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民谷螺鈿(たみやらでん)
〒627-0212 京都府京丹後市丹後町三宅312
TEL.0772-75-0978 FAX.0772-75-1955
公式facebookは、「民谷螺鈿」で検索


2011年のパリコレで採用、今年の(※)プルミエール・ビジョンの特設ブース「メゾン・デクセプション」(ずば抜けた匠)への出展を果たした織物業・民谷螺鈿。一流メゾン(ブランド企業)からの引き合いも徐々に本格化し「ようやく今までの取組みの芽が出始めた」と二代目の民谷共路さん。ここからが本当の勝負所と話す。

※パリで開催される世界最大の繊維と服地の見本市。選び抜かれたテキスタイルメーカーが出展しトレンドも充実。

 
 

貝殻に宿る海の煌きを糸にして織り込んだ、世界でも類を見ない螺鈿織物。今から約30年前、民谷織物の初代・民谷勝一郎氏が着物用の帯に貝の真珠層を織りこむ技法を研究し、約二年の歳月を経て完成させた。深海に届く煌めき、海中で揺らぐ光のプリズム。神秘的な日本美を意識した独創的な意匠は和装の枠を越え、洋装生地として海外に活動の場を広げつつある。

 

海外進出は、地元商工会から「JAPANブランド育成支援事業」への参画を勧められたことがきっかけだった。地域の織物業者が一堂に集められ「パリで展示会を開いてみないか?」と背中を押されたという。丹後は国内最大の高級ちりめん(絹織物)の生産地。だが和装業界全体の落ち込みから転廃業が後を絶たず、自身も予てから自社の帯生地を和装以外に生かす道を模索しており挑戦を決意した。

一回目のパリ行きは平成17年。全てが初の経験で「生地一つとっても反物で売るのかバック等の商品に仕立てた方がいいのか右も左もわからない状態だった」と民谷さん。現地では展示品が到着しない等、想定外のトラブルも発生したが、同行した商工会連合会職員等と力を合わせ何とか開催にこぎつけた。大きな取引には至らなかったが、丹後の織物は目の肥えた海外のバイヤーから高い評価を得、大きな自信に繋がった。次年度からは海外取引に詳しいコーディネイターの協力を取り付けることに成功。言葉の問題から効果的な商品の展示法、顧客へのアプローチ法等、様々なサポートと指導を受け徐々に実質的な成果に繋げていった。

それから7年。“丹後テキスタイル”の浸透と新たな道筋の開拓の為、仲間と協力しながら毎年展示会を開催。「継続は力なり」と言葉では簡単だが、補助を受けつつもかかる労力や金銭的負担は少なくなかったはず。プルミエール・ビジョンに出展することでようやく逆転の糸口を掴んだ同社も、その直前は経営的・精神的に追い込まれ家族からも海外進出を考え直してはどうかと言われるような状況だったという。この諦めない強さが“チャンスの神様”を引き寄せたのかもしれない。

 

螺鈿織の技術を応用し、従来は使うことが難しかった和素材等を織り込んだ生地も海外顧客の心を掴んでいる。「今現在、原材料を厳選するなどして価値を高めているラグジュアリーブランドでは、より高い付加価値を付けることにより更なる差別化を図ろうとしている。だから上質かつ独創的な生地を必死で探している。これはチャンスなんです」と民谷さん。しかし、幾ら丹後織物の評価が高くとも日本のものをそのまま海外に持って行けばよいのではない。柄や色を始め、洋装用に仕立てる生地幅など嗜好や習慣の違いに合わせる必要がある。成功するか否かは、トレンドを含めこういった情報をいかに素早く入手できるか――。ゆえに作り手は全てを商社やコーディネイター任せにするのではなく、自ら現地に赴きその土地の空気を吸って、顧客と信頼関係を築くことが重要なのだと話す。「言葉は通じなくても情熱は伝わる。最後に心を動かすものは人。それは日本も世界も変わらない」という言葉も印象的だった。

海外での評価は、国内展開の追い風にもなっている。今年の10月には、最先端のファッション・文化を発信する大阪・梅田の大手百貨店で「丹後テキスタイル」と「丹後の食」をテーマにしたビッグイベントを開催し反響を呼んだ。「丹後の織元として守るべき日本の伝統も大切」とも話す民谷さん。今後も国内・海外の「両輪」で双方が付加価値を与え合える事業展開を目指し、将来的には丹後を「世界が一目置く織物産地」にすることを目指す。

 

大阪・梅田の大手百貨店でのイベントでは、「TANGO(丹後)」という言葉が前面に出されており、これまでの一つの成果だと民谷さんは話す。

丹後といえば、西陣の帯の実に8割を織っているほどのちりめんの名産地。しかし、一般的に着物といえば“京都(市)”がイメージされるように、あくまで同地は下請け先の一つとして認識されがちである。この現状から脱却し「丹後」という名で一つのポジションを築き、次代に繋がるようにしていきたいと同氏は話す。そんな未来を夢み、予てから構想していたことも現実のものになりつつある。関係ができた海外メゾンの担当者らが、少しずつ丹後に訪れ始めているという。今のところ紹介先は自身のグループが中心だが、今後は地域の他の事業所にもこの動きが広がっていって欲しいと民谷さん。「来られる方も、1つ2つ見て終わりよりも、同じ生産地の中でもそれぞれ特徴の異なる工房をたくさん見ることができれば、来たかいがあると思う。色んなバリエーションの中から、こことここを組み合せれば・・・という発展的な話にもなるし、こちらも様々な提案ができるようになる。丹後は、本当に優れた技術や設備が地域単位で残されている特別な場所。あとは行政や商工会の力もお借りしながらその潜在力を高め、将来的には産地の新しい市場開拓に繋がればと思います」。

ちなみに、大手百貨店のイベントについては市や振興局に企画を持ちかけたところ、行政の強力なバックアップを得られたという。元々、国内展開での戦略を考えていた際に、商工会の職員が各地の百貨店などに営業をかけていた経緯もあり、その繋がりがこのタイミングで花開いてきたとのこと。海外での評価を「逆輸入」する形で、大手百貨店を始めアパレルメーカー、建築デザイナー、服飾デザイナーなど様々な方面からのアプローチも増えてきているという。

 

民谷さんが重要視していることの一つに自社のイメージ戦略がある。その象徴的なものの一つに、自らが制作・運営する公式facebookがある。サイトのメインビジュアルは美しい砂浜に打ち上げられ煌めく貝殻。どこかノスタルジックな工房での作業風景や、アート作品のように写されたテキスタイルの写真は見ているだけでも飽きることがない。伝統に新しいセンスをミックスすることで表現する、独自の世界観。合間合間に展示会の情報や、海外の注目記事をシェアするなど見る側の視点を考えた工夫も散りばめられている。

「日本人はどちらかといえば自分の感性で良いと判断するよりも、自分以外の評価、例えば、著名人や世界に認められるといったことに価値を置く傾向にあります。海外の人たちは、自分がいいと思ったものに対しては、誰が何といおうと自分を押し通すものの選び方をする。それぞれの長所や美徳はありますが、そのあたりの事情もあって日本国内で世界に通用するラグジュアリーブランドはなかなか育ちにくい。でもこれからは人口も減ってきますし、景気がものすごく回復することがあったら別ですけど、今あるパイだけでみんなが食べて行くのは難しいと思う。だから、世界からお客さんを引っ張って来れる、世界に認められるものを作っていくことが重要だと考えています」。

ちなみに、facebookは運用方法が的確であれば低コストで高い効果が期待できるプロモーションツールとして注目され、多くの企業等で運営されている。更新・管理は比較的易しいので、機会があれば、一度実施の検討をしてみてはいかがだろう。

 

商工会や連合会からの支援については「ギリギリで走っている時に、補助金申請などの紹介・段取り等のサポートで積極的に動いて頂き、ずいぶん助かりました」と民谷さん。また今後、事業所を会社組織化していく中で、わからないことなどを気軽に聞ける場所があるのでどんどん活用していきたいとのこと。「本や雑誌で知識を得ることも大切だが、一番の近道はよく知っている人から直接聞くこと」とも話してくれた。今、本記事をお読み下さっている経営者や会社企業の皆様も、今ある問題点の解決、これから先の展開のための施策等々、お困りのことがあればお気軽に地域の商工会にお声かけ頂きたい。


伝統ある丹後から織りなす、新しい未来のカタチ。願いが遥か海を渡り、しなやかに花開くことを期待したい。

 

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