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クスカ株式会社
〒629-2314 京都府与謝郡与謝野町岩屋384-1
TEL:0772-42-4045    FAX:0772-42-4731
http://www.kuska.jp

絹織物の産地として名高い丹後で、80年にわたって丹後ちりめんを製造してきたクスカ株式会社。「手織り」の美しさを再発見し、事業を一転。手織りでネクタイやストールといった洋装の紳士服飾雑貨を主力とする。目下、海外展開に取り組む三代目・楠 泰彦さんに伺った。

 
 

1200年前の奈良時代から絹織物の一大生産地として栄えてきた丹後地方。この地に本拠を構えるクスカ株式会社は、今ではほとんど見られなくなった「手織り」で、ネクタイやストールなどの紳士服飾雑貨を製造する。和装の伝統を支えてきた手織りの技術を駆使しながら、現代のファッショントレンドに新風を吹き込む稀有な企業だ。

そもそもクスカは1936(昭和11)年の創業から丹後ちりめんの白生地の製造・販売を生業としてきた。「手織りの美しさを再発見し、機械織りのかたわら手織りを始めたのは、先代である父親でした」と回想するのは、三代目である楠 泰彦さんだ。2008(平成20)年、会社を継いだ楠さんは、思い切って手織りに一本化。主力製品を「和」から「洋」へとシフトし、2010(平成22)年、「伝統とファッション・芸術の融合」をコンセプトとした自社ブランド「KUSKA」を立ち上げた。

 

「手織りの魅力は、機械織りには決して出すことのできない独特の風合いと質感にあります」と、楠さんは言う。職人が手機(てばた)に絹糸を通して一越しひと越し織り上げる生地は、糸と糸との間に空気を含んで立体感を持つ。また経糸に黒糸を用いることで、絹独特の光沢に深い陰影が重なり、何とも言えない風合いを醸し出す。職人によって糸の締まり具合が微妙に異なり、それぞれが「一点もの」の個性を放つのも手織りならではだ。その高いクオリティが徐々に評判を呼び、大手セレクトショップや百貨店などに販売先を増やしてきた。

「時間と手間のかかる手仕事を貫きつつ、あくまで一般ユーザーを対象としたマーケットで勝負する」。それがクスカの経営戦略。そのため代理店を介さない直接卸販売に徹し、流通プロセスを省略することでコストを抑えることに成功した。海外の有名ブランドの同価格帯の製品の横に並べると、クスカの製品のクオリティの高さが際立つ。「とりわけ質を重視するお客さまに手に取っていただいています」。

 

クスカは現在、2020年までの5年計画で海外展開を図っている。その第一歩が、自社のWEBサイトのリニューアルだ。グローバル向けに英語表記のページを作るとともに、動画や画像を駆使し、外国人にもひと目で伝わるデザインに一新した。

またグローバルに展開するブランドとのコラボレーションを推進し、ネクタイ・ストール以外の身の回り品、さらに家具やインテリアなどへも商品の幅を広げている。もちろん世界規模の企業と取引するのは容易ではない。自らプレゼンテーション資料を作成し、クスカにも相手企業にも勝機のある商品アイデアを提示することで数々の商談を成立させてきた。

その成果の一つとして、2015年11月からANAの海外便の機内誌への掲載が決まった。商品カタログに、イタリアやフランスの名だたるハイブランドと並んでKUSKAのネクタイが紹介される。「当社の商品が世界を往来する約60万人の乗客の目に触れる。KUSKAブランドが海外に認知されるきっかけになれば」と、期待を込める。

こうしたクスカの事業拡大を力強く後押ししているのが、与謝野町商工会だ。「助けがほしい時にはまず商工会に相談します」と、楠さん。これまでも経営支援員から紹介やアドバイスを受けて京都府などの助成金を獲得し、ホームページ制作や海外の展示会への出展などの資金を確保してきた。海外展開に向け、設備・人材の増強を進める同社にとって、商工会の支援はますます重要なものとなる。12月には京都市内に初の旗艦店のオープンも計画中。“All Handmade in Tango”を旗印に、KUSKAの世界挑戦は、さらに勢いを増していく。

 

グローバル展開を睨み、国内外の有名ブランドとのコラボレーションにも積極的なクスカだが、その際にも“KUSKA”ブランドを守り抜く姿勢を徹底している。技術だけを提供するOEMの依頼には、楠さんは決して首を縦に振らない。

「コラボレーションの狙いは、あくまで“KUSKA”のブランド価値を高めることにあります。これまでにはイタリアの有名メゾンからOEMの依頼もありましたが、すべて断り、自社ブランドでの販売にこだわってきました」と、明かす。

 

もちろんネクタイやストールなどの自社商品についても、楠さん自らデザインを手がけ、毎シーズン新作を発表している。

「海外の展示会を視察して情報を収集するなど、世界のファッショントレンドには常に敏感でいたいと考えていますが、商品をデザインする上では、トレンドを意識しつつも、質感や風合いなど当社の商品にしか出せない魅力を際立たせることを重視しています」と、楠さん。

クスカの企業コンセプトである「伝統とファッション、芸術の融合」を具現化する一環として、現代的なデザインに「伝統の技」を取り入れることにも取り組んでいる。その一つが、「裂き織り」という伝統技法で作った商品だ。古くなった布を細かく裂き、麻糸などと依り合せて織り上げると、元布のさまざまな色が混ざり合い、独特の織り模様が浮かび上がる。また同じ丹後に工房を構える染師の手による「高蔵染」とのコラボレーション商品として、KUSKAの手織り生地を高蔵染で染め上げたストールを販売した。その他、創業以来約100年を数える京都伏見の染物企業と連携。手織りのフレスコ生地に染物職人がハンドプリントを施したプリント柄ネクタイも好評を博した。

 

海外に向けて事業拡大を図るクスカは、設備・人材の増強にも取り組んでいる。オールハンドメイドだけに1日に生産できる量は限られている。職人一人あたり、ネクタイで3、4本しか織れない。生産量を増やすためには、織機と織り手を増やすことが不可欠だ。

「今年、新たに手機(てばた)を2台導入し、織機の数は14台になりました。続いて2台を導入する予定。今後5年計画で、さらなる設備投資を考えています」。

設備の増強に合わせ、人材も現在の9名から2〜3倍に増やしたいという。手仕事の魅力に惹かれ、手織り職人を志望してクスカの門を叩く若者は少なくない。

「そんな意欲ある人を職人に育てる環境があるのが、織物の産地として300年の歴史を築いてきた丹後ならではです」と、楠さん。

京都府織物・機械金属センターでは、糸や織物の知識から機の織り方までを1年間かけて指導する研修を開講している。クスカに入社した社員は、仕事をしながら研修に通って機織りの基礎技術を身につけ、職人としての腕を磨いている。

「将来的には、糸を紡ぐところから染め、織り、縫製まですべて自社でまかなう体制を整えたい」と、構想を膨らませる楠さん。

「“KUSKA”ブランドの認知度を世界で高め、いつかここ丹後に自社工場兼店舗を構えたい。当社の製品を求めて、世界中から人が丹後を訪れるようになったら最高です」。

「丹後から世界へ」。“KUSKA”のブランド名と共にタグに刻印される“All Handmade in Tango”にも、そんなクスカの意気込みが込められている。


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