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サクセスリポート  

割烹 さとう
〒620-0301 京都府福知山市大江町河守1847
TEL:0773-56-0066    


福知山市大江町の割烹さとうは、京野菜や地元産の食材を使った料理と店舗の隣で醸造するどぶろく「酒呑童子の里どぶろく鬼ババァー」で名を馳せる。自ら原料となる米を栽培し、どぶろくを仕込む女将・佐藤則子さんにどぶろく造りにかける思いを伺った。

 
 

2015年3月、全国で造られたどぶろくの味を競う「第10回全国どぶろく研究大会」の濃芳醇の部で、福知山市大江町で醸造された「酒呑童子の里どぶろく鬼ババァー」が最優秀賞を受賞した。2009年に福知山市大江町が「どぶろく特区」に認定されて以来、特区内の蔵元が「1等賞」にあたる最優秀賞を受賞したのは初めてのこと。醸造したのは、福知山市内で「割烹さとう」を営む佐藤則子さんだ。まったくの素人からどぶろくを造り始めてわずか4年目での快挙だった。

佐藤さんは、ご主人の博行さんとともに長年にわたって料理店を経営してきた。「60歳を前にして今後の人生を考えた時、これまで培ってきた経験を長くお世話になったこの福知山の地域のために役立てたいと思ったんです」と、佐藤さん。ちょうどその年、福知山市が「どぶろく特区」に認定されたことを知り、「どぶろくが地域を元気にする一助になれば」と、どぶろく造りを決意した。

どぶろく特区内では事業者が自家産米で仕込み、自営する店舗や宿で提供する場合に限って少量でも酒造りの免許を取得できる。佐藤さんは、持ち前のバイタリティと行動力で、未経験ながら酒造りと米作りに果敢に挑戦。醸造・発酵技術を研究する兵庫県立工業技術センターに単身乗り込んで指導を受け、ゼロから醸造法を学んだ。「女性の志望者は珍しかったらしく、驚かれましたが楽しかったですね」と佐藤さんは、朗らかに振り返った。

 

どぶろく造りは手間がかかる。米と米麹を1〜2日で仕込み、その後2〜3週間かけて温度管理を徹底しながら発酵させていく。季節や天候など環境によって発酵の進み具合が微妙に変わるので、目を離すわけにはいかない。絶妙の発酵状態に達するまで温度計と試験管の目盛りを睨みながらの緻密な作業が続く。完成するまでに三週間。「ていねいに心を込めて造れば、お酒が応えてくれる」と教わった通り、一切手を抜かずに基本を大切に守り抜く。

一方、日本の棚田百選にも選ばれた大江町毛原の棚田で、ご主人の博行さんと力を合わせ、ゼロから米作りを始めた。澄んだ空気と水を栄養にした上質なコシヒカリは、どぶろくの原料米としてだけでなく、炊いても非常においしい。

2010年、店舗を新装し、新たに「割烹さとう」を開店。店の隣に醸造場を設けて佐藤さん自らどぶろく造りを始めた。米と米麹を発酵させるだけで、もろみをろ過しないどぶろくは、とろりと白く濁り、素朴な甘みとほのかな酸味が特長だ。佐藤さんの醸した「鬼ババァー」は、そのユニークな名前とともに、とりわけ女性に「甘くておいしい」「昔を思い出す懐かしい味」と評判を呼んでいる。2016年も「第11回全国どぶろく研究大会」で、濃芳醇で最優秀賞、淡麗で3年連続入賞を獲得し、いまやその味は全国でも知られるところとなっている。

 

「地元のおいしい食材と一緒にどぶろくを味わってほしい」。そう語るように割烹さとうは、いつでもおいしい京野菜が食べられる店として「旬の京野菜提供店」の認定を受け、博行さんが丹精込めて作る京野菜をふんだんに使った料理とともに「鬼ババァー」を供する。その他、百貨店の催事や全国の物産展にも出展し、多くの人にどぶろくのおいしさを広めることにも尽力する。そうした販売・普及活動には、福知山市商工会の支援が欠かせないという。

「全国の物産展の開催情報を知らせてもらうほか、出店の申込み手続きなども手伝ってもらっています」と、信頼を寄せる。

「今後は農業や酒造りをビジネスとして確立し、地域に恩返ししたい」と語る佐藤さん。商工会のサポートのもと、新たな挑戦が始まっている。

 

佐藤則子さんが醸造する「酒呑童子の里どぶろく鬼ババァー」を呑むことができる割烹さとうは、丹鉄大江駅にほど近い国道175号線沿いにある。田舎の宿を思わせるような民家風の佇まい。軒先には杉玉が下がっている。

佐藤博行さんの作るおいしい料理には元々定評があったが、新装開店してからは「旬の京野菜提供店」の認定を受けるなど京都産、地域産の食材を提供することに力を注ぐようになった。春は京都産の花菜や竹の子の天婦羅、夏は加茂ナスの田楽、地元産の無花果(いちじく)の天婦羅、秋は近くを流れる由良川の天然鮎を炊き込んだご飯、冬は舞鶴港で水揚げされたぐじのかぶら蒸しなど博行さんが腕を振るった山海の幸が並ぶ。

「このあたりでも、万願寺唐辛子や堀川ごぼう、紫ずきん、ミズナなど京野菜がたくさん栽培されています。季節に合わせて旬の食材を盛り込んだ『地元食材のおまかせメニュー』が人気。どぶろくが知られるようになったことで、地元の人はもちろん、他地域からもわざわざ噂を聞きつけて食べに来てくださるようになりました」。

 

則子さんは、どぶろく造りに熱中する以前から、一つのことに夢中になると、最高のものをとことん追求する性質。発酵食品が大好きで、自家製の鯖のへしこや鮎のうるかに凝ったこともある。いずれも発酵や熟成にこだわり、何年もかかって改良を加え、プロ顔負けと酒好きに好評を博す味を完成させた。

「鬼ババァー」もそんな最高の味を追い求める佐藤さんの情熱から生まれた逸品といっていい。いつも明るく笑顔の絶えない佐藤さんの人柄を表すように、「名前を聞いただけで皆が笑う楽しいお酒になった」と、佐藤さん。「主人が『間違いない名前だ』って。どういう意味かしらね」と屈託なく笑う。

 

「どぶろく造りも、米作りも、料理も奥が深くて難しいが、それらをうまく組み合わせることで、ビジネスとして利益を生む道をつくっていきたい」と語る佐藤さんご夫妻。

とりわけ自分自身で稲作に挑戦してみて、「棚田で初めて米作りをする際、農家の方々にずいぶん助けていただいた。その恩返しをしたい」との思いが膨らんだ。

そこで思い立ったのが、大江町の「毛原の棚田」で採れた米のブランド化だ。全国で催される物産展などに「日本一」になったどぶろく「鬼ババァー」とともに、その原料米が栽培される「毛原の棚田」産の米の販売を始めた。「上質のどぶろくの原料となる米として毛原の棚田のお米の付加価値を高めることで、微力でも農家の方々の売上に貢献できれば」と、力を込める。その他、「鬼ババァー」と原料米をセットで物産展や催事で販売するなど、さまざまな販売方法を模索している。

刺激を受けたのは、「全国どぶろく研究大会」に毎年上位入賞を果たすライバル蔵元たちの存在だ。「中には、物産展の店頭でお客さまを前に収穫した米を精米し、『顔の見える』販売を行うなど、販売法やPR法を工夫することで売上を伸ばしている蔵元もあり、非常に勉強になりました。漫然と売るのではなく、社会やお客さまのニーズを捉えた販売方法を考えていかなければならないと思っています」。

「いずれどぶろく造りを受け継いでくれるかわいい後継者が現れてほしい」。最後に事業継承への思いを語った則子さん。これからも末永く地域で愛される酒として「酒呑童子の里どぶろく鬼ババァー」を造り続けてくれる人材を心待ちにしている。


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