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サクセスリポート  

 
有限会社ナム・コンセプト
〒622-0034 京都府船井郡京丹波町須知色紙田3-5 丹波マーケス内
TEL.0771-82-3173 FAX.0771-82-3173
http://www.arakyo.jp/blog/1187


京都市内から府北部まで、京都を貫く高速道路・京都縦貫道路の全面開通は、観光を始めとする地域活性やビジネスに大きな影響を与えるだろう。来年にはハイウェイテラスもオープンする京丹波町で飲食店を営むナム・コンセプト代表・沖哲司氏に直近の取り組みを聞いてみた。

 
 

「丹波牛すじカレー、580円。手頃でしょう?以前はフードコートということで定番のカレーは480円でした。丹波牛にして100円値上げしたのにお客様も増えて売り上げは5割増。決して値段じゃないんですよ。」と話すのは、ナム・コンセプトの代表取締役・沖哲司さん。道の駅丹波マーケスのフードコート3店舗(シン・サン・カレー、揚記ラーメン、丼の都屋)と、国道9号線沿いにあるそば料理店「咲家つる丸」のオーナーだ。

多店舗を展開し日々の業務に追われる沖さんが、『知恵の経営報告書』の認証に至ったきっかけは地元商工会の経営支援員からの勧めである。商工会からのサポートを受けながら取り組みを進めるうちに、これまで意識していなかった自社の強みや魅力を見出すことができ、スタッフにも共有できたことは大きなプラスになったと話す。さて同報告書で自社の進むべき道を理解した沖さんが、最初に手掛けたことはフードコートのメニューの見直しだ。同報告書で丹波マーケスの見通しを予測したところ、今年度中に開通予定の高速道路(京丹波わち〜京丹波IC)の影響で主要顧客のビジネスマンが減る一方、観光客が増えることが見込まれたためだ。沖さんは早速、観光目的のお客様にも納得頂くための新メニューを練り、このGWから先のカレーの他、丼店では「京丹波ポークと草原の輝き卵の他人丼」、ラーメン店では「京丹波ポークのWチャーシュー麺」等の販売を始めた。美食材の宝庫・京丹波らしい高品質なご当地グルメは、フードコートならではの早さと手頃さも相まって予想以上の手応えだという。

 

売れ行き好調な新メニューだが、その理由の一つを「商品名の力」と沖さんは話す。確かにメニューには「丹波牛」や「京丹波ポーク」「草原の輝き卵」と、魅力的なご当地食材の名が入る。既に高級食材のイメージが定着してきた丹波牛は580円という値ごろ感に驚くし、草原の輝き卵に至っては一体どんな卵かと好奇心を擽られる響きである。素材の肉は変わってもカレー自体の見た目は変わらない。言葉は商品の伝えきれない魅力を補足し、より効果的にPRするために有効な手段なのだ。

商品が店全体の方向性を決めることもある。「咲家つる丸」は、11年前にフードコートより利益率の高い営業形態をめざし開店した。交通量の多い国道沿いなので通りがかりに気軽にそばをすすってくれるハズと思いきや、経営は厳しく毎日余る大量のそばに悩まされた。発想の転換は自宅の食卓にて。余ったそばを奥さんがじゃこやごま油などで甘辛く炒め、お酒のアテにしてくれた。それは大変美味しく、沖さんはやがて混ぜご飯にして供することを着想する。メニュー化すると好評で「ざるそばや天ざるだけではない、そばが“味のある脇役”になってもいい」との考えに至ることに。現在のマクロビオティック(全粒穀物と野菜中心の食事スタイル)食事法と絡めたそば定食の名物「そば飯」はこうして誕生。そしてそば屋から、そばが名物の体にやさしいごはん屋さんとしてのコンセプトが徐々に固まり、今では県外からお客様が多く訪れる人気店となった。

 

縁あって同社の代表となって13年。食材の多くは地元京丹波から仕入れるそうで、商工会のサポートもあり地域の様々な生産者とのネットワークが広がった。豚や鶏などの畜産物から採れたて高原野菜や果物、黒豆、米まで取引は幅広い。美味しく安全、そしてお客様に満足頂ける価格で提供できるのも、こういった繋がりがあるからこそ。地域の生産者や販売所をマッピングした地図を見せてもらうと“宝の地図”さながら数多の恵みをもたらす集落の輪郭が浮かび上がった。

今後、地域の方々と連携しながら自然豊かな京丹波でグルメ観光の輪を広げていきたいと沖さん。来年には、ハイウェイテラス・京たんば(仮称)の開業も予定されており注目は必至だ。雄大な自然に包まれた美味し国へ。皆さんも、ぜひ足を運んでみてはいかがだろう?

 

可能な限り食材は地元のものを__という思いが始まりとなって、今では多くの生産者さんたちと仲良くなった沖さん。しかし、京丹波に来た当初はそういった繋がりは全くなかったそうで、一軒一軒、自ら訪ねて行って少しずつ関係を広げていったそうだ。ちなみに沖さんのご出身は大阪の高槻市でいわゆる都会っ子である。生来の好奇心の旺盛さや人に好かれるお人柄がそうさせるのか、農家などのお父さんとお母さんから様々なことを教えてもらえるといい、そこで知った京丹波の魅力をもっともっと広めていきたいと話す。

「地域活性には、よそ者(外部視点)、若者、ばか者(失敗を恐れずがむしゃらに引っ張っていく人)の3者が必要と言われますが、確かにその通りで地元の人ほど、他にはないその地域ならでは良さに気が付きにくいと思います」と沖さん。京丹波町に来た当初、沖さんが気付いたエピソードをご紹介しよう。代表就任当初、フードコートのメニューに地域性を出したいと考えていた沖さんの目についたのが特産品の黒豆だった。黒豆といえば、お正月に食べるツヤッと立派な煮豆を想像すると思うが、沖さんが考えたのは、豆として食べる黒豆ではなく、加工食品として使えないか?ということだった。「お正月食べるような黒豆は本当に見た目も素晴らしいですが、普段から食べられるような値段のものじゃない。何故かというと、あれが出てくるまでにもっとたくさんの不良品とかB品があって、そのB品も売ることができないから農家の人がご家庭で食べているそうなんです。それを聞いたとき、折角丹精込めて育てられたものだし、農家の方にもお金になればいいなと思うのと、僕らとしても黒豆の栄養が白大豆よりあるのは知っていましたし、これをなんとか商品化できないかと考えました」。実現すれば、両者にとって嬉しい話だ。沖さんは早速メニュー開発に取り掛かった。そして試行錯誤の末、黒豆を焙煎して黒豆きなこにし、それを麺に配合した黒豆ラーメンを売り出した。このメニューが、フードコートに最初にできたご当地メニューである。主役級の食材をあえてサブにもってきたこれまでにない発想は評価を得、現在は改良が加えられ麺ではなくスープに黒豆を配合した形で提供されている。

 

「メニューは、基本的に自分が安心して食べたいと思えるものをご提供したいと考えています」と話されるように、ナム・コンセプトで提供する料理は新鮮で美味しい食材を使うことは勿論、化学調味料は基本的に使わないなどその調理法にまでこだわりがつまっている。

そんな作り手の思いが伝われば、私たち消費する側は、お店に行きたいと思わないだろうか?「咲家つる丸」は、現在、土日であれば一時間待ちになる人気店であるが、沖さんは作り手の思いなどを効果的に伝えるPR手法として、ワクワク系マーケティングを実践しているそうだ。同マーケティング方法は、単純に商品のPRをするのではなく、店や運営する人の熱狂的なファンを作ることで集客や売り上げに結びつけるというもの。同店ではアンケートを設置し、記入して下さったお客様に3日後に御礼のはがきと次回来店の際のクーポンをお送りし、以降はニュースレターとして新そば・年越しそばの案内、地域の季節のイベント、季節の食材のお役立ち情報などをお届けしている。

「大切なことは、遠くに住む友人から届く便りだと思ってもらうこと」と、決してDMチラシにならないように気を配っているそうだ。また、昨今集客ツールとしてはケータイメールやパソコンなどで行う場合が多いと思うがロケーションや地域のイメージを考えると手紙やはがきのようなアナログツールのほうがあっていると沖さん。主要顧客である中高年の方には信頼と安心感を持っていただけるだけではなく、若い人たちには逆に新鮮に感じて頂けるという。ただシンプルに「いかに、お客さんをワクワクしていただけるか」__同マーケティングは飲食店から、街の電気屋さんやリフォーム屋さんなど様々な業種で応用できるので、皆さんも一度検討されてはいかがだろう?

 

ナム・コンセプトの代表に就任する以前は、大阪や京都で洋菓子店やカフェ、レストラン、空港でのフードコート出店などで様々な経験を積んでいた沖さん。飲食業界のスペシャリストともいえるが、もともと飲食業界自体に興味があったわけではなかった、と意外なことを話してくれた。

関西大学在学中から、放送局でADとして働き、そこで企画やプロデュースに関する仕事の面白さに目覚めた沖さんは、企画系の仕事ができるということで卒業後は洋服を手掛ける某有名アパレル会社に就職した。入社当時は、DCブランドブーム真っただ中。当時、アパレル会社が洋菓子店を開くことが流行しており、沖さんの会社でも洋菓子部門が新設された。そこで名乗りを上げた沖さんはやがてその事業を引き継ぎ独立の道を歩んでいく。その後は、様々な業態の店舗を開業させ、平成13年に知人の縁で同社を任されるようになったそうだ。

今現在、京丹波に深い関わりを持つようになったこれまでを振り返り「その時々のタイミングでご縁のあった仕事を拒まずお引き受けし、取り組んで来たらここに辿り着きました」と沖さん。この仕事はやりたくない、過去に経験がないからできるか不安__こと新しい挑戦を目前にすると多くの人は戸惑い、現状を守るために尻込みするだろう。しかし、「僕の場合は抗わない!来た方が運命だよなあっていう認識なんです」というように、沖さんはそこであえてチャレンジし努力することを選んできた。もちろん、失敗したこともあるはずだが、日々新しいものを受け入れ自らの血肉にし、成長を重ねた結果が現在歩む道に繋がった。「やらされているのではなく自分で決めて走り出したことなので。そう考えたほうが、大変なことがあっても苦しいとかじゃなくて、色々楽しみながら取り組んでいけると思います。」そんな風に話す沖さんの佇まいは、あくまで自然体で力強い。

今年、同社には大学を卒業した地元の若者が入社を希望し、新入社員となった。「若い子たちには、なんでも積極的にチャレンジして、失敗も成功も自らの糧に成長していって欲しい」と話す。若さというエネルギーは、いつの時代も大きな推進力になるはずだ。一人の力より、二人、三人…。多くの人々の知恵とパワーが化学反応を起こし、イノベーションを巻き起こす。同社が描く夢の実現に期待したい。


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