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サクセスリポート  

■5nin club(ゴニンクラブ)
〒627-0032 京都府京丹後市峰山町浪速5
TEL.0772-62-4065 FAX..0772-62-7961
http://www.rakuten.ne.jp/gold/5ninclub/


 国内インターネット通販サイトの最大手・楽天市場の子供服部門で月間約80〜 120 万ビューという驚異のアクセス数を叩きだし、セレクトした商品はアップするなり完売も多いという注目の小売店の代表・下谷佳弘氏。インターネットショッピングでの成功秘話や、地元商工会と取り組む" 夢" などについて伺った。

 
 

 丹後半島の中心部に位置する峰山は、かつて丹後ちりめんの産地として栄えた古い町。そこに子供服販売店「5nin club」はある。平日であれば客足もまばらだが、ネット販売を主体に月平均で1千万円以上を売り上げる優良店だ。代表の下谷佳弘さんが同店 を立ち上げたのは18年前。デニム&ダンガリーやFITHなどのブランド子供服を中心に、その母親をセカンドターゲットにしたレディース服などを販売する。  ブランド品にこだわった理由は、自身のファッションに対する思い入れもあるが「地方で薄利多売は難しい」という現実があった。ゆえにここに行かないと買えない?など付加価値を重視するブランドショップなら、多売を目指さずとも一定の利益は確保できると考えた。  またブランドメーカーは、商圏を守るためにも直営店も含め近距離のショップ展開は行わない。例えば京都市内の百貨店にショップが入っていれば同じ市内で店を持つことはできないが、遠隔地である京丹後ではどのブランドからも開店が許された。実際オープンを迎えてみると、宮津市や舞鶴市のほか兵庫県からも客が訪れたちまち人気店になった。

 

 ネットショップは「実店舗での売上のマックスが見えた」と感じ始めた。10年前に開始した。偶然にもその頃、前職でHP制作に関わったことのある社員を採用し、試しに自社通販サイトを開設してみたという。変化は早くもその3ヶ月後に起こった。かねてから取引していたブランドの商品が、テレビドラマで子役の衣装として使われたのである。「ちょうど、ブーム?に乗った」と語るように、インターネットショッピングが飛躍的に伸び始めた時勢と重なり、商品を探す全国のエンドユーザーが同社のサイトに殺到。大変な売り上げを記録した。1年後には楽天市場からの出店オファーを受け、ネット通販を主軸にした事業スタイルに切り替えた。

 

 このときの成功は、実店舗のブランド商品を単にネットに掲載したら、テレビをきっかけに全国から検索が殺到したというほど単純な話ではない。パソコンに関して、もともと下谷さんは未経験者。自身で操作ができるようになるため、逐一ネット担当の社員に操作の手ほどきを受けインターネットショッピングの仕組みを理解した。その上で一消費者として自分なら「このブランドの商品が欲しいときどんな行動をとるか」を考え、ヤフーなど検索エンジンで5nin clubが上位になるにはどうすればよいか、日夜試行錯誤を繰り返した。  
「SEO対策」という言葉など知らなかったが、絶えずトップページや商品紹介ページをいじり、検索エンジンの上位にランクする手法を見つけ出したという。また直接の触れ合いがないインターネットだからこそ、気持ちが伝わるサービスを届けることにもこだわった。お買い上げ頂く方にストレスなくご満足頂けるお買い物をして頂くために、日々舞い込んでくる注文に対して即座に細かく対応した。スタートからの3年間は1日2日しか休みがとれないほど多忙を極めたという。
販売する品揃えの豊富さも、顧客に満足頂くための同店のこだわりの一つだ。商品はシーズンに先行して半年前の展示会で買い付けねばならず、その際に大きな運転資金が必要になるが、調達については京丹後市商工会の支援も大いに役に立ったとのこと。

 

 ネット販売の場合、「展示会で買い付け後、店舗入荷時に自社で改めて商品の採寸、ホームページに載せるための写真撮影、紹介記事の作成、アップ作業、注文が入れば在庫確認後出荷のための梱包、発送…と目には見えない膨大な作業をお客様の手元に届くまでにこなさなければならない」と下谷氏は語る。
売上予算に合わせて仕入れするブランドショップの直営店より、自社の裁量で仕入れが可能な独立系ショップである5ninnclubの品揃えは直営店より豊富な場合がある。
ネットショップを開設してフィールドが全国に広がった分、顧客は激増する。パソコンという便利なツールの裏側で、事業者はてんてこまいということは往々にしてあるが、顧客にとってそんな事情は勿論関係ない。深夜でもネットショップはまったなしだ。実店舗のように現実の商品を前にした販売しているのではない、完売のお知らせタイミングが15分遅れても「品切れが多い」などクレーム的なものに繋がってしまう。

 

 自分で納得するまでやってみる事がモットーの下谷さん。店舗販売と同様に、他店より一歩抜きんでるための工夫を日々パソコンにかじりつき模索した。「目の前でお客様にご説明できないことがネット通販の弱点」というように、直接手に取り見ることができない商品の魅力を、モニター越しに上手に伝える方法をひたすら研究したという。
また、インターネットだからこそこだわった独自サービスの中でも面白いのが、「地方」を逆手にとった「サプライズ作戦」である。「いかにお客さんをびっくりさせるか。初めから可能な限り即日発送を徹底しました。注文した商品が、ここ京丹後から翌朝届くってすごいでしょう?」と楽しそうに話す。当日発送は今や当たり前のサービスとして定着しているが、ネットショッピング黎明期にいち早く導入していたというから驚きだ。そんな"一足先をいく"サービスや取り組みが多いことに気付かされる。
今や楽天の子供服部門で第一人者として認められ、楽天以外の大手ネット通販会社からの出店オファーやブランドメーカーからの売り込みも絶えないが、その裏側にはこんな地道な努力の積み重ねが隠されていた。係るフローの全てを自ら体験し、評価もクレームも身をもって受け止めた成果であるといえよう。

 「50歳を過ぎたら、商品の仕入れやインターネットに関わる第一線は、うちの息子や若手スタッフにどんどん任せて、若い目線との入れ替えをしていきたい」と語る下谷さん。自らはマネジメントにまわり、ここから先の事業展開に本腰を据える構えだ。「ホップ、ステップまで行っても、ジャンプがなかなか難しい業界」と語るように、ある一定の成長を迎えた多くのアパレル小売店が、先の展開を見越した時に、事業を拡大するか否かの選択を迫られることになるという。「仕入れの規模を拡大することも、複数のインターネットショッピングモールに出店することも可能だが、そのためには大きな運転資金がかかり、ここで大勝負に出て失敗し、撤退していった事業者をいくつも見てきた。周到に進めたい」と下谷さん。
ちなみに、この仕入れ資金の融資先金融機関は、京丹後市商工会の仲介で紹介をしてもらったという。次期シーズンの取り扱いアイテムを発注する各ブランドメーカー主催の展示会前(通常、シーズンの半年前に一斉開催。この時に次シーズン取り扱いアイテムのすべてを発注する)には、金融機関と綿密な打ち合わせをするそうだが、昨今は景気の影響もありなかなかスムーズに運ぶことは難しいそうだ。同商工会の経営支援員岡朋博氏は、「着実な歩みで成長を遂げている優良企業だけに、これからの成長を慎重にサポートしていきたい」と話し、経営分析の専門家などを派遣して万事体制を整えた上での成長を後押しする。

 さて、この京丹後市商工会との連携で、同社が現在取り組もうとしているのが、"自社ブランド"の立ち上げである。「ユニクロやH&Mで有名な、アパレルと小売の機能を一つにする製造小売業"SPA"の流れが、ネットで力を付けた小売店の中からも出始めています。元々私たちのような、いちショップが、今や年商10億企業にまで成長している例もある。自分のところで作って直販する仕組みが最も利益率が高い。軌道に乗れば安定した資金繰りが望め、チャレンジの幅が広がる」と、いくつかのウェブサイトを示しながら語る。 さらに、「どうせやるなら、オール丹後でやりたい。それから、やっぱり丹後ちりめんを 使えないかなと考えています。実際に私がこの業界では古い人間なので、各メーカーの社長と話した時に必ず丹後ちりめんについて聞かれるんですよ。恐らく、こういった作り手の方々は興味を持っている。ある程度の話ができる体制が取れたら、売り場はここがありますので、チャレンジしたい」と話す。すでにオール丹後実現のため、縫製工場などを含め連携できる企業を探しているという。
地域が活気を取り戻すためには、インターネットの活用こそ最大のキーと語る下谷さんの最終的な夢は、地域全体が業種を問わずに参加できるネットモールを作ることだという。
「かつて、ガチャマン景気(※)で湧いた頃の丹後の富は、よその土地から集まっていました。地方こそ、外からお金が入る仕組みにしないと潤わない」と。また、そのために「初期の数年間は大変ですが、なんとか独自性を打ち出して、一丸となって頑張りたい」とこの先の未来を熱く語る。 さて最後にちょっと意外なお話だが、今から数十年前の丹後ちりめんの産地として活況を呈した頃の丹後半島である。界隈の主要ターミナルを中心に、町には流行の最先端を行く様々な店が集まる時代があったという。下谷さんは小学生の頃から最新のファッション雑誌を手にし、流行の服に身を包む"お洒落ボーイ"だったのだとか。そんな子供の頃の原風景が、情熱をもってひた走る下谷さんのルーツなのかもしれない。 夢の実現のため、たゆまぬ努力を重ね突き進む同社の発展を心から応援したい。

注釈)
※ガチャマン景気・・・昭和30年代、戦後の衣料不足の中で織機が一度ガチャンと音を立てるとお金がじゃらじゃら生まれるという繊維業界隆盛の時代に流行した言葉。

 


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