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サクセスリポート  

株式会社アグロス・カワモ
〒619-0202 京都府木津川市山城町平尾三所塚27
TEL:0774-86-2522    FAX:0774-86-5733
http://www.kuska.jp

京都府南部・山城地域を拠点に、園芸専門店「愛栽家族」を経営する株式会社アグロス・カワモト。肥料商からスタートし、園芸専門店への転換、さらにガーデンサービス業など、時流に合わせて事業を広げている。新しいことに果敢に挑戦する同社代表取締役河本茂夫さんに伺った。

 
 

「困難にぶつかった時こそ、次の展望が拓けるチャンス。そう考え、ピンチをバネにして新しい事業に挑戦してきました」。株式会社アグロス・カワモトの二代目・河本茂夫さんがそう語る通り、同社は時代の潮流に合わせて果敢に業態を広げることで今日まで成長を遂げてきた。

創業は、1950(昭和25)年。第二次世界大戦後の食料難が続く中、人々の糧をまかなう農業の重要性に着目し、肥料商から事業をスタートさせた。順調に業績を伸ばしていたが、1970年代に入ると、政府は米余りから減反政策へと転じる。その為、米の産地での野菜栽培が急増して野菜価格までも急落、米農家も野菜農家も収入が減少、農業不況が始まる。

農家は後継者を育てず、高齢化が進み、農業就業人口も大幅に減少、当然当社も売上げ低迷が続き,息子達が就業して頑張っても売上げを伸ばすことができなかった。

「このままの商売を続けても近い将来、重大な危機を迎えることになる」「会社に余力があるうちに新しいことに挑戦しよう」。そう思い立った河本さんは、ターゲットを農家から一般の家庭菜園家や園芸家へ転換することを決意する。それまで電話で注文を受け、倉庫から各農家に肥料を配達していた販売形態を一変。相楽郡精華町に店舗「愛栽家族」を構え、商品を並べて小売りを開始した。揃える商品も、農家用の肥料から、家庭菜園や庭で育てられる野菜や花の苗・種、鉢植えの花、園芸資材といった一般向けが中心になった。狙いは的中。「愛栽家族」は、ひっきりなしに客の訪れる人気店となった。続いて2011年には、奈良市内に800坪を超える敷地を有するガーデニング・園芸雑貨・家庭菜園専門店を新たにオープンした。

 

「数ある園芸専門店の中でもアグロス・カワモトがこれほど顧客の支持を集める理由は、同店で販売する野菜苗・花苗にある。同社では、約1500坪に及ぶ農地を確保し、野菜苗・花苗を自社生産しているのだ。

「自社栽培のメリットの一つは、多品種少量で生産できるところ。当社では、春季だけで200種類を超える苗を栽培・販売している。例えば、ナスだけでも約20種類。多様なお客さまの要望に応えられるのが、当社の強みです」と、河本さんは語る。加えて、同社の苗は、質の高さでも絶大な信頼を得ている。

「狭い敷地に大量に植え、短い日数で出荷されるコスト優先の苗と違い、当社では、十分な株間を取るので、丈夫で傷みのない苗が育ちます。また日数をかけ、花がつきかけた成苗になるまで育ててから販売するので、実がならないといった失敗もありません」。長年にわたって農家への肥料販売、技術指導を通じて培ってきた栽培のノウハウが、他にはできない苗作りを支えている。そうした評価が口コミで広がり、今では、全売上の約43%を野菜苗・花苗が占めるまでになっている。

 

「次なる課題は、事業基盤を確かなものにして息子たちに引き継ぐこと」と、語る河本さん。そのための一手として、2015(平成27)年7月、新らたにガーデンサービス業「ガーデン・シッター」を立ち上げた。住宅の庭や事務所・店舗などの花壇の植栽、花の植え替えを請け負う。強みは、肥料や栽培についての知識を駆使し、土壌作りから手がけるところ。力仕事を苦手とする高齢世帯だけでなく、土や植物になじみの薄い若い世代からも注文が相次ぎ、順調なスタートを切った。

こうしたアグロス・カワモトの挑戦を陰ながらサポートしているのが、木津川市商工会だ。「新しい事業に取り組むにあたって、補助金や助成金を紹介してもらうだけでなく、事務の効率化について指導を受けたり、慣れない店舗運営や事業継承についてなど、さまざまな相談にも乗ってもらっています」と、河本さん。

次世代へ、これからもアグロス・カワモトの挑戦の歴史は続いていく。

 

「愛栽家族」の新店舗のオープン、ガーデンサービス事業の立ち上げと続くアグロス・カワモトの目覚ましい躍進の背景には、「三人の息子たちそれぞれに確かな事業を引き継ぎたい」という河本さんの切なる思いがある。

「三人がいずれも家業に携わってくれることは嬉しい限りですが、それゆえに、どのように事業を継承するかが、悩みでもあります」と打ち明けた河本さん。木津川市商工会からアドバイスや支援を受けながら、数年にわたってスムーズな事業継承の方法を模索してきた。

「それぞれがんばっている三人の中から一人だけを後継者に選ぶのは、難しい。さまざまなご意見や助言をいただき、熟考を重ねた結果、各人に一任できるよう会社を代表する事業を三つ育てようと決めました」。

「正解」のない難しい課題にどうやって答えを導き出したのか。河本さんはこう話す。「一人で悩むのではなく、さまざまな人や機関に相談し、知恵を借りたことが今につながっています」。

木津市商工会から紹介され、セミナーや講演会に参加したのもその一つだ。講演会場で講師と話し、直接アドバイスを受けたこともあったという。

契機となったのは、京都府が実施している「知恵の経営」実践モデル認証制度に応募したこと。「知恵の経営」とは、売上や収益を伸ばすための方策を見つけるマネジメントツールので、「知恵の経営」報告書を作成し、それに基づいた経営を行うことで目的の達成を目指すものだ。

「『事業継承』を事業課題にすえて報告書をまとめる過程で、初めて自社の歴史を振り返り、強みや弱みを整理できた。そこから新規事業の芽も見えてきました」と、客観的に事業を見直すことで新たな道が開けたと語った。

 

「ガーデン・シッター」に続いて、河本さんは今、新たな事業に着手している。目標は、創業時から現在まで続けてきた肥料販売事業の拡大だ。

「高付加価値肥料の販売を通じて、ミネラル成分をたっぷり含んだ野菜のブランド化に貢献しようというものです」。

きっかけは、ある講演会で「土壌が痩せ、十分な栄養素を吸収して育つことができないため、現代の野菜は昔に比べてミネラルの含有量が減少している」という話を聞いたことだった。「有機素材で一般に栄養価が高いとされているたい肥を肥料に使っても、かえってある種のミネラルの吸収を阻害することがあると聞き、目からうろこが落ちる思いでした」と河本さん。そこで、土壌を豊かにし、野菜の栄養価を高めるのに役立つ肥料を見つけ出し、「ミネラルたっぷりの野菜を育てる付加価値の高い肥料」として販売することを考えついた。

実際にこの肥料を与えて野菜を栽培する実証実験を行ったところ、肥料を与えなかった時と比べ、野菜のミネラル含有量が増加するという結果を得た。今後テスト栽培を重ね、より信頼性の高いデータを蓄積することを目指す。

「この肥料を使った土壌で育った野菜を『ミネラルたっぷり野菜』としてブランド化できれば、生産農家に大きなアピールとなるはず」と、期待を膨らませる。

 

「愛栽家族」を通じた家庭菜園専門の小売業においても手綱を緩めない。「現在、5カ所で農地を借り、野菜苗・花苗を育てていますが、いずれは自社で一カ所広い農地を保有し、苗の栽培にこれまで以上に力を注ぎたい。農業法人をつくるのが、次の目標です」と、河本さん。

次々と目標を立て、それを達成していくバイタリティには驚くばかりだ。「息子たちにバトンを渡すまで、もう少しがんばるつもり」と力強く語る河本さん目は、まっすぐ将来を見すえている。


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