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サクセスリポート  

株式会社 エチエ農産
〒629-3552 京都府京丹後市久美浜町女布684
TEL.0772-84-0625 FAX.0772-84-0633
http://www.echie.jp/


古くから米どころとして名高い京丹後市久美浜町で、2年連続10回目となる「特A」評価(最高ランク)の丹後コシヒカリや旬野菜を生産販売するエチエ農産。自分たちで育て、値段をつけたこだわりの農作物を消費者に直送直販し、成長を遂げる同社の六次産業への取り組みについて伺った。

 
 

自然豊かな里山で、人にも環境にも優しい安心・安全な丹後コシヒカリや京野菜などの生産販売に取り組む農業法人・エチエ農産。代表取締役の越江雅夫さんが就農したのは平成6年。会社勤めの傍ら実家の農作業を手伝っていたが衰退していく地域農業に心を痛め、自宅裏山に国営農地が造成されたことを機に農業一本に打ち込む決心をした。有機栽培を始めたきっかけは、近年報告されている子供の農薬による健康被害を地元の医師から耳にしたため。自身も予てから当たり前の様に使われる農薬に疑問を感じており「農家だからこそ、子供が食べても安全な食べ物を作りたい」そんな思いから一から安全な土づくりと堆肥研究に取り組んだ。

 

手塩に掛けた米や野菜の多くは、流通を介さず自分たちで値を決め、消費者や取引先へ“直送直販”する。当初はJAを通していたが、例えば米なら無農薬であろうがなかろうが“丹後産米”としてJAのライスセンターで他の生産者の米と一緒に精米されJA価格で共販される。手間に見合う収益は上がらず「本当に価値を分かってくれる人に、適正な価格で買ってもらうことができれば」そんな思いから徐々に販路を開拓していった。 平成6年には、地域にミニライスセンターを設置し保管・精米・袋詰めなどができる体制を整えた。販売先の開拓については地元商工会へも相談を持ちかけた。紹介されたのが生産農家と流通や加工、レストラン業などのバイヤーが集まる『商談会』。「実際に食べて頂きこだわりを説明すると“やっぱり旨い”と質の高さを認めてもらえ取引に繋がることも」と手応えを話す。

地道な努力が実を結び、評判は口コミで広がり次第に取引先が増えていった。ニーズに応える内に耕作面積と栽培品目も増え、さらに近隣農家のライスセンターの利用、農作業受託等の依頼とあいまって地域ぐるみの農業を牽引する存在になった。越江さんは安心・安全な食をより広く発信するため、信頼と経営の向上を目指し法人化を決意。平成19年に家族で株式会社を立ち上げた。

 

市販品との差別化を図る同社では、米は除草剤を年に一回しか散布しない特別栽培米の他、完全無農薬の有機栽培米を手掛ける。特別栽培米は周辺の生産者と栽培法を統一し自社ブランド品として一括出荷。野菜部門でもおよそ20品目で府内初の(※)エコファーマーを取得した。

独自のこだわりはホームページ(以降、HP)やブログでも発信する。地元商工会の勉強会で学んで以来IT活用に積極的で、HPもかなり早期から立ち上げていた。常にカメラを携行し作物の育成状況や有機栽培の取り組みの様子、地域の行事などタイムリーな情報をブログにアップ。この情報公開が信頼を生み、最近はHPを見ながらの注文や商談が増えているという。

※)持続農業法に基づき、土づくりや減化学肥料・減農薬などの環境に優しい農業に取り組む農業者を対象として各都道府県で認定する制度

 

生産した農作物を加工・販売し新たな収益を確保する六次産業にも着手した。手始めに平成21年に聖護院大根の千切り大根を開発。これは広島市の総菜メーカーに出荷し駅弁のおかず等に使われている。さらに加工米を京都市内の味噌業者と契約栽培し、異業種との連携で自慢の農作物に新たな価値を吹き込んだ。

昨年は、地域の農業仲間で立ち上げた「のうゆう会」で手掛けた無農薬の生姜の加工食品「生姜のたいたん」や「生姜ごはんの素」が農水省から初の六次産業の認定を受けた。続いて新商品「粉末生姜」の開発も進行中で、今年度中にも商工会からのエキスパートを利用しパッケージのデザインと販売戦略を練っていく予定だ。

 

のうゆう会の結成は昨年3月。近年の米価の低迷を受け、新しい収益を求めるために京丹後市の農家7名で立ち上げた。六次産業で生姜に注目した理由は「獣害にあいにくい作物であること」に加え、「この地域では戦前から食べられてきたもの。また最近は美容や健康のために生姜を使った食品やアイテムが増えている」こともあり、期待は十分にできると踏んだためだ。

商品開発に先立って、メンバーで生姜の一大生産地・高知へと偵察に赴いた。様々なアイテムから、売れる商品の可能性を探り最初に着手したのは、故郷の昔懐かしい味を復刻させた「生姜のたいたん」である。「この地域では、おばあちゃんおじいちゃんの時代は生姜を薄く切って甘辛く炊いたものをおかずにして食べていたんです。今では誰もやらなくなったんですけど、あつあつのごはんと一緒に食べると美味しい。生姜の名産地は他にある。ここならではの商品を考えた」と越江さん。

生姜の加工は知人からの紹介を通じて京都市内の総菜メーカーに依頼した。メーカー側も農商工連携として六次産業に関わる新たなチャレンジに意欲的に取り組んでくれたそうだ。やがて商品が完成し、その後農林水産省の総合化事業計画に応募したところ見事認定。助成金を得て、現在次なる商品「粉末生姜」の商品化に取り組んでいる。粉末生姜の着想は高知での偵察で得た。生姜は日持ちしない作物である。作り手としても、秋の収穫から長期保存は難しい。しかし、このように粉末にすることでフレッシュな香りや風味を長期間保つことができる。料理に使ったり、飲み物に入れたり、そのまま香辛料として振りかけて味わうなど様々な用途が期待できる。「何より、粉末生姜という商品で無農薬、安心安全というのは珍しいと思います。味も香りも原材料が良いから最高だと思います」と自信を覗かせる。

 

信頼と経営の向上を目指し、株式会社として法人化したエチエ農産。役員は3人で代表取締役が越江雅夫さん、取締役に妻の敏江さんと長男の昭公さんが就任した。昭公さんの妻・絵梨さんのほか、男性3人が社員で他十数人のパートで構成される。

一農家よりも、社会的に信用される法人格をもった組織になったことのメリットも種々あった。販売者責任を明らかにすることで、金融機関や行政との関係がスムーズに築けるようになったことや、決算報告書で一年間の経営実績が明確になり、次年度へ向けての意欲が高まったことなどが挙げられる。また、家族以外の雇用を生むことで家内工業的にならず、常に新陳代謝のある社風が生まれ、ビジネスとして新しい取り組みにチャレンジできる土壌が醸成されることも大きいだろう。

 

同社のホームページには、買い物が楽しめる受注システムが採用されており、米のほか旬の野菜、加工品などを購入することができる。四季折々の旬の農作物がラインナップされている中でも面白いのが、季節の野菜7〜8種類を詰め合わせた「野菜ボックス」という商品。聖護院大根や日の菜、甘藷、玉ねぎ、枝豆、人参など、詰め合わせにする野菜はシーズンにより異なり、「まるで玉手箱を開けるようだ」と購入者に大変喜ばれているそうだ。エコファーマー、有機JAS栽培という安心安全の証も消費者の心を掴んでいる。

ちなみにHPとは別で開設されているブログでは、先述したとおり作物の育成状況や日々の出来事といったリアルタイムの情報を発信している。朝露に濡れる稲穂や、おいしそうに太った大根など写真のクオリティも大変高く、このブログが販売促進に繋がっているのも頷ける。ちなみに、元々は市販のHP制作ソフトを使っていたそうだがブログと本サイトが効果的に連動し合う現在の形へのリニューアルは、商工会から派遣しているエキスパート制度を利用したとのことだ。

 
 

農業における様々な先進的な取り組みで注目されるエチエ農産。平成23年度には、京都府環境にやさしい農業コンクール知事賞を受賞し、昨年は全国環境保全型農業推進コンクールにおいて優秀賞、第61回全国農業コンクールで優秀賞を受賞するほか、農林水産省の六次産業化のボランタリー・プランナーに任命されるなどその活躍は止まらない。

また、平成19年から平成21年の3年連続で「特A」評価を受けた丹後コシヒカリのブランド力をさらに上げるために京丹後市が3カ年計画で行った「トライアル農地・水稲有機栽培実証事業」(京丹後市主催)でも圃場の提供と管理で協力。行政をはじめ、京都吉兆の料理長・徳岡邦夫総料理長、技術指導の農家らと共に知恵を絞り、農薬や化学肥料を一切使用しない有機栽培米づくりに取り組んだ。

この事業を通し、同社の圃場は水稲でも有機JASの認定を受けることとなった。ちなみに有機JASとは、農薬や化学肥料を全く使用せず有機資材と田んぼのもっている地力で栽培する地域環境にも優しい栽培方法であることを認められたもので、京都府下でもまだ数件しか認定されていないそうだ。

 
 

「夢は、これからさらに安心・安全でおいしい農作物をどんどん作っていって、みなさんに喜んでもらうこと」と話す越江さん。そのためには自分の会社だけではなく、地域の生産者が元気になり、消費者と生産者がより身近で強い繋がりをもてるようにしていかなければと語る。

そんな越江さんは地域の生産者に声をかけ「丹後熊野農産物生産者グループ」を立ち上げた。平成23年からは、京都生協のコープ二条駅店、続いて醍醐石田店に地域で育てた自慢の農作物を出荷。大変好評を得ている。

また、予てから生協を通じて丹後コシヒカリを提供している京都府立大学・府立医大の学生との交流も生まれている。秋には生協スタッフと共に学生たちがツアーを組んで訪れ、農作物の収穫体験や餅つき大会などを楽しむというものだ。それが縁で、今年の春から1名の学生が同社への就職が決まったそうだ。新たな戦力として仲間を迎える越江さんの目が優しく細められる。


自分たちの力で強い地盤を築き、消費者目線で誠実にものづくりに取り組み、新たな道を切り開いていく越江代表。

これから先の、ますますの発展を期待したい。

 

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