隆至さんは、店を効果的にPRする方法も模索している。知恵の経営報告書の作成を機に改めて「自分の店の価値がよくわかった」と様々な「強み」を確認したものの、それをうまく外へと伝えるノウハウの構築はこれからとのことだ。
「お料理にしてもロケーションにしても、サービスにしても、力はありますし他のお店に勝てる自信はあります。でも店の伝統として、これまで積極的に“営業”というのをしてきませんでした。そこが弱みです。誰彼にでもPRするというスタンスではありませんが、届けたいターゲットの許に効果的に届く仕組みを作っていきたいと」話す。
そんな中でも、隆至さんが特にこだわっているのは「いかに、注目させるか」という点。
「例えばメニューなどに、わかりやすいキャッチコピーがあったらいいですよね。僕も、商工会の青年部の事業などで、率先してキャッチコピーやコンセプトを作りますけど、自分の店のことになると難しくなります。四苦八苦しながら考えているんですよ!」と笑いながら話す。
そんな試行錯誤の中で創られた一つに「う道楽なべ」がある。猪のシーズンに終わる4月から期間限定で提供している料理だ。厳選された国産鰻本来の美味しさを引き立たせるために一度白焼きにし、京風だしで水炊きにして好みでポン酢に付けて頂く。上質な鰻の美味しさを存分に味わえる逸品としてファンも多いが、長らく「ぼたん鍋」のように料理名がないことに気が付き命名したというわけだ。鰻を一風変わった趣向で楽しめ、お酒も進む奥深い味わいである。美味美酒に浸りながら、「道楽気分」を味わえるまさにうってつけのネーミングといえる。
また、同店は冬季の「ぼたん鍋」春の「う道楽なべ」のほか、夏の「鱧なべ」、秋に「地鶏すき」と四季を通して滋味溢れる鍋料理が味わえる。しかし、「鍋だけちゃいますよ!」と隆至さんがいうように、実のところ常連客から特に愛顧されているのは、新鮮な地野菜や厳選された山海の幸をふんだんに使った季節の懐石料理とのこと。「初めて当店の懐石料理をお召し上がりいただいた時に、山の中でこんな美味しいお造りを頂けると思わなかった!などといったお声を沢山頂きます。これからは、そういったこれまでのイメージだけではない新しい魅力も発信していきたい」と抱負を語る。