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舟屋の宿 まるいち
〒626-0424 京都府与謝郡伊根町字亀島940番地
TEL.0772-32-0608
http://www.funaya-maruichi.com/


「舟屋の里」として有名な海の町・伊根。国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、最近ではミシュラングリーンガイドで二つ星が付くなどその注目度は世界的に広まっている。そんな伊根で、ここ数年30〜40代のUターン組による「1日1組」限定の舟屋民宿の開業が相次いでいる。もとある地域の資産を生かし、新たな事業に挑戦する若き経営者の思いとは?

 
 

「丹後半島の北端、U字型に入り組む静かな入江に面し、およそ230棟の「舟屋」が軒を連ねる。海側から眺めると、まるで水面に浮かんでいるようにも見えるこの建物群は、漁船を収容するための当地特有の建築で、古来、海と共に暮らすここ伊根町の人々の暮らしを支えてきた。

「今でこそお勤めの人も増えましたが、元々伊根は漁師の町。豊かな海で自然の恵みを頂き、波の音を聞きながら日々の暮らしを営んできました。そんな伊根ならではの風景や時間を、自分なりの形で残していきたいと思った。」そう話すのは、地元で主に観光客向けの釣り船業を営む永浜秀俊さん。子供の頃から海で遊ぶことが大好きで、3年前に11年間務めた介護福祉施設を退職し、故郷での起業を決意した。自宅の舟屋を改装し、「1日1組限定」の舟屋の宿を開業したのは今年の5月の事。「若い今が頑張りどき。好きなことも仕事にできましたので、精一杯やります。」と穏やかな笑顔で、自慢の舟屋の宿へ案内してくれた。

 

骨組みを残しほとんど改築したという舟屋は、伝統的な外観に対し、中身は現代風のしつらえである。船の格納スペースだった1階部分は間近に海を臨むリビングとなり、2階には眼下に伊根湾を一望できる畳の間とベットルーム、バスルーム等が設けられた。「こだわりだすと、とことんまで」と永浜さん。重厚感ある梁や、それに調和する優しい色合いの土壁、切子のルームランプなど内装の細部に至るまで建築家と相談し、人に優しく、ほっと心和む空間を目指した。

改修には、予想以上の予算がかかったとのことだが、その一部は京都府の助成金制度「きょうと元気な地域づくり応援ファンド」を活用したという。同ファンドは地域力の再生・活性化に繋がる新しい事業やサービスに取り組む小・中規模事業者に対して行われるもの。地域の観光業に弾みをつけるために、舟屋民宿の開業支援に力を入れる伊根町商工会の支援で取得した。申請は初めてのことで、きちんとした応募書類やプレゼンができるか心配だったというが、書類作成を通してこれまで積み重ねた実績や先の展望を改めて考えることとなり、結果、認定取得に繋がったと話す。また、サラリーマン時代に培ったパソコンや文書作成のスキルなどを活かすことができたのも、新たな自信に繋がった。

オープンから2か月余り。ご宿泊のお客様からの評判も上々だが「まずは、より多くの人にお試し頂きたい」と当面は素泊まり1泊6,000円のみで営業する。ゆくゆくは、食事などの提供も視野に入れていきたいそうだ。

 

舟屋の宿 まるいちに宿泊するならば、釣り船「まるいち丸」での釣り体験もお奨めしたい。出船は午前の部と午後の部の1日2便。手ぶらで乗船できる魚釣り体験(3時間5,000円)や、エギング(アオリイカ釣り/4時間5,000円)など、初心者向けのコースがあるのが特徴だ。「普通は魚が釣れるポイントまでは30分、一時間とかかかるものですが、伊根湾は外海に出なくても穏やかな湾内で様々な海の幸に出会える。近場だったら穴場のスポットまで10分ほど。燃料代も抑えられますので、手頃な時間と価格での体験メニューをご提案できると思った。」と着想の原点を話してくれた。

「興味があっても、様々な理由で体験できなかった方が釣りに親しむきっかけになれば。漁船から見る舟屋の風景も格別です。」と永浜さん。季節ごとに何が釣れるか、また舟屋での宿泊と絡めてどんな楽しみ方をご提案できるかも模索中だ。これから秋にかけてはアオリイカがよく釣れる。女性やお子さん、お年寄りは勿論、ファミリーや友人、恋人、夫婦で。歴史ある舟屋の里で、思い出に残るひと時を過ごしては如何だろう。

 

11年間勤め、ケアマネージャーの資格まで取得した前職を辞し、起業を決断させるきっかけの一つになったのが、同じ伊根の仲間の存在だったという。「彼は当時成功するはずがないと思われていた高級志向の舟屋の宿を成功させた。」と永浜さん。漁村の原風景を思わせるノスタルジックな風景で旅人の心を慰める舟屋は、一方で地元の人たちにとっては日々の暮らしが営まれる当たり前の生活の場でもある。高級旅館でもホテルでもない、そんな舟屋でワンランク上の時間を提供するという発想は、永浜さんをはじめ、当時の町の人々にはなかったそうだ。「改めて伊根の可能性に気付かされた」と永浜さん。そんな新鮮な驚きが、35歳を迎えて夢に挑戦するという大きな決意の後押しになり、「行政の支援策のお蔭もありますが、最近伊根では僕と同じくらいの年代のUターン組が舟屋民宿を開業するのが相次いでいます。」と話してくれた。

 

慣れ親しんだ海への知識と操船の腕に自信があった永浜さんだが、いかんせん経営に関しては手探りでのスタートだった。起業に関わる諸事を地道に片付けながら、兎にも角にも、まずはお客様に来て頂くことが先決と、釣り具店にチラシを捲きに行ったり、独自でホームページを立ち上げるなどPR活動に勤しんだ。中でも、ブログへの反響は大きかったそうで、日々の釣りの成果や四季折々の伊根の出来事や風景をアップすることで、徐々に“伊根ファン”“まるいち丸ファン”のお客様を増やしていったという。

今夏には釣り船のホームページをリニューアルするほか、新しく宿のホームページも開設した。facebookやブログと連動させながら、伊根の魅力や宿の情報、釣りの成果などを発信していきたいと話す。

 

「昔は40軒ほどあった舟屋の宿も、今では10軒ほどになりました。漁師さんも減って、伊根湾に浮かぶ船の数も昔に比べて少なくなった。」と永浜さんが話すように、観光地として人気の高まる一方で、伊根では高齢化による過疎が進んでいるという。これから先の十年、百年。多くの人に愛されている伊根の風景や文化を守るためには、ここで紡がれてきた暮らしの灯を守る必要がある。ゆえに、「観光の目玉と言って目新しいものをバンバン作って、そこにしか人が行かないというのではだめだと思う」と話すように、今ある宿やお店、漁師さんたちが普通に利益を得られて町全体で潤う仕組み作りが必要だと話す。

「例えば、先の事はまだわかりませんが、僕の宿でも食事を仕出しという形で提供することも選択肢の一つとして考えられます。そんな連携も、町ぐるみで良くなっていく方法だと思う。でも、意外と同じ地域内にあるお店でも現状どうなのか、この先どうしていきたいか、近い存在である割にはお互い知らないことも多い。勿論、連携しようにも、伊根には足りないお店や産業もある。そこも踏まえて、協力しあえる土壌づくりを行政や商工会の力も借りながら作っていきたい。」__

互いに連携しあうことが実現すれば、おのずと提供できるサービスや、その質も向上するだろう。すると、お客様は“伊根ファン”としてもっと根強いリピーターになるはずだ。そんな繋がりの一歩一歩が、やがて皆が愛する地域の風景や文化を守っていく力になる。

今、京都府では日本海に面した北部地域の観光を、ソフト・ハード両面で振興していく『海の京都』事業が進められている。さらに、今年度末までには京都府の南北を繋ぐ京都縦貫自動車道が全線開通。近隣の京都舞鶴港には海外からの大型客船が就航する予定になっており、陸路・海路双方からのアクセスが飛躍的に向上する予定だ。

北部地域が大きく変わろうとしているが、その主役は、行政ではなくもちろん地域の人々である。この先、どのような進化を遂げるのか。同宿のこれからが実に楽しみである。


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