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サクセスリポート  

誠長設備工業/SEICHO(セイチョー)
〒622-0034 京都府南丹市園部町熊原西内畑29-1
TEL.0120-62-1688 FAX.0771-86-8277
http://seichoweb.com/


電力事情を背景に省エネが求められる昨今、注目されているのが断熱リフォームだ。2020年には、国内すべての新築住宅で省エネ基準が義務化され、新たなビジネスチャンスを呼び込むことだろう。今回はそんな断熱リフォームを、新たな切り口で推進する若き経営者に取材した。

 
 

年間、およそ1万7000人。家庭内において、ヒートショックで亡くなる人の数である。犠牲者の多くはお年寄りで、その割合は交通事故による死者の約4倍。車が行きかう道路より、家の中で入浴したり、トイレに行く普段の生活の中に危険は多く潜むというから驚きだ。「数字を聞いた時は信じられなくて、今の住環境の実態を知りたいと思い、園部町の50世帯に聞き取り調査をした」。そう話すのは、園部町で建築・リフォーム業に携わる今西正長さん。地元で厚い信頼を得る水道工事業者で、自宅の新築を機に「自分が思い描く家を自分で建てたい」と猛勉強を始め、4年前に建築士の資格を取得した。

今西さんが目指すのは人にも環境にも優しく、四季を通して快適な住空間の提案。とくに介護が必要になった祖母との生活で実感した断熱施工に対する思い入れは深く「家屋内のどの場所も温度差のない、暖かな家ほど人の健康維持に役立つ」と、省エネだけではない高断熱・高気密住宅の魅力を話す。

 

新築以前の今西さんの自宅は昔懐かしい茅葺の家だった。風情はあるが冬場の寒さは大変なもの。冬暖かく、夏涼しい新居にお祖母さんは大変喜ばれたそうで、介護が必要な不自由な生活でも風邪など一切引くことなく穏やかに過ごすことができたという。

しかし、そんな快適さを実現するための信頼できる工務店探しには随分と骨を折ったそうだ。当時断熱が比較的新しい分野ということもあり、工務店やハウスメーカーの殆どは施工法や材質に対するこだわりや深い知識を持っていなかったというのである。「収納や間取りなど目に見えるものに比べて、断熱性や耐久性、防湿性などは後回しにされがち。しかし建ってしまえば“見えない箇所”こそ、本物の家づくりで大切なことではないか」と、下請で入る建築現場でも日々感じていた今西さん。以来、住空間に関する様々な勉強会に参加し、本から知識を得、気になる建材があれば実際に取り寄せ安全性や耐久性を検証した。

現在、同社が新たな核事業として注力する「断熱リフォーム」は、その過程で出会ったアメリカ産の「セルロースファイバー」という断熱材を使ったものだ。原材料は新聞紙。元々木からできている自然素材のため人と環境に優しく、現在日本で主流を占めるグラスファイバーとは異なり湿度を調節する特徴を持つ。この機能がうまく働かないと家は結露をおこし、壁の内部にカビやダニなどが発生してハウスダストやシックハウス症候群の原因にもなる。「住宅にとって、壁とは人間の皮膚のようなもの。ここがうまく機能しないと、人も家も長生きすることができない」と今西さん。一人でも多くの人に、そのことを伝えたい、と熱く語る。

 

こうして立ち上げた新事業は、今年の2月に地元商工会の支援により、「経営革新計画」に認定された。同計画は、企業が新しい事業を行う際にビジネスプランを作成して役所に申請し、承認が得られた場合には様々な支援策を受けられる制度だ。

今西さんは計画書の作成の際、事業の特徴をより明確化するために、サーモカメラによる施工前後の室内の温度変化を"見える化"することを考案した。地元・園部町の50世帯にヒアリングした際「断熱化には興味があるが、現状からどの程度変わるのかわからない」や「以前、施工したが年々効果が薄れている気がする」などの声が聞かれ、そんな不安や疑問の解決に一役買い、そこから受注に繋がればと話す。サーモカメラの購入は、京都府の「ステップアップ補助金」を利用したという。「これまで商工会とはイベント等で時折関わりあうだけでしたが、支援を受けることで、様々な企業経営に役立つ情報を得ることができた」と今西さん。商工会に入ってよかった、と心から実感できたそうだ。

 

サーモカメラを用いた安全・安心な「断熱リフォーム」の原点は、建築士を取得するよりさらに以前に遡る。近年、世間を騒がせていた住宅の化学物質やシックハウス症候群に関心のあった今西さんは、ホルムアルデヒドやVOCなど住宅にまつわる有害物質を測定する専用のガス検知装置を取り寄せ、様々なメーカーの建材を独自に調べ、そのデータを集積したという。

その背景には、「本来、人を守り、安らぎを与えるはずの住宅が、人に害を及ぼす存在であってはならない」という思いがあった。一方で、有害物質を出さないクリーンな建材(自然素材)に着目し、展示会などがあるたびに紹介をしていたという。しかし、当時は建築士の資格も持っていなかったため、周囲からは不思議な目で見られ、ほとんど相手にされなかったという。

「子供のアトピーをはじめ、自閉症や多動症も、報告によると住宅に使われている化学物質が関係しているケースがあると言われています。お年寄りはヒートショックや熱中症が脅威ですし、それらを未然に防ぐためにも、皆さんに正しい情報を知ってもらわなければならない。でも、そのためには、情報を発信する人が必要ですよね。他の人がやらないなら、自分でやろう。そう決めた」と建築士を取得したもう一つの理由を教えてくれた。さらに、「見た目のきれいさだけに走って、夢のマイホームの有害物質に汚染され、医療費などにお金が言ったら元も子もないですから」とも話す。

無論、自身が手掛けた住宅も、ガス検知装置やサーモカメラの対象となる。どれほど気を付けていても、測定の際にはやはり緊張するそうだ。しかし、「嘘がつけないからこそ、精度の高い施工や建材選びができる」と、依頼主の安心・安全が保障できるメリットを語ってくれた。

 

取材を通して、今西さんは非常に努力の人であることが分かった。一念発起して建築士の資格を取得したというが、勿論言葉でいうほど簡単な話ではない。独学では難しいと考えた今西さんは、水道工事業者として仕事を続けながら専門学校へと通うことを選び、1年間まったく休みなしの生活に突入した。週3日は、仕事を終えてから福知山市の専門学校へ片道1時間半かけて通う。講義が終わるのは夜の22時。日曜日は一日中学校へ行き、朝は毎日5時起床、仕事が始まるまで勉強し、終わったら食事のみ済ませてすぐまた机へと向かった。「昔から決して器用な子供ではなくて、人の二倍三倍努力をしないと、人と同じことができないんです」と今西さん。人知れず努力を重ね、結果へとたどり着くことができる気持ちの強さに頭が下がる。

一方で、いざというときの勝負強さも持ち合わせており、「経営革新計画」のプレゼンテーション前に行われる「ブラッシュアップ会」では、並み居るスーパーバイザーからの質疑応答にも機転を利かせて対応し、これまでにない高い評価を得たという。経営革新計画は、青年部の諸先輩の講演において、強く取得を進められていたことで関心を持ったとのこと。先の事業計画を自ら建てることのできるノウハウを学ぶために、チャレンジしたそうだが、南丹市地域の商工会経由で取得できたケースは初めてだったという。

今年度は「断熱リフォーム」の受注が拡大しつつあり、今は職人でチームを結成して、技能特訓を行っているという。そして、この3月からは、「建築・設計・施工部門」を 「SEICHO」(セイチョー)として独立させた。


今後も、住まいから、人と環境の健やかな未来を目指す同氏の取り組みから目が離せない。

 

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