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サクセスリポート  

■有限会社クロバーリーフ
〒619-1421 京都府相楽郡南山城村大字田山小字瀧ヶ元2
TEL.0743-94-0609 FAX.0743-94-0609
http://www.kisnet.ne.jp/~miwamotor/


 京都府内唯一の村・南山城村に、前例のないビジネスを成功させた企業がある。 有限会社クローバーリーフ。日本で唯一、動物園に動物の餌となる草木を専門に 納める会社だ。「動物のためなら」と、トコトンこだわる情熱と夫婦の絆で、新たな事 業を切り拓く。

 
 

 無農薬で育てた新鮮な牧草のほか、竹、樫など自然の草木を全国27の動物園や水族館に1年365日届ける企業・クローバーリーフ。
代表取締役の西窪武さんが、この動物園の飼料ビジネスに取り組むきっかけは、今から30年前のことだ。

結婚を機に始めた酪農家畜用の乾燥飼料作りが、安価な輸入乾燥飼料の煽りを受け事業存続の危機に直面した。「せっかく夢を持って始めた事業を諦めたくない」――そんな思いを抱えている時、偶然にも京都市動物園に草を納めていた農家の先輩から高齢のため引退するので事業を引き継がないかとの声がかかった。それまで飼料作物の需要は酪農か競馬くらいしか思いつかなかった西窪さん。

すぐに飛びつこうとするが、この話は市が過疎地対策で動物園用の飼料を作ることになり流れてしまう。  だが折角のチャンスを諦めきれなかった。現在、同社で企画・広報を担当する妻・アケミさんの勧めもあり市の栽培農地に視察に訪れた。

そこは真冬だと1mは雪が積もる場所だった。「冬期の収穫は難しいと感じました。でも自分たちの農園は南部にあり冬でも青々と牧草が茂っていた。そこで納入が滞る時期を狙い、とびきり新鮮な牧草を持ち込んだ」という。結果、翌冬の3か月間の契約を獲得。これを機に牧草持参で他の動物園にも売り込みに行くと思いがけず好評で、わずか3年で7か所の動物園から契約を獲得した。

 

 当初は牧草だけを納めていたが、園との関係が深まるにつれ他の需要も見えてきた。コアラのユーカリ、パンダの竹、バクの椿…本来、動物たちは自然界で自分に合った餌を摂取し体調を整えている。
現場の飼育員もなるべく自然に近いものが手に入るよう、自ら山や河川敷で採取もするが季節によっては採れなかったり、安全・衛生面での不安も多く、また動物園用の飼料を専門に扱う業者もなかったことから餌の調達に頭を悩ませていた。
西窪さんは飼育員との交流を通して、個々の動物にも餌の嗜好があることなどを耳にするようになり「1年365日、動物一頭一頭が美味しく食べて元気になってくれる安全・安心な飼料を、必要な時に必要なだけ納入できれば動物園も動物たちも喜んでくれるに違いない」 と考え、徐々に個別の要望に応えていった。

 季候や土壌など条件の違う圃場を確保し、新鮮な牧草を安定的に供給できるシステムを整える一方で、竹藪などの木々を所有する地主さんに交渉したり、買い取ったりして少しずつ種類を増やしていった。
刈りたての瑞々しい草木は、その日中に出荷できるよう配送の手筈を整えた。
また動物たちに機械油の匂いの付いた餌を食べさせたくないという思いから、種蒔や収穫は全て手作業を徹底。この動物の健康を第一に考えたオーダーメイドの餌は「希少動物の保護と繁殖がその使命」になりつつある動物園の動きとも重なり高評で、評判は口コミで他の動物園に広がっていった。「目指すは動物専門の栄養士」と語る西窪さん。今では大学と動物園が主催する研究会に飼料会社として参加するなど、よりよい餌作りに取り組んでいる。

 

 常に手探りで悩み・考えながら未開の動物園ビジネスを作り上げてきたというが、その一つに「牧草保険」がある。
同社の餌が原因で事故があった際に補償される。
アケミさんのアイデアで、西窪さんは当初無理だと思ったそうだが
「ないものは作ればいいんじゃないの?」という奥さんの一言で民間の保険会社と交渉し誕生させた。この夫婦二人三脚こそが、先例のない事業を成功させた原動力といえる。

 

 牧草作りから、刈り入れ、梱包、発送まで一貫して行う同社のスタッフは16名で、営業は西窪さんが担当する。

"ブレーン"ともいえるアケミさんは、当初は現場作業も行っていたが「指示出すものは、現場を知らないほうがいい。知りすぎていると、既成概念に囚われて自由な発想ができなくなる」ということで、途中から一切現場に出てこなくなったそうだ。

さて、事業の立ち上げからこの30年で、ほとんど日本中の動物園を回ったという西窪さんだが、その根本には「できるだけ動物園で実際の世話をしている方に会いたい」と思いがあるからだという。動物に一番身近な人の思いや意見を受け止め、互いに意見を交換しあいながら動物の心身の健康にとって何が一番良いかを模索する。西窪さんは「商いの根本は、相手が欲しいと思うものを提供すること」と語るように、現場に赴いての積極的なコミュニケーションこそものづくりにとって大切なことだという。

これまでは動物園や動物から、様々な情報を得ることが多かったが、「これからは今までの交流で得た情報を、また別の動物園に教えてあげることができれば」という。
「この動物にはこんな食料がいい、ここではこんなエサを食べさせますよ、とか、ここではこうチャレンジが成功しましたよ…など、全体で良くなって行ければいいですし、動物たちのために様々なことをご提案できれば嬉しい」と語る。

 

 今や牧草を始め、30種以上の飼料を通年で安定供給するシステムを作り上げた同社だが、やはり当初はその確保に苦労したそうだ。
「自然が相手っていうのもありますし、難しいものでほんま始めた頃は、牧草が足りなくて困りました」と西窪さん。牧場に飛び込みでお願いして草を刈らせてもらうこともあれば、地主に頭を下げて木々の葉を収穫させてもらったこともある。地元の山々を車で移動する際は、木はもちろん池に生えている水草の場所などをくまなくチェックし、覚えながら駆け抜けた。

「最近は、温暖化の影響で竹の成長や生え換わりなどのサイクルもほんまに違いますんでね。木でも、これまで3年で切れてたのが5年6年、うっかりしたら10年くらい切れないのがでてくる。だから常に僕はそれの確保に奔走してます。いいトコロを探して地主さんに会って、お願いするんです」と話す。
もちろん、資源を提供してもらう地主さんへの御礼は忘れない。「木を手入れしてもらっているようなものだから、持って行っていいよと言ってもらっても、うちはそれで商売させてもらってるんで、何らかの御礼をさせて頂くことを大切にしています」と西窪さん。
長続きする秘訣としては、氏は4対6の感覚が大切という。相手が6割、自分が4割の感覚で喜んでもらう努力をするというわけだ。

「相手は自然で、365日やめられない止まらない仕事なんで。それをコンスタントに続けるには、こうして気持ちよくご協力頂くために、何かをすることが大切」と、ビジネスにとって大切な息の長い付き合いの秘訣を教えてくれた。

 動物園飼料を専門に供給するという新しい農業分野を切り開き、希少動物の保護・繁殖にも貢献している西窪さんの業績は、今や多くのメディアでも取り上げられ、その功績を讃えた黄綬褒賞をはじめとする数多くの表彰も受けている。

そんな西窪さんが、農業を語る時に大切なのはやはり家族だという。「どんな事業でもそうですが、家族の理解・力が強いほど安心して仕事ができると私は実感しています。やっぱり夫婦関係や親子関係がぎくしゃくしていたら、同じ仕事をしていても思いもよらないミスを起こしたりしますから。もう一つ、力を入れないといけないところで入れることができなかったりするので、やっぱり家族の力が強い方が成功するのではないかと思います」と。

現在クローバーリーフでは、跡継ぎの長男を始めとする西窪さんのお子さん4人が先頭になってやる気のあるスタッフと共に働いている。一家の主でもある西窪さんは、子供たちが幼い頃は働き詰めで、なかなか一緒の時間を取れなかったそうだ。しかしアケミさんと共に「人に感謝し、思いやることができる人間に育てたい」という思いを持ち、さまざまな工夫を凝らしたという。

その一つに「つぶやき教育」というのがある。毎日、深夜まで働いていた西窪さんは、夕食を家族と共に取ることができなかった。そこでアケミさんは、わざと大皿に家族の人数分のおかずを盛り付け、誰に語りかけるわけでもなく「今頃お父さん、何してるのかな」と呟いたそうだ。
すると子供たちは「お父さんああしてるんではないか、こうしてるんではないか」と言い合いながら、「じゃあお父さんのだけ残しておこう。お父さんは家族のために頑張ってくれてるんだから…」と父親の分のおかずを自主的に取り分けたという。そうしたコミュニケーションを通して、子供たちは父親の存在をいつでも近くに感じながら成長し、人に感謝をする心が育まれていったのである。

逆に、大人から子供へ感謝を伝える気持ちも忘れない。「畑に子供たちが来たら、鎌に興味があるから一束刈ってくれるんですよ。子供の興味は一瞬ですから、一束刈ったらもうそこらで遊び始めますけど、"お〜ようけ刈ってくれたな、おおきに"っていうんですね。そしたら、子供たちは"こんなん少しだけやん"、といいますが"いいやちょっとじゃない"と伝えるんです。
最後の一束がめちゃくちゃしんどいんですよ。なんで、それ助かるんやでって」 例え手伝ってもらったのは少しでも、反対に自分が一番苦しい一握りを助けてもらったんだと思えば子供に感謝できる、そう西窪さんは話す。「今、長男があの時のお父さんの気持ち分かるわっていうてますけど、ちゃんとやってきたときにはやってくれる、やるようになるっていうかな。 困った時には、きちんと協力してくれるような子に育つんですよ」と。 企業とは、やはり人である。この話を聞いて、クローバーリーフの、地に足のついた強さの秘密に触れた気がした。今後の、さらなる躍進を応援したい。


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