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サクセスリポート  

株式会社 前田組
〒622-0015 京都府南丹市園部町木崎町東川端13-1
TEL:0771-68-3366    FAX:0771-63-0788
http://www.maedagumi-jp.com/

先代の急逝により、30歳の若さで事業を継承。新たなビジネスモデルへの挑戦と挫折、どん底からの再生。「ピンチをチャンスに変える」__。園部町で土木・建築業を営む株式会社前田組の3代目社長・前田知洋さんに、あきらめず、コツコツと歩みを続けることの大切さを伺った。

 
 

「ピンチが、一転してチャンスに変わる」。起こりそうで起こらない、ドラマのような出来事の始まりは、今から十数年前にある社員が起こした仕事上でのミスが発端だった。そのミスとは、お客様に納品する芝生の誤発注。引き取った大量の芝に埋め尽くされ、あたかも芝生広場のようになってしまった自社の資材置き場を前に前田社長は「捨ててしまっても仕方がない」と考え、「芝生売ります、少量から」という連絡先を記した手書き看板を設置したそうだ。

反応は程なくして現れた。相次いだのは、業者ではなく一般のお客様からの問い合わせ。「一体、何が起こってるんやろう?」。不思議に思った前田さんが社員と共に調査すると、“DIY需要”の密かなブームから、自宅や庭の駐車場に芝生を自分で貼る家庭が増えていた。さらにそこから、住宅の外回りや庭をリフォームしたいという潜在的な需要があることを突き止めたそうだ。事業の継承以来、競争の激しい公共工事から脱却して他社と競争しない新たなサービスを模索していた前田さん。「これだ!」と思い、当時まだはしり・・・ともいえる、「エクステリア(外構工事)・ガーデニング事業」への進出を決意したのである。

 

外構や庭の施工に関するノウハウを、新たに学び獲得した同社は平成19年に、お洒落なログハウスのエクステリア・ガーデンニング展示場をオープンした。大量の芝を保管していた場所に因み、付けた店名は「Field Grass」。対行政・企業から、一般のお客様にむけた「B to C」ビジネスへの挑戦の始まりだった。

だが現実は甘くなかった。莫大な設備投資で立ち上げたにも関わらず、お客様は殆どやってこない。曰く「始めて2年は、死にたいと思ったこともある」というほど苦しい状況に陥ったという。そんな前田さんが再び立ち上がるきっかけをくれたのは、旧知の同業の先輩だった。一番心の弱っている時に、“ついでがあって、様子を見に来た”と訪ねてくれた先輩は、何も言わずに一冊の本を置いて行った。松下幸之助著「道をひらく」である。お父様の急逝以来、人の何倍も努力を重ね、ひたすら前進してきた前田さん。書かれた言葉の一つひとつが、打ちのめされた心に響いた。そして、そこで「築いてきた自信が、いつの間にか過信に変わっていた」ということに気付かされたと話す。経営者だからこそ、謙虚であれ__。同様の苦労を経験したからこそ分かる “無言の優しさ”に触れ、ここからまた一歩、歩み続けることを心に決めたのである。

 

「人としてどう生きるか。その考え方が変わると、仕事への取り組み方もかわってくる。失敗して恥かいて、初めて自分一人の力では何にもできひんということに気が付いた」と前田さん。その後、社員一丸となってのチラシ配布や、敷地内イベントの実施を工夫しながら続けた結果、3年経ってエクステリア・ガーデニング事業は軌道に乗り始めたという。

それから数年の時を経て、昨年3月にはお客様からの要望もあり、敷地内にカフェをオープン。建物の改修には地域応援ファンドを活用したといい、併せて隣地に建設した新社屋(本社)のビル内には学習塾を誘致した。テナントとしてログハウスに入居してもらっている手作り雑貨のお店や携帯電話の販売店と共に、人が集まる“きっかけづくり”に協同してもらっているという。「周りへの感謝を忘れないことと、自分を戒める時間を作ること。この二つは忘れたらあかん」と同氏。昨年は商工会からのサポートを受けながら、「知恵の経営報告書」を作成し認証された。その目的の一つは、大切なスタッフたちにそんな思いや歴史を含め、前田組の原点ともいえる「心」を伝えていきたかったからとのこと。創業して今年で86年。100年目を迎える頃、どんな素敵な進化を遂げているのか__実に、楽しみな将来である。

 

京都府下でも数少ないガーデニング専門店として、県内外からのお客様も絶えない「Field Grass」。ガーデニング雑貨の他、アプローチやフェンス、パーゴラ、ウッドデッキといった数多くのアイテムが、実際、庭に飾られているのを見たりして選ぶことができる。敷地内の店舗は、全て同社で取り扱っているログハウスが使われており、来店されたお客様は、雑貨だけではなく前田組のエクステリア、ログハウス、ガーデニング工事の全てを体感できるというもの。ゆえに、雑貨だけではなく、外構や庭の工事といったエクステリア事業への横展開が期待できるというわけだ。

そもそも同社が、エクステリア・ガーデニング事業に進出したのは、単純にブームがきそうだからといった理由だけではない。元々、前田組は確かな実力で地域をはじめ、全国の顧客に厚い信頼を築いてきた土木・建築業者である。「土建屋さんがうどん屋やろうと思ったら、厨房から丼から色々なものがいるけど、土建屋さんがお庭屋さんしようと思ったら、スコップからダンプカーまで全部使うことができますよね」という風に、工事に必要な機材や資材などは新たに調達せずとも手持ちの財産として揃っていた。また、一つひとつの施工も同じ工事に変わりはない。となれば、あとはノウハウを学べばいいだけである。しかもインターネットが普及した世の中である。勉強しようと思えば、いくらでも教材は落ちているし、あとはどれだけ本気になれるかにかかっている。付加価値としてのサービスも必要だが、まずはモノ(商品)がいいことが絶対条件、と前田さん。そこから、知識やセンスを磨くために、ひたすら努力を重ねていったのである。

 

そんな「Field Grass」の設立にまつわる話をご紹介したが、多彩な事業を展開しても、軸の中心にあるのはあくまで株式会社前田組である。「絶対、ぶれへん。」とご本人もおっしゃるように、主たる営業内容は、建築工事であり(土木もちょっとある)、最終的にはそこに仕事が依頼されることが目標である。

「建設業というのは、お客様にファンになってもらわなあかん仕事なんです。じゃあ、どうすればいい?となったら、それはきっかけを作っていけばいい」。昨年、オープンしたカフェも、第一の目的はお客様との接点となる「きっかけ」づくりの為である。

同店のカフェに立ち寄った。カントリー調の玄関アプローチから、まるで外国のような庭園を抜け、お洒落なログハウスの店内へ。明るい笑顔のスタッフに出迎えられ、本格的なダッチコーヒーや手作りスイーツをゆったり寛ぎながら頂ける。おしゃれな雑貨や、お庭の話などで会話も弾む。とくに女性にとっては夢のような空間だろう。カフェは、オープンからまだ一年経っていないが、おかげさまで評判は上々とのこと。隣接してスーパーも建っているため、今後は、地域のコミュニティ創出の場としても発展させ、繋がりをさらに深めていきたいと話す。

 

「うちの従業員は、みんな笑顔が素敵。これだけの笑顔を持っている社員は地域の他の会社をみてもいないと思う。」と話されるように、同社の誇る資産の一つはやはりそこで働く従業員の方々である。前田さんが、スタッフを採用する際の目安にしているのが、まず第一に笑顔、そしてもう一つは、物事に一生懸命取り組めるかということだという。

「うちのプランナーは、いざ忙しいとなった時に現場のスタッフと一緒に泥だらけになって働くことができる。それが、強みなんです。」と前田さん。ご自身もあるときは社長で、ある時は営業マンに、そしてあるときは現場の作業員として共に汗を流す。もちろん逆も然りで、現場の作業員も自分は前田組の“顔”であることを意識しながら仕事についている。「例えば、自分のご近所でお庭の工事をされてたら、色々と気になるじゃないですか。なので、施工させて頂くお家のご近隣の皆さんには、工事が始まる前に、うちのチラシと花の種、工事のご案内書を持って、“ご迷惑をおかけします”とご挨拶に行かせて頂きます。」と話す。特に、意識しているのが挨拶だという。通りかかられた近隣の方々に、明るい笑顔で「こんにちは」や「ありがとうございます」など、積極的に声をかけ、良好な関係を築くよう心掛けているという。

良質な仕事をするのは当然のことで、それがプロとしての最低ライン。同社が目指しているのは、「お代金を頂く時に、ありがとう。と言ってもらえる仕事をする」ことだという。例えば女性であれば、美容院にカットにいって、とても素敵な感じに仕上がれば、店を出るときに「ありがとう」の言葉を伝える。それは、お客様の心をおもてなしするサービスが提供できているからだ、と前田さん。お客様にとっては、例えその日に入社したアルバイトでもプロの一人に違いない。その都度の快い対応の積み重ねが、やがて厚い信頼に繋がり評判は人から人へ、そして次の仕事へと繋がっていく。それは初代、先代から絶えず前田組が続いてきた根幹でもある。

ゆえに、前田さんはスタッフがお客様から専門外の質問等をお受けしても、お客様にとってストレスなくご理解頂ける応対方法をアドバイスしているそうだ。例え、その場では満足にお応えできなくても、誠心誠意の対応をさせて頂き、専門のスタッフへときちんと引き継ぎができればお客様の心に響かせることはできる。接客は「お客様」と「お店の代表者」とのコミュニケーションだ。その日の売り上げよりも、信頼して頂けるリピーターを作る気持ちが大切と前田さん。心のこもった「おもてなし」のためには、どうすれば、何をすればいいのか?その方法を、後進に教えるのも大切な仕事の一つなのである。

 

前田さんは日々、どれほど多忙であっても、「自分を戒める時間を積極的に作ること」を意識しているという。「どんな役職や立場でも、“長”って付き始めると周りの人は何にもいってくれなくなる。そんな環境に慣れてしまうと、人は勘違いをして天狗になってしまう。」

ゆえに、今の自分を顧みて、考えがブレていないか、信頼されるに足る人間かを推し量る必要があるという。前田さんの、自分を戒めるための方法の一つが読書だという。話題の書籍から経営、哲学に至るまで、多彩なジャンルを大体月8冊ほど読んでいるそうだ。また、懇意にしている銀行の応接室に月一度は訪れ、お茶を飲みながら支社長や支店長と話す時間を作るという。「彼らはどの職業の人よりもシビアやし、ズバズバとモノを言ってくれる。それで、自分自身を判断できる。」

前田さんが自らを奮い立たせる行動指針は、「タフネス、スピーディー、ハイモチベーション、ポジティブ」。時には立ち止まって自らを確認し、リセットする時間を持つことの大切さを教えてくれた。

 

聞くところによると、創業して100社あるうち、5年後に残っているのはおよそ3社くらいだという。そして、その生き残った3社がまた100集まって、10年後に残っているはたったの3社ほど。氏も、創業ではないが「Field Grass」の立ち上げから3年間はずっと赤字で、そこを耐えてやっと軌道に乗ることができた。もちろん、3年後にも赤字が出た月もある。そこで諦めずに続けてこられたのは、先々代から受け継いできた前田組を守るという、腹を括った志の強さに他ならない。

「起業に際して、目標とか夢を持ってる人はわんさかいます。その次、どうしたらその目標や夢を叶えられるか。具体的に目標を達成するための方法を考えられるひとはグンと減る。それでも、経営者としてはまだ一歩手前なんです。そこで最後に出てくるのが志。僕が考える志とは、そのすべてに対して命がけで行動できる人。それができたら、トップに立つことができる。」

そう語る同氏は、「もうだめかもしれない」と思った時に気が付いたことがあるという。先祖から土地とかお金ではなく、すごくありがたい財産を受け継いでいたということだ。代々作り上げてきた人の大きさが大きければ大きいほど、変えていくにはさらに大きな力が要るはずだ。その苦しみの渦中に、おそらく前田さんは今もいるのだろう。しかし、誰よりも日々笑顔を絶やさず、仕事に励む。「楽しくなるように仕向けると、楽しくなるもんや。運を呼び込むのは、行動あるのみ。ポジティブ、スピーディー、タフネス、ハイモチベーション。これを、実践できるかどうかだけの話。自分を、戒めることから始めないと__。」

志とは、その会社がなにゆえに存在するかという企業理念にも通じる。その志が分かち合われ、受け継がれていけば、未来の扉がまた一つ開いてゆくのだろう。


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