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サクセスリポート  

株式会社 アドバン理研
〒614-8128 京都府八幡市下奈良野神40番地の1
TEL.075-972-3838 FAX.075-983-4400
http://www.adriken.co.jp/


 年間1200億とも言われる工業用窒素ガス業界。参入から10年で「小型窒素ガス発生装置」部門のトップメーカーに急成長を遂げたアドバン理研(八幡市)の代表に、企業と企業、互いの強みや利点を生かしあいながら共存共栄を図る経営戦略やものづくりにかける思いを伺った。

 
 

 あらゆる産業で不可欠とされる窒素ガス。酸化を防ぐ「不活性ガス」として食品工場から半導体工場に至る広範な製造過程を始め、様々な用途で使われる。アドバン理研は、この窒素を精製する小型装置を開発製造する企業である。

 創業は昭和39年。元々レントゲン機器メーカーとして創立したが業績不振に陥り、縁あって納品先企業の開発製造責任者を務めていた辻 弥壽彦氏(現代表)に再建が託された。辻氏は「事業は引き継がないが社名だけを残す」ことを条件に要請を受諾。かねてから手掛けていた窒素ガス発生装置に可能性を見出し、平成11年6月、新生・アドバン理研をスタート。「霞(空気)を食って生きていく」をスローガンに、窒素を始め酸素・オゾンガスなどの工業用ガスの発生装置分野に進出した。

 

 同社が手掛ける工業ガス発生装置は、世界中に無尽蔵にある"無料"の空気を原料に、活性炭を使って窒素と酸素を分離し必要なガスを抽出するもの。必要なエネルギーは圧縮機にかかる電気代のみで公害も出ず、工場ラインに直結した形でガスが安定供給できる。
 サラリーマンから一転、社長に就任した辻氏だが多額の負債を抱えてのスタートだった。しかし操業程なくして業界初のマイコンシステムを搭載した商品開発などに成功し、翌年には新規工場を確保。増産体制に移行した。躍進の背景は「前職時代からお世話になっていた取引先を始め、多くのベンチャーキャピタルから頂いた支援のおかげ」と話す。
 その成功の裏には「自社は製品の研究開発に特化し、あえて販売部門を持たず大手の"便利な下請け"に徹する」という独自の経営戦略があったことが見逃せない。「もともと窒素発生装置というのは、大手ガス会社が商品である『ガス』を届けに行けない遠隔地などに設置するものです。しかし市場規模が小さいため、まとまった収益が上がらず大企業は自ら生産しなかった。でも需要は確実にある。それなら中小企業の当社が装置分野に特化し大企業の製品開発を一手に引き受けることを考えた」という。 製品をOEM供給(相手企業のブランドで販売)することで、経営資源を研究開発に集中させた同社は「小型、省エネ、操作性」を追求した機種開発で独自性を発揮。小型から大型までニーズに応えたサイズ展開で取引先を増やしていった。就任4年目からは黒字経営に転換し平成19年には本社工場を建設。分散する生産拠点を集約した。その後も製品は大手の販売網に乗り、小型窒素ガス発生装置部門で国内シェアの8割を占めるまでに急成長を遂げた。

 

 同社はOEMメーカーであるが、製品の技術的権利や製造権利、価格の決定権も保有し生産は完全受注の体制をとる。受注と同時に大阪・京都の専門協力会社5社に依頼し、自社では組み立てとテスト運転をするのみだ。年商10億円に迫る企業だが、16名という少数精鋭で短納期に大きな在庫を抱えることなく、開発に集中できるのもこういった仕組みがあるためだ。  表舞台に出ない方針を一度だけ破った。福島第一原発事故発生を受け、循環冷却水の処理用に屋外型の窒素ガス発生装置3台を一週間で至急納入の要請を入けたという。通常はOEM先の企業を通すがこの時ばかりは特例。一刻を争う事態の中、協力会社との連携により約一週間で製品を完成させた。その後、続けて3台納入し現在4台が現地で活躍している。後に、東京電力から事故の収束復旧に寄与したことで表彰状が贈呈されたという。

 

 独自の経営戦略と仕組み造りで会社を再生させた辻氏だが、これまでの軌跡を振り返りながら「販売からものづくりをするまで、やる時代ではなくなった」と話す。
 「右肩上がりの時代を経て、これまでの企業の成長は垂直展開でした。製品を造るところから販売するところまですべて自社で手掛けて会社はどんどん大きくなった。一方、現在僕たちがしていることは水平展開です。販売は大手さん、造るのもここ(本社工場)を拠点にして、できる限り"アウトソーシング"でお願いする」。
 アドバン理研のある八幡市は、日本のものづくりの根幹を支える京都と大阪とのちょうど中心に位置する。ゆえに、同社が依頼している専門協力会社の技術レベルの高さは折り紙付きだ。 「当社が少ない社員数で大手ガスメーカーや装置メーカーに対応していくことができるのは、大阪・京都といった近隣専門分野の中小企業さんのおかげです。ここは電気、ここは機械、そういった技術者を自社でまとめて抱えたいというのがふつう経営者の夢だと思いますが、もしも注文が入らなかったらお給料払えないですよね。だからそういう願望は切り離して、電気はA社、機械はB社…それぞれ、外部にご協力をお願いする。協力会社にとっても、当社との取引は売り上げの拡大に繋がりますし、さらに当社が業績を伸ばすことが出来れば、取引先の業績もおのずと向上する」と辻氏。
 ちなみに、同社では納品後のメンテナンスに関しては、コンプレッサーメーカーと提携して、そこのサービスネットワークを活用しているという。少ないメンバーで効率よく仕事を回すために、企業と企業、互いの強みや利点を生かしあいながら共存共栄していく。その重要性を語ってくれた。

 

 辻氏が同社の再建にかかる際、ベンチャーキャピタルからの融資があったのは先述した通りだが、融資をあおぐ審査で氏はかねてから考えていた経営戦略での事業展開に合わせて、「霞(空気)を食って生きていく」、「公害を出さない」、そして「資源は無限大にある」ということを説示したそうだ。今から約14年前の話である。産業形態の変化で工業ガスビジネスが新しい時代を迎えることも視野に入れていた氏の経営戦略が認められ、受けた融資は6億円に上ったという。
 そして、「3年間は健全な赤字、4期目からは黒字転換する」というファンドへの公言を達成し、以降、前期の24年6月まで10期連続で経常利益を確保。借金も完済し、現在は2年連続で無借金経営を実現しているそうだ。
 「在庫は持たない、生産や販売も外部に委託、借り入れも少ない方がいい」と徹底したスリム経営を実行する辻氏。基本的に「手形は出さず、ポケットにあるお金で払う」ことを原則にしているそうで、ゆえに納入業者への支払いもすべて翌月の現金払いで行う。今後はより一層中小企業としての経営基盤を固めることに注力するとのことで、基本的に株式の公開などはしない方針だという。
 また、開発資金の調達に関しては『知恵の経営報告書』のほか、『京都府元気印中小企業認定制度』などの各種助成制度も積極的に活用しているという。同制度の申請に関しては、商工会の経営支援員から指導を受けながら進めることが出来たとのこと。こういった助成制度の活用は、先々の事業展開について改めて整理・検討できる機会にもなるので、活用を検討している方は是非とも商工会に相談をして欲しい。

 また事業継承にも取り組んでいる一徳さんは、これから取るべき戦略について武志さんと日々模索しているそうだ。今年の夏、その一環として作成した知恵の経営報告書が与謝野町で初めて認可され注目を集めている。

同報告書の作成のために、今まで当たり前のようにこなしてきた業務を一から整理し、見直すことで、なんとなくぼんやりしていたサービスの形が明確になり、この先の具体的な指針に繋がったとのこと。

また世の中の流れと、その流れの中にある自社の立ち位置を知ることで、今まで思いもつかなかったアイデアが次々と浮かぶようになったといい、「三共電気」だからこそ実現できる様々な未来の可能性を思い描けるようになったそうだ。

 他社より先を進む製品展開で、ユーザーを魅了してやまないアドバン理研。企業規模拡大に走らず、少ない人員で製品開発・商品化に特化することを徹底し、高い技術力を有する一つの中小企業経営スタイルモデルとして、京都府知事より「平成24年度京都中小企業優良企業表彰」を表彰されるほか、二年連続で地元・八幡市の「経営厚労賞」を受賞するなど躍進は止まらない。最後に、そのものづくりの源泉について伺ってみた。
 「僕がもともと、ものづくりが好きと言うのもあるのですが、僕たちが製品を作る時、まずは発想を形にすることから始めます。大手企業の多くは、開発に着手するまでに企画書を作り、一つ一つのことに決済を取り法的な規制をクリアするなど様々なハードルを越えていかなければなりません。大きな組織になればなるほど思い付きで"ポン"とやることは難しくなりますよね。要はどちらが先かということですが、僕たちはクリアしなければいけないことは後から計算すればいいと考えている」と辻さん。

 具体的には、思い描くイメージをまずは簡単な図面に起こし、各分野の協力会社に渡して試作を依頼する。そしてそれを同社の工場に寄せ集めて、組み立ててみるというものだ。「最終データとしては、もちろんきちんとしたものを起こしますよ。でも、とりあえず作ってもらう。それでもし、まずいところがあったらその部分を作り直してもらえばいいですし。三次元キャドとか色々便利なものはありますけど、それよか実物見たほうがイメージも湧きますし早いですよね。実物が出来たら、今度はそれを蹴ってみるとか、押してみるとか。すると変形とかしますよね。だったら、それを直してもらうと――それが出来る場所なんです、ここ(・・)は。」

同社で手掛ける製品には、どこにも「アドバン理研」という社名は入っていない。しかし最後の言葉を耳にしたとき、「ユーザーのために使いやすく、喜んで貰える製品づくりに全力を注ぐ」ために求めてきた辻氏の理想の空間がそこにあると感じることができた。 どこよりも強い信念と情熱で更なる進化をとげる同社を応援したい。

 

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