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サクセスリポート  

■遊絲舎(ゆうししゃ)
〒629-3102 京丹後市網野町下岡610
TEL.0772-72-2677 FAX.0772-72-5552
http://www.fujifu.jp/

 かつて縄文時代に衣服の生地として使われた「藤布(ふじふ)」を使ったオリジナル商品を藤の糸づくりから一貫して行う「遊絲舎」。
藤布と絹を織り合わせた独自のテキスタイルが評価を受け、繊維業界のオリンピック、プルミエール・ヴィジョンに出展するまでに成長した。


 
 

 2011年9月、パリにて開催されたプルミエール・ヴィジョンにて、日本代表としてひときわ注目を浴びたブースがあった『遊絲舎』。京丹後の地で、藤布と絹織物を融合させたオリジナルテキスタイル製品を藤の糸づくりから自社一貫で生み出すアパレルメーカーである。
 遊絲舎はもともと地元・京丹後で名産の絹織物「丹後ちりめん」を扱う老舗・小石嘉織物の子会社として誕生した。同社の代表を務める小石原氏が藤布の存在を知ったのは1985年。テレビ番組を通じての出会いだった。「先祖代々シルク製造一筋でしたが、縄文時代に使われた藤布を手間暇かけてつくり続けている女性達の姿に感銘を受けた。ずっと携わってきた織物の原点を学びたい、そして伝統を途絶えさせてはいけないと思った」という。すぐに女性達がいる宮津市上世屋を訪ねた小石原氏は、現地でその工程を体験し、さらに本腰を入れて技術を習得するため、女性たちの伝承者を中心とした講習会に参加。四苦八苦しながらも、手間暇を惜しまない昔ながらの工程をマスターした。1989年には自分達が新たな伝承の担い手になろうと藤織り保存会を設立。体得した技術を様々な人に伝える場を増やしていった。しかし、次第に小石原氏は藤布の伝承活動だけでなく、もっと広く身近に感じてもらえるようなものづくりがしたいと、藤布と絹を融合した製品の商品化に向けてスタート。それが「遊絲舎」の始まりとなったのである。



 

 上品で華やかなものから幾何学的な柄まで多彩に表現しながら、天然素材ならではの古色蒼然とした味わいを十分に引き出す遊絲舎の藤布。なんといっても魅力はオーダーメイド品ならではの着心地や使い勝手の良さ、顧客ひとりひとりの要望に応えたデザイン性などにある。帯をはじめ巾着や財布など小物類まで様々な製品を生み出してきた小石原氏は使う人に愛着を持ってもらい、長く使い込んでほしいと願っている。手作業でひとつひとつ丁寧につくりあげる遊絲舎だからこそ、客の心に響く商品を生み出せるのだ。
 着々と形となってきた遊絲舎の商品開発も、当初は求められる製品が具体的にわからず試行錯誤を繰り返していた。開発には手間とお金だけが嵩み、藤布だけでは全売上の1%にしか満たない状況。周囲からも道楽としか思われず、肩身の狭い思いが続いたという。そんな時、転機となったのは奈良で開催した個展だった。市場から消えかけていた稀少な藤布製品は予想以上の注目を集め、話題を聞きつけたバイヤーまでもが訪れたという。この出会いをきっかけに、有名な展示会に出展する機会があり、そこでオーダーメイドの良さに気が付いた。
 元々、小石原氏は、素材確保の困難や、オール手作業での生産を理由に、藤布は卸販売には向かないと感じていた。実際に会って、オーダーメイドの品をつくる方が、この稀少な伝統布には適していると気づいたのだ。
 「現在では百貨店の職人展や京都物産展などに出展して様々なお客様に触れ合う機会が増えました。地元の店舗では、ツアーで京丹後を訪れる団体客からの見学・体験の申し込みが増えていて、店舗販売も少しずつ芽が出てきた所です。」小石原氏は満面の笑みで語ってくれた。いまや売上の殆どが藤布製品で占めるというから驚きだ。



 

 遊絲舎の藤布はいま海外にまで、その名を知らしめている。きっかけとなったのは、全国商工会連合会主催の日本文化を世界に伝えるプロジェクト「JAPANブランド育成支援事業」に京都府商工会連合会の呼びかけにより丹後チームとして参加し、2004年に認定されたことだった。丹後で藤織りの伝統を受け継いでいる企業があるといううわさが巡りめぐって京都府商工会連合会からの推薦に繋がった。以降、毎年欧州でのテキスタイルの展示会や企業訪問を実施し、国内ではまだ認知度が低かった藤布の魅力を海外に伝える機会を得る事が出来た。ベルギーで開催された展示会出展後には、王妃のお抱えデザイナーからコラボ製作の声がかかり、実際に王立美術館では帯地で仕立てられたドレスが展示されたという。
 そんな海外での精力的な活動が功を奏し、大手バイヤーの口コミ等から2011年9月にパリで開催されたプルミエール・ヴィジョンという展示会に招待出展できる資格を得た。世界の繊維メーカーの精鋭達が集いバイヤーも選ばれた人しか入場できないという、いわゆるアパレル業界のオリンピックに日本代表として選出されたのだ。「藤布と絹を融合させた製品を扱っているのは日本でも遊絲舎だけ」という独自の魅力が評価されての快挙。丹後の地から新たな目標を目指し、世界へと羽ばたいている最中なのである。



 「どこか広大な土地で藤を栽培することができないだろうか――。」藤織りを始めてから小石原氏が長年考えてきたことである。かつて山に行けば大量に生えていた藤は、自然環境の変化もあり、昔ほど多くの量を採取する事が困難になってきた。良い藤布を織るためには、しなやかで強い藤を育てることが絶対条件。自宅周りでの栽培も実践してみたが、簡単にはいかなかった。しかしそんな時、藤の第一人者といわれる人物との出会いがあり、藤の栽培方法について詳しく指導を受ける機会ができたのである。そして、京都府からは藤織りを丹後の地域興しという位置付けで、京都府地域力再生プロジェクト支援事業の認定を受け、藤栽培のための資金援助を受けられることになった。こうして多くの人の協力を得ながら、着々と準備が進み、2009年丹後の地に藤の栽培を行う“衣のまほろば 藤の郷”をオープン。長年熟考していた事がやっと現実に結びついたのだ。現在はおよそ1,500uの広大な土地で藤づるがスクスクと育っている最中である。
 小石原氏には心に秘めたさらなる夢がある。全国の藤の産地は名所となっている場所が多く、観光客も多い。藤の郷も伝統工芸品である藤布がある地として、観光名所となるだけの魅力があるに違いないという確信ができたのだ。そして藤布以外にも豆が漢方になったり、花を天ぷらにしたり、日本酒ができたりと多様な魅力がある藤で新たな名産品を生み出そうと計画中なのである。「将来的に観光との連携を視野にいれ、地域活性化を促す取組みで丹後の魅力が日本はもちろん海外にも伝わればいいと考えています。」と先を見据える小石原氏。藤と丹後の地をこよなく愛する彼ならば、きっと叶えてくれるに違いない。



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