「昔は40軒ほどあった舟屋の宿も、今では10軒ほどになりました。漁師さんも減って、伊根湾に浮かぶ船の数も昔に比べて少なくなった。」と永浜さんが話すように、観光地として人気の高まる一方で、伊根では高齢化による過疎が進んでいるという。これから先の十年、百年。多くの人に愛されている伊根の風景や文化を守るためには、ここで紡がれてきた暮らしの灯を守る必要がある。ゆえに、「観光の目玉と言って目新しいものをバンバン作って、そこにしか人が行かないというのではだめだと思う」と話すように、今ある宿やお店、漁師さんたちが普通に利益を得られて町全体で潤う仕組み作りが必要だと話す。
「例えば、先の事はまだわかりませんが、僕の宿でも食事を仕出しという形で提供することも選択肢の一つとして考えられます。そんな連携も、町ぐるみで良くなっていく方法だと思う。でも、意外と同じ地域内にあるお店でも現状どうなのか、この先どうしていきたいか、近い存在である割にはお互い知らないことも多い。勿論、連携しようにも、伊根には足りないお店や産業もある。そこも踏まえて、協力しあえる土壌づくりを行政や商工会の力も借りながら作っていきたい。」__
互いに連携しあうことが実現すれば、おのずと提供できるサービスや、その質も向上するだろう。すると、お客様は“伊根ファン”としてもっと根強いリピーターになるはずだ。そんな繋がりの一歩一歩が、やがて皆が愛する地域の風景や文化を守っていく力になる。
今、京都府では日本海に面した北部地域の観光を、ソフト・ハード両面で振興していく『海の京都』事業が進められている。さらに、今年度末までには京都府の南北を繋ぐ京都縦貫自動車道が全線開通。近隣の京都舞鶴港には海外からの大型客船が就航する予定になっており、陸路・海路双方からのアクセスが飛躍的に向上する予定だ。
北部地域が大きく変わろうとしているが、その主役は、行政ではなくもちろん地域の人々である。この先、どのような進化を遂げるのか。同宿のこれからが実に楽しみである。