で解凍ののち販売していたが、寿司や弁当のように異なる素材を同時解凍するのは難しく、寿司などは解凍時にドリップが出てしまい著しく食味を損なっていた。さらにこれらの流通主体は、0〜10度で素材の食感や風味をフレッシュなまま保つ「チルド」に移行しつつあり、これが競合他社との差異になっていた。
 「地域の看板を背負っている以上、味に妥協はできない」同社は早速、出荷形態をチルドへ転換した。やがて本来の味を提供できるようになった商品に評判の声が上がり始め、その声は販売店から営業マンに伝わった。そうした評価は本社の開発へとフィードバックされ、更なる品質向上に繋がった。また同町では同時期から「おから」を使った「自然循環農業」を積極的に取り入れ始めており、町内産の米作りの質もさらに底上げされ商品のブランド化を後押ししていった。米は昨年まで数年間、日本穀物検定協会の食味ランキングで最高の特Aにランクされたこともある。

 多くの競合の中から商品を手にとって貰うには、「美味しい」だけでは難しい。西原さんがもっとも頭を悩ませたのは、価格と見た目を含めた品質との折り合いだったいう。主要販路であるSAで販売されるのは、基本的には「みやげ物」であり、1000円を超えてしまうと途端に売れ行きが下がってしまうという。例えば競合商品が多い同社の代表商品「棒鯖すし」の売価は1050円である。おおむね他の競合商品も1000円前後の設定だ。しかしその多くは、みやげ物として見栄えがするよう「箱型の紙パッケージ」が採用されているが、同社の包装は竹皮を使用したシンプルな包装である。
 かつては同社も、他社と同様に紙の箱型パッケージを採用した。しかし売価が200円ほど上がってしまったために、ほかの類似商品よりも高くなってしまった。味へのこだわりは絶対なので原材料は下げられない。そこで、思い切って見栄は他の商品に任せて、低コストですむシンプルな包装を採用することにした。しかし、その中でも少しでも良く見せるために商品開発を専門とするコンサルタントに相談するほか、積極的に他社製品の研究を重ね、様々な知恵を絞った。
 そして出来上がった竹皮のパッケージ。筆文字の手書きふうのラベルは懐かしさもあり、独特の風情を添えている。一工夫すれば豪華さに頼らずとも、人の心に響くものは作れるのである。

 1110平方メートルある広々とした生産工場は、米の炊き上げから、鯖などの魚の焼成・調味、盛り付けなどを行う調理部分や商品梱包部分からなる。従業員は約50名。今では魚の仕入れから調理、梱包までを一貫して行っているが、もともと同社は魚などの焼き上げや調味などの作業はすべて他社に任せていたという。
 しかし、外部発注の作業が多くなるということは、それだけ製造コストがかかるということだ。少しでも高品質で価格も見合うものを作ろうと思えば、自社で出来ることはすべて自社で行うことが求められた。
 「加悦町(当時)のために……」社員総力を挙げて取り組んだ、「様々なことに積極的に関わる」努力の積み重ねは、現在の加悦ファーマーズライスを作りあげている。
 そんな努力のなかでも、原材料を選別する目が肥えたことも収穫の一つだという。主要原料の魚の仕入れはその時々の状況などで業者や漁場が変わることも多くあるそうだ。この問題に始めて直面したのは、中国の食品問題で仕入れをストップし、国産に切り替えたことに始まるという。そこから原材料についての「安全・安心」をよりいっそう考えるようになった。そして何かあったときに、即座に対応できる地場を作るきっかけとなったという。

 「加悦」というブランドを背負っている以上、「安心・安全・美味」は譲れないと語る西原さん。地域を守り立てていくためには気長さと周りとの協調、地元への揺るがない愛情が必要だという。そんな同社は現在、同じ丹後半島にある伊根町の水産会社との事業連携の道も模索している。「互いに、どうにかしてよくなっていければと思っています。その道のりは簡単ではありませんが、双方の努力で良い結果に繋がることができれば嬉しいです」と西原氏は語ってくれた。
 この春の東日本大震災で、日本企業を取り巻く環境はさらに厳しいものになっている。原材料に水産物を仕入れる同社も例外ではなく、この先の打開策を模索しているところだという。しかし、同社が信念とするこの「地域への愛着や人の声に耳を傾けることの大切さ」と、何事にも一生懸命に取り組む真摯な姿勢があれば、この先の難局も乗り越えてゆくはずだと思う。


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