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サクセスリポート  

早蕨山荘 赤政
〒610-0255 京都府綴喜郡宇治田原町郷之口向井24
TEL.0774-88-2380 FAX.0774-88-2380
http://www.shokokai.or.jp/50/263441S0002/


日々の業務に追われる中で、自社の強み・弱みが分からなくなってしまったり、後継者の事業承継の際に代々の思いや歴史を上手く伝える方法が見つからない等のお悩みはないだろうか?社歴を整理し、目に見えない経営資産を可視化することでそれが解決策に繋がることもある。創業100余年を迎える老舗料亭の知恵の経営報告書への取り組みを取材した。

 
 

古来、茶の名産地と知られ、今も懐かしい里山の原風景を残す宇治田原町。早蕨山荘 赤政はここで明治末期から続く老舗料亭だ。

「最近は食の多様化から様々な業態の飲食店が増えていますが、本来は美味しいものを食べる場所。料理、もてなし、設え全てでここならではの本物をご提供します」とは五代目を継ぐ福永隆至さん。家業に入ったのは5年前のことで、現店主の父・善夫さんが「この10年が最も厳しい時期だった」という通り、地元に宴会のできる料理店の出店等が重なり、不景気の中で顧客を分け合う状況が続いていた。地元商工会の経営支援員から知恵の経営報告書の作成勧められたのはそんな時。後継者として、現状の打開策と進むべき方向性に頭を悩ませていた隆至さん。目に見えない財産(知恵)を「報告書」にまとめることで赤政の現状を客観的に把握し、打開策を見出せるかもしれないと考え提案を受け入れた。

 

作業は店の歴史を紐解くことから始まった。創業年月日からメニューの変遷、各時代の大きな出来事を年表にまとめ、サービスや事業内容を改めて確認しながら問題点や強みを探る。何せ百余年の歴史を有す店。古い文献までも調べる作業になったが、改めて様々な強みに気付くことに繋がった。

例えば創業以来の名物「ぼたん鍋」の旨さもその一つ。一般的にぼたん鍋は猪肉の臭みをおさえるため出汁に赤味噌が使われるが、同店では臭みのない天然猪肉の芳醇な風味を生かす白味噌仕立てで供する。さらに、その美味しさの源泉を探ると、過去に自店で猪を解体していたノウハウが素材を仕入れる際の「目利きの技」として伝承されており、高品質な商品提供の基礎となっていた。

こうして仕入れた食材を料理に仕立てるノウハウもさることながら、それを頂く空間も特別なものだった。同店は元々、料理旅館として創業したため建物は旅館造りで、隆至さんはそんな昔ながらの日本家屋をかねがね「古臭い」と感じていたそうだ。しかしゲストを癒すゆったりした雰囲気は、旅人を暖かく迎え入れてきたもてなしやその心が無形の財産として受け継がれているからこそ。「一代で百年の歴史は作れない」ーー歴史の重みを受け止めた隆至さん。その魅力を守り伝えていく決意を強くした。

 

古きを守る一方で、新たな取り組みにも挑戦している。経営支援員やエキスパートらから助言を受け、初めて地域情報誌に広告記事を掲載した。これまでは積極的なプロモーションは行わず「お客様が新しいお客様を呼び込んでくれる」繋がりによる集客を身上にしてきた。しかし、固定客の高齢化やニーズの多様化もあり、新規顧客の開拓も必要と考え実行に。結果「店の存在は知ってはいたけど敷居が高くて…」と予てから興味を抱いていたが、きっかけを掴めなかったお客様からの予約が相次いだ。今後は「ご贔屓頂いている既存のお客様にご迷惑をおかけしないよう、頻度や媒体の選定を慎重に行いたい」と課題と共に手応えを話す。

同店では3代目以降「オーナーシェフにならず店主と料理人は切り離して店の舵取りに専念する」をモットーにしてきた。父・善夫さんも、お客様と直接の触合いを重視し店の内外問わず深い信頼関係を築き現在の赤政を導いた。「今までの50年より、先の50年はもっと厳しい時代になる。様々なことを学び頑張って欲しい」と善夫さん。引き継がれ、進化を重ねるこれからの同店に期待したい。

 

いわゆるオーナーシェフにならない、という方針には理由がある。経営者が調理に特化すれば、素材に拘るあまり原価率の高騰に歯止めが利かなくなり、結局店がもたなくなってしまうと考えたからだ。

「私も子供の頃から色々なお店に行ってますけど、ええなと思ったところはなくなっていくんですよ。拘りがあるお店が高いレベルを保ちながらも続けていくことは難しい。でも、やっぱりうちは“料理屋です”と胸を張ってお客様をお迎えしたいし、創業以来ずっとそのスタンスを貫いてきたからこそ今の赤政がある。だから、店としての拘りと経営的なことを合わせて上手くいくように模索しながら努力しています」。

さて自慢の料理であるが、同店では代々、料理長から料理長へと秘伝のレシピが伝授され、長年の知恵と経験が受け継がれている。さらに、その変わらぬ味を守るだけではなく、時代のニーズ、さらに個々のお得様の好みを拾いながら微細に調整されているそうだ。その秘密は、顧客とのコミュニケーションを重視した店主の働きにある。お客様や外部との関わりに重点を置くことで、固定客の好みを把握しさらに仕入れ先などとのやり取りで様々な最新の情報を入手する。

4代目の善夫さんが目指すのは、常連となったお客様から「料理の具合は任せるので、いいように仕立てて」と一任されることだという。これまでの経験を通し、望まれるおもてなしを具体化する。それが結果的に熱烈なファン=リピーターの多さに繋がるというわけである。

 

隆至さんは、店を効果的にPRする方法も模索している。知恵の経営報告書の作成を機に改めて「自分の店の価値がよくわかった」と様々な「強み」を確認したものの、それをうまく外へと伝えるノウハウの構築はこれからとのことだ。

「お料理にしてもロケーションにしても、サービスにしても、力はありますし他のお店に勝てる自信はあります。でも店の伝統として、これまで積極的に“営業”というのをしてきませんでした。そこが弱みです。誰彼にでもPRするというスタンスではありませんが、届けたいターゲットの許に効果的に届く仕組みを作っていきたいと」話す。

そんな中でも、隆至さんが特にこだわっているのは「いかに、注目させるか」という点。 「例えばメニューなどに、わかりやすいキャッチコピーがあったらいいですよね。僕も、商工会の青年部の事業などで、率先してキャッチコピーやコンセプトを作りますけど、自分の店のことになると難しくなります。四苦八苦しながら考えているんですよ!」と笑いながら話す。

そんな試行錯誤の中で創られた一つに「う道楽なべ」がある。猪のシーズンに終わる4月から期間限定で提供している料理だ。厳選された国産鰻本来の美味しさを引き立たせるために一度白焼きにし、京風だしで水炊きにして好みでポン酢に付けて頂く。上質な鰻の美味しさを存分に味わえる逸品としてファンも多いが、長らく「ぼたん鍋」のように料理名がないことに気が付き命名したというわけだ。鰻を一風変わった趣向で楽しめ、お酒も進む奥深い味わいである。美味美酒に浸りながら、「道楽気分」を味わえるまさにうってつけのネーミングといえる。

また、同店は冬季の「ぼたん鍋」春の「う道楽なべ」のほか、夏の「鱧なべ」、秋に「地鶏すき」と四季を通して滋味溢れる鍋料理が味わえる。しかし、「鍋だけちゃいますよ!」と隆至さんがいうように、実のところ常連客から特に愛顧されているのは、新鮮な地野菜や厳選された山海の幸をふんだんに使った季節の懐石料理とのこと。「初めて当店の懐石料理をお召し上がりいただいた時に、山の中でこんな美味しいお造りを頂けると思わなかった!などといったお声を沢山頂きます。これからは、そういったこれまでのイメージだけではない新しい魅力も発信していきたい」と抱負を語る。

 

アグレッシブに日々活動する隆至さん。営業活動のほか、こまめに各種会合や総会へ参加し各所でのネットワーク作りに尽力する一方で、店では配膳などの手伝いからゲストのもてなし、店舗の手入れなどにも力を注ぐ。

そんな隆至さんの将来の夢は、店の規模を拡大することーーとはいっても、支店をどんどんと作るのではなく、首都圏や主要地域に「宇治田原町の赤政」の魅力を知ってもらうためのアンテナショップ的な店を出すということだ。最終的には、それによって消費者に赤政の存在を知ってもらい、ゆくゆくは地元・宇治田原町にまで足を運んで頂き、地域の活性化の一助になればと話す。

料理屋の跡取りとしての仕事の一方で、音楽活動にも携わっている隆至さん。実は、地元で初めて本格的なブリティッシュブラスバンドを立ち上げた経歴を持ち、その後、大きなホール等での演奏活動も行っている。現在は、ジャズライブに力を入れ、その特技とネットワークを生かし、店で食事を楽しみながらジャズライブを楽しむという取組みも検討中だ。


今回取材に訪れた「早蕨山荘 赤政」。豊かな山並みを背に、川のせせらぎの畔に立つロケーションも申し分ない。春には蕨やつくしが道端で顔を覗かせ、初夏は蛍が舞い秋には紅葉が山々を彩る。“古都”のよく手入れされた洗練の美とはまた違う、豊かな自然の懐で過ごす一時は忙しさに追われる現代人にはこの上ない安らぎのひと時になるはず。もう一つの京都、ともいえる宇治田原町へ。皆様も、一度訪れてみてはいかがだろう?

 

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