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サクセスリポート  

菓子処 喜久春


長岡京市の位置する乙訓地域の特産品である竹の子を和菓子に用いるという斬新な発想で銘菓「竹の子最中」を生み出した菓子処 喜久春。素材や製法を究め、高品質・安全な菓子作りを徹底することで長く地域に愛され続けている同店に、菓子作りにかける思いを伺った。

 
 

「地域のお客様に愛される、この地域ならではの菓子を作りたい」。和菓子職人・西山喜久治さんがそんな思いを形にしたのが、菓子処 喜久春を代表する銘菓「竹の子最中」だ。

約10年間和菓子店で腕を磨き、その後市場の一角で和菓子の製造販売を手がけた西山さんが、長岡京市に菓子処「喜久春」を創業したのは、昭和53年のこと。開業してまず取り組んだのは、喜久春の看板となる菓子を生み出すことだった。店のある乙訓地域は豊かな山河に抱かれ、肥沃な大地に育つ竹の子が特産になっている。この乙訓の竹の子を和菓子に使うという斬新な発想から考案されたのが、「竹の子最中」だった。

「竹の子最中」はその名の通り、竹の子の形を模した最中。中は滑らかなこし餡で、その真ん中に竹の子の甘露煮が入っている。特長は、竹の子が入っていることに加え、心地よい歯ごたえとともに焼き上がったばかりのような香ばしさが口に広がる最中の皮、そしてしっとりと柔らかいこし餡にもある。最中の皮と餡の甘さの絶妙のバランスは、西山さんの研究の賜物だ。「最中の皮の命であるパリッとした食感を維持しつつ、中の餡を柔らかく保つ決め手は、最中と餡のブリックス(糖度)を均一にすることです」と、西山さん。糖には保水性があるため、餡に砂糖を加えると水分を保つことはできるが、甘すぎると食べにくい。といって糖度を下げすぎると今度は餡から皮に水分が浸み出して最中の歯ごたえが失われてしまう。西山さんは専門書をひも解きながら試行錯誤を重ね、皮の食感を保ちつつ、すっきりとして食べ飽きない餡と竹の子の甘さを実現することに成功した。

 

素材、製法に対する西山さんのこだわりは、「竹の子最中」だけに留まらない。「これだけたくさん和菓子店がある中で、わざわざウチを選んで買いに来てくださる。そういうお客さんを大切にしたい。それにはお客さんの信頼を裏切らない品質と安全を守ることが何よりです。だから、ウチでは自信をもって説明できる素材しか使いません」と、西山さんは力を込める。米粉にする米は、京都府北部産。さらに稲を刈り取った後、養分が実に移るといわれる稲木干しを行う農家から仕入れ、店で石臼で挽いている。通常、粉砕時間を短縮するため、米を水に浸けるが、「米の風味が失われるから」と西山さんはやらない。「竹の子最中」に使う米は、焼いた時の香ばしさを考えて石川県の大正米を使うなど、商品によっても米を替える徹底ぶりだ。

また餡に欠かせない小豆は丹波産を使う。小豆を炊く水には、通常の水より分子の細かい活性水を含ませる。その方が小豆に水が浸透し、柔らかく仕上がるという。さらに約90℃の低温で1時間20分かけてじっくり炊くことで、鮮やかな紫色が美しいこし餡ができあがる。

 

経験を重ねて、なお向上心にあふれる西山さん。目下取り組んでいるのが、小豆の煮汁を使った新商品の開発だ。小豆の煮汁にポリフェノールなどの栄養成分が含まれていることに着目し、機能性を持った小豆スープを作ろうと試みている。

商品開発を進めるにあたって、小豆を炊くステンレス製の蒸気式豆炊き釜を新たに導入。必要な資金をまかなうため、国の「中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業に係る補助金」を得た。そうした事業の推進を力強くサポートしたのが、長岡京市商工会だ。経営支援員が、店の強み弱みを熟知して事業計画の作り方や訴求力のある申請書類の作成法をていねいにアドバイスしてくれたという西山さん。「親切に面倒みてくれたおかげで採択されました」と喜んだ。こうした支援をフル活用し、喜久春はますます進化を遂げている。

 

ステンレス製の蒸気式豆炊き釜は、コンロの火とは異なり、ボイラーの蒸気で鍋の中全体を加熱することで、均一に熱を通せるのが特長。この釜を導入したことによって、これまで以上にふっくらとおいしい小豆を炊けるようになった。

それに加えて可能になったのが、火力やゆで時間の微妙な調整だ。この蒸気釜なら、デジタル表示を確認しながら、1℃単位で温度を緻密に調節することができる。西山さんは、ここでも極めて科学的だ。

「小豆の煮汁には、本来タンニンが含まれており、これを小豆スープにそのまま使っては、渋みや苦みが残り、口当たりが良くありません。そのためまず煮汁からタンニンを取り除く必要があります。タンニンが水分中に溶出してくるのは、小豆を炊く湯が約60℃に達した頃。ここでいったん煮汁を捨て、新たにお湯を足して再び小豆を煮ます。この二番汁なら、渋みや苦みのないすっきりとした味わいの小豆スープができるはずです」

小豆を炊く温度を細かく管理することで、ポリフェノールなどの栄養分は逃さず、タンニンだけを取り除くタイミングをコントロールすることも可能になる。現在、数値データを取りながら、絶妙の温度やゆで時間を探っているところだ。

 

「娘や息子が職人としてようやく一人前に育ってきたところ。私の持っている技術を引き継ぎ、今後さらに店をステップアップさせていってほしい」と、先を見すえる西山さん。現在、喜久春の店舗運営は長女、長男に任を譲り、自身は新商品開発に専念しながら技術と知恵の継承に力を注ぐ。

「私の指導は、厳しいですよ。我が子も甘やかしません。娘や息子にも『子どもだからといって店を継ぐ必要はない。外に修行に行け』といつも言っているんです」と、冗談を交えて語る柔和な西山さんからは想像もつかないが、それだけ後進にかける期待が大きいということでもある。厳しく指導するだけでなく、西山さん自身が今も日々研鑽を重ねる背中を見せることも、若い二人にとってすばらしい手本になっている。

 

喜久春の代表銘菓「竹の子最中」の味を守り抜く一方で、若い感性を取り入れ、新しい菓子を作ることにも積極的だ。かわいらしい表情の猫をかたどった上用饅頭「紅白猫まんじゅう」は、娘さんが考案した最近のヒット商品。好評を博したことから、続いて犬バージョン「わんこ饅頭」も売り出した。「若い子の発想も大切にしたい。いろんなお菓子を出していかなければ、店の成長はありませんから」と、西山さん。インターネット販売に着手したのも、若い二人の発案だった。最近は、インターネットでの注文も増えてきているという。

「息子たちには、『ただ漫然と商売を続けるくらいなら、いつでもやめなさい』と口を酸っぱくして言っています。やるからには一生けんめいやらないと、買いに来てくださるお客さまに失礼です。昨日より今日、今日より明日と、これからも店を成長させていってほしいですね」

西山さんの志を引き継いだ二人のお子さんが、次代の喜久春をどのように育てていくのか、楽しみだ。


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