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福岡織布株式会社
〒619-0222 京都府木津川市相楽八ケ坪1番地
TEL:0774-72-3144    FAX:0774-72-8758


「お客様に喜んでいただける商品を提供する」をモットーに、自社でしかできない製品づくりで業界のオンリーワン企業を目指す福岡織布株式会社。上質な特殊生地から量産品まで、多種多様な織にも対応できる技術力と、製造から加工までの一貫生産で取引先から厚い信頼を得ている。今回は、「できないと考えるよりも、どうすればできるか」という、同社のものづくりの根幹を支える思いの源泉について伺った。

 
 

「昔の織機はメンテナンスに手間はかかるし、仕事のスピードも遅いですけど、うちの主力はこいつらです。」傍らで稼働するシャトル織機とレピア織機を頼もしそうに見つめる福岡貞男さん。昭和2年の創業以来、織物業を営む福岡織布株式会社の三代目である。高級感ある襖生地をはめ、柔らかな風合いが魅力の草木めのストール、特殊な化繊を用いたカバンなどの白生地は、30年以上も使い込まれたこれらレトロな織機によるもの。最近の機械にはない"ひと手間"かけた仕上がりで、取引先の心を掴んでいる。

福岡さんが先代から続く襖以外の白生地製造を始めたのは、自身が業を引き継いでからのこと。きっかけは、突然の病による三か月もの入院生活。強制的に仕事の第一線から離れざるを得なくなった氏は、その中でこれまで深く考えることもなかった常日頃の業務や、厳しい繊維業での先行きについて改めて考える機会が持てたという。そしてこの先、既存の事業をそのまま踏襲し、引き継ぐだけではいけないと、自らの手で襖に続く新しい分野を拓いてゆくことを決めたのである。

 

転機は数年経って訪れた。ある染物問屋から、草木染めのストール生地を織れないかとの相談が持ちかけられた。草木染めのストールは、一点一点が作家の手仕事によるこだわりの品。そのため素材となる白生地も既製品にはない質の高さが求められ、同社に声がかけられたという。新たな挑戦に福岡さんの期待は膨らんだ。しかし予想に反して現場で出たのは「既存の織機で対応するのは無理だ」という反対の意見。幅が1メートルある襖に比べて、ストールの幅は50センチ程度と狭く、織機自体に何らかの工夫をしないと織ることができそうになかった。また何より一番の障害になったのは、メーター巾用の織機はメーター巾の生地を織るのが当たり前という業界の常識である。しかし、先の入院生活で「一歩離れた目線で見てみる」ことの大切さに気付いた福岡さん。固定概念を捨て「できないと考えるより、どうすればできるかを考えよう」ということこそ大切と、古い織機を稼働させている事業所を何十軒とまわり、試行錯誤の末に打開策に辿り着いた。

そして、新たにストール生地の生産を始めることとなった同社。これを機に小ロットにも対応できる体制を整え、この2年後には新たに特殊なナイロン繊維を使ったかばん生地 の生産・加工も受注した。両製品は、積極的な営業活動の成果もあり、今や襖に続く二本目、三本目の柱として成長を遂げている

 

「太い木が一本あっても、それはいつか痩せてくるかもしれないし、嵐が吹けば倒れてしまうこともある。事業も同じです。だから、会社の屋台骨を支える柱は、なるべく多い方がいい。」と福岡さん。現在、三本目に続く四本目の柱の確立を、息子の善基さんに託している。善基さんは体育教師を経て家業に入り、今年で7年目を迎えた。昨年には事業継承を見越し、商工会等のサポートで知恵の経営報告書の作成にチャレンジ。見事認証された。

報告書の作成を通して「これまで蓄積されてきた自社独自の強み、そして弱みを知ることができた」と善基さん。今後は、製品づくりにおける豊かな経験と知識、そして加工 (加工部門は、別会社で丸由産業株式会社を経営)までに応える高い技術力を生かし、自社オリジナルのアイテムを作っていきたいと話す。一方、「後継者がいるということは、現状維持ではなく、先に進んでいけるということ。息子にはとても感謝している」と代表。将来、自身が会社のトップになるまでに、恐れず自由に、善基さんならではの新しい感覚で、様々な挑戦をして自身の糧を増やしてほしいと話す。受け継がれていくバトンは、さらなる高みを目指していく。商工会もその夢の実現に向けて支援していく構えだ。

 

家業に入って7年。現在は、織物部門の責任者として日々仕事に励む善基さんだが、教職を辞めてからのこれまでを振り返ると、覚えることも膨大で、あっという間のことだったと話す。そんな日々の中、「2〜3年くらい前から、現行の父のやり方と、私が思うやり方で違うところもあるのでは…」と悩んだ時期もあったといい、そんな思いも知恵の経営報告書を作成する理由の一つになったと話してくれた。「いずれ自分が上に立ってやっていかないといけないなら、会社ができてからの沿革も全て知って、その流れの中でどんな強みを手に入れて、現在どんな弱みが悩みどころなのか。そこを把握した上で、自分がこうだと思うやり方を徐々に試していきたいと思った。」と善基さん。実際に、報告書を作成することで父である現社長が作った体制の意味を理解することができたといい、長所・短所を把握したことで、自身が継ぐまでにやらねばならないことがより明確になったそうだ

一方の福岡代表も、「数年経験した時点で、外から見て今の会社がどうなのか、どうしたらいいのかを考える非常にいい機会と思いました」と知恵の経営報告書の話を了承した時の考えを話してくれた。自身も代表就任の際に、たまたま入院することで客観的に会社の状況や世の中の流れを見ることができ、それが現在の方向性を導く原点になった。日々の業務にどっぷりはまり込んでしまうと、今そこにあるものが当たり前になり、別の可能性に目がいかなくなってしまう。だから、まだ善基さんが若く、自身が後ろ盾になれるうちに、様々な冒険をしてそこにあるものを“当たり前と思わない”豊かな見る目を養ってほしいと思っているそうだ。

 

知恵の経営報告書の作成で、自社の長所と短所を理解できたという善基さん。基本的にお客様からのご要望には、お応えできるように努め、様々な織布製造に対応できる一方で、その多品種対応ゆえにかかる手間__例えば、織機の設定の変更や、製造ラインの調整などの作業効率をもっと精査し、改善していかなければと話す。そのために、まずは各工程の予定や納期を今よりしっかりと詰めていき、社内間でもっと共有できる仕組み作りを目指している。

さらに、過去20数年に渡って製造開発してきた製品の「糸」と「織り」の資料帳をデータベース化していく予定ともいう。同資料帳は、長年、同社を支え続けている工場長の知恵と経験が詰まった貴重なノート。「品番」「糸の種類」「たて糸の総本数」「よこ糸とたて糸の密度」「ギア比」「使用織機ナンバー」「たて糸の柄の組織図」等、独自性で他社に差をつける同社の生命線ともいえる情報が詳細に記されている。

現在の織布業界に置いては、生産性を重視するあまりに織機も古いものはどんどんと廃れ、それに伴い熟練の織り子も減少している。最先端の機械にはマネのできない、人の心と技が生きた布を織り続けていくためにどうするか__。それは善基さんに限らず、これからの世代に課せられた共通の使命なのかもしれない。


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