同社が、純米酒を中心にした個性ある酒造りを目指したのは、今から10年ほど前のことだ。元々、地域で消費される清酒(普通酒)を中心に造ってきたが、酒処であるここ丹後でも日本酒の需要は低下していた。地域の消費が縮小していくなら、販路を拡大させるしかない。が、それは各地の有力酒蔵やナショナルブランドと競り合うことを指す。「同じようなものを作っても勝てない」。先の方向性を模索していた時に、地元で古代米を研究する郷土史家、故・芦田行雄氏から、とある米の種籾が持ち込まれた。純米酒シリーズを生み出すきっかけとなる、幻の酒米「亀の尾」である。
酒造りは、亀の尾を栽培してもらえる農家を探すことから始まった。地元の信頼する契約農家に栽培を託し、やがて実りを迎えた幻の酒米は、様々な試行錯誤を経て極上の純米酒に生まれ変わった。商品化に当たり名付けを考えた行待さんは、日本酒の原点に回帰することを考える。昔から日本に伝わる酒は純米酒だ。「蔵」=蓄える、「舞」=無形のものを伝える。蓄えた知識と技、そして精神を受け継ぐ酒として商品を「亀の尾蔵舞(くらぶ)」と名付けた。蔵人として酒造りに携わっていた行待さんが、経営のバトンを継いだのは丁度その頃のことだ。
「その後、「蔵舞」は思わぬ進展をみせる。亀の尾蔵舞誕生の翌年、縁あって知り合った米の生産農家との協力の元、亀の尾と同じく一度は廃れた酒米「旭」で作った純米酒「旭蔵舞」をリリース。続いて、かつて弥栄町で産声を上げたものの、入手困難になっていた酒米「祝」も縁あって仕入れ先のめどがつき、そこから「祝蔵舞」が誕生する。このような繋がりから、純米酒「蔵舞」シリーズは現在全5種にまでなった。「真面目に農業に取り組む生産者たちとのご縁でできた酒。大事に育てたい」と代表。また、5年前からは息子の佳樹氏が杜氏に就任し、蔵舞シリーズは注目の若手杜氏が造る酒としても注目を集め、数多のコンクールで表彰を受けている。