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株式会社 野の花工房
〒610-0302 京都府綴喜郡井手町井手宮ノ本73-5
TEL:0774-29-3337    FAX:0774-29-3337
http://kyoto-nonohana.jp

綴喜郡井手町に「ののはな草木染アカデミー」を開校した野の花工房。草木染作家として活躍してきた松本つぎ代さんの思いを二人の子どもが引き継ぎ、草木染の魅力をより多くの人に伝えようと取り組んでいる。アカデミー開設の経緯や今後の夢について松本さんと娘の陽菜さんに聞いた。

 
 

京都府南部、山野に囲まれた綴喜郡井手町に居を構え、およそ30年にわたって草木染の作品制作と教室運営を続けてきた松本つぎ代さん。数年前、独り立ちしていた息子と娘が相次いで帰郷したのを機に草木染教室を事業として確立し、拡大することを決意した。そのために町内に工房兼教室を確保し、2015年「ののはな草木染アカデミー」を開校した。現在、アカデミーの運営と娘の陽菜さんによる草木染作品の制作・販売の二つの事業を展開している。

「植物によってまた抽出法や媒染剤などによって、本当に多彩な色を出せるのが草木染の魅力です」。松本さんは草木染に魅入られ続ける理由をこう語る。染色に用いる植物は1年間に60種類ほど。近隣の山野で採取したり、松本さん自ら栽培する他、生徒さんや町内の知り合いから譲り受けることも少なくない。

専門業者の多くは量を確保するために乾燥植物を仕入れて使用するが、松本さんの手がける草木染は、四季折々に生育する草木をフレッシュな状態で使用するのが特長。だからこそ「季節によって使う草木も変わるし、また同じ草木でも採取時期や場所によって違う色に染まる。それがおもしろいんです」と、代表を支えて作品制作やアカデミーの講師を務める陽菜さんは説明する。

 

「ののはな草木染アカデミー」では、松本さんが積み重ねてきた草木染教室のノウハウを引き継ぎながら、従来通り趣味で草木染を楽しむ人向けの「フリースタイル講座」に加え、草木染の指導者を目指す人を育てる「インストラクター養成講座」を開設している。「インストラクター養成講座」を修了し、最終課題に合格した人には、アカデミーの運営ノウハウを伝授し、支部教室の開設をサポートする。アカデミーが認めた支部教室では統一のロゴを使用するとともに、教室で使用する材料を提供。今後フランチャイズ展開することを計画している。「草木染の技術はもちろんですが、季節の移り変わりや草木の美しさを感じ、自然の恵みに感謝する。そんな同じ志を引き継ぎ、全国に草木染のすばらしさを広げていただきたいと思っています」と松本さんは語る。

 

それまで松本さん一人で営んでいた教室を「ののはな草木染アカデミー」として事業化するには、企業経営のノウハウや資金も必要になる。それらをサポートしたのが井手町商工会だった。公的な補助金に関する情報提供や申請書の書き方指導、さらにプレゼンテーションの練習を行い、アドバイスするなどきめ細やかに支援している。「根幹となるCI(企業アイデンティティ)を確立するにあたって、ブランディングに関わる専門家を派遣していただいたのが、何より役立ちました」と陽菜さん。「当初は親子三人ともイメージするアカデミー像や目標がバラバラで、どんなアカデミーを作るのか、まったく意見が合いませんでした。専門家の方が間に入って四散した意見をまとめ、方向性を示してくださったことで、目指す姿や事業コンセプトが明確になりました」。そうして運営方針やロゴマーク、ホームページのデザインなどをつくり、アカデミーのかたちができあがってきた。

さらに現在、京都府からの助成金を得て、今春から通信制のインストラクター養成講座をスタートさせる計画も進んでいる。「夢は、植物採集から草木染体験、その他食やイベントなどを通じて自然の豊かさに触れられるような、草木染をテーマにした『ワンダーランド』をつくること。そのために事業基盤を確かなものにすることが、目下の目標です」と二人。夢の実現に向かって、松本さん親子の挑戦は始まったばかりだ。

 

2016年春を前に、今「ののはな草木染アカデミー」では、新たな受講生を迎え入れる準備が進んでいる。

「フリースタイル講座」では、受講生が実際に好きな生地を染めながら、新しい染色技法を学ぶ。毎回、違う植物を扱い、回を重ねるごとに難度の高い技法にも挑戦していく。

一方「インストラクター講座」では、単に染色を楽しむ「フリースタイル講座」とは異なり、染色に関する科学的な知識の学ぶことから始まり、染色を「教える」ための知識と技術を習得する。「インストラクター講座」を開設するにあたって、つぎ代さんがこれまで培ってきた知識やさまざまな染色技法についてまとめたテキストも制作した。「計4日間のプログラムで習得する初級講座から徐々にレベルアップし、上級講座では4ヵ月間、計8日間をかけて草木染の活用方法まで学びます。その後、最終課題をクリアすれば、当アカデミーのインストラクターとして認定します。多くの人に受講していただき、草木染のすばらしさを広げる仲間になってほしい」と期待を寄せる。

初めての植物の染色を試したり、新たな抽出法や染色技法を探求するなど、松本さん親子の探求心は、衰えるところを知らない。「例えば、藍。一般的な藍染めは、藍の葉を発酵させた後、煮出して色を抽出するとよく知られる深い群青色に染まります。それに加えて私たちが生の藍の葉を採取できる季節にだけ行うのが、生葉染めです。摘んだばかりの藍の葉をそのままミキサーで砕いて染めるこの方法では、驚くほど涼しげな水色に染まります。その他、染色技法や染める生地や糸によっても表現は無限にあります」と、松本さん親子は目を輝かせる。

 

アカデミーを運営する一方で、草木染の生地や糸を使った作品制作を担うのは、現在もっぱら娘の陽菜さんの役割だ。さまざまな染色技法を駆使して生地や糸を染め、ストールやカーディガン、ニットコートなどオリジナル作品を制作している。

ユニークなのは、一種類の植物から複数の色を抽出して染め上げたストールだ。植物に含まれる色素が金属イオンに反応して発色が変わる性質を生かし、複数の媒染剤を使って、ユーカリの葉からグレー、オレンジ、ベージュの三色を抽出した。さらにシルクスクリーンのプリント手法を応用して、独自の染色技法を考案。京都のテキスタイルの専門プリント工場に依頼し、三色を使って幾何学模様に染め上げた。こうして工夫を重ねて作り上げた作品は毎年百貨店の催し会場などで一般に販売され、好評を博している。

 

草木染に没頭する母親の背中を見て育ったという陽菜さん。最初は母親を継ぐ気持ちはなく、美術系の大学を卒業した後、東京で洋服の生地を製造する会社でバリバリ仕事をしていた。「でも仕事で化学染料などに触れるうち、だんだん草木染の価値の高さがわかってきました。それまで反発心もあって草木染を避けていたけれど、母の仕事を改めて見つめて、大切にしたいことや追求したいことは同じだと気づいたんです」。そこで思い切って東京を離れ、兄に続いて故郷に帰ってきた。

「息子、娘が加わってくれたことで、一人だけではできなかった大きなことができるようになりました。新たな発想で可能性を広げられるのも二人がいてくれるからこそです」と、つぎ代さん。次世代に確かな事業を引き継いでいくためにも、「ののはな草木染アカデミー」を軌道に乗せたいと意気込む。

二人の心強い後継者を得て、野の花工房のこれからの成長が楽しみだ。


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