「どこか広大な土地で藤を栽培することができないだろうか――。」藤織りを始めてから小石原氏が長年考えてきたことである。かつて山に行けば大量に生えていた藤は、自然環境の変化もあり、昔ほど多くの量を採取する事が困難になってきた。良い藤布を織るためには、しなやかで強い藤を育てることが絶対条件。自宅周りでの栽培も実践してみたが、簡単にはいかなかった。しかしそんな時、藤の第一人者といわれる人物との出会いがあり、藤の栽培方法について詳しく指導を受ける機会ができたのである。そして、京都府からは藤織りを丹後の地域興しという位置付けで、京都府地域力再生プロジェクト支援事業の認定を受け、藤栽培のための資金援助を受けられることになった。こうして多くの人の協力を得ながら、着々と準備が進み、2009年丹後の地に藤の栽培を行う“衣のまほろば 藤の郷”をオープン。長年熟考していた事がやっと現実に結びついたのだ。現在はおよそ1,500uの広大な土地で藤づるがスクスクと育っている最中である。
小石原氏には心に秘めたさらなる夢がある。全国の藤の産地は名所となっている場所が多く、観光客も多い。藤の郷も伝統工芸品である藤布がある地として、観光名所となるだけの魅力があるに違いないという確信ができたのだ。そして藤布以外にも豆が漢方になったり、花を天ぷらにしたり、日本酒ができたりと多様な魅力がある藤で新たな名産品を生み出そうと計画中なのである。「将来的に観光との連携を視野にいれ、地域活性化を促す取組みで丹後の魅力が日本はもちろん海外にも伝わればいいと考えています。」と先を見据える小石原氏。藤と丹後の地をこよなく愛する彼ならば、きっと叶えてくれるに違いない。