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サクセスリポート  

Red Rice 自然農園
京都府木津川市加茂町
http://redrice.web.fc2.com/index.html

京都府木津川市加茂町でRed Rice自然農園を開業し、無農薬・無肥料の自然栽培で野菜・米を育てる赤穂達郎さん。安全・安心な「食」を次世代に引き継ぐためには、安定した収益を上げる事業に育てなければならないと、使命感をもって取り組んでいる。そうした経営者としての思いを伺った。

 
 

京都府の南端、奈良との県境にある木津川市加茂町で2013年からRed Rice自然農園を営む赤穂達郎さん。妻の海佳さんとともにおよそ2万m2の田畑を耕し、約40種類の野菜と3種類の米を栽培している。

赤穂さんが実践するのは、農薬はもちろん有機肥料も使わず、自然の力だけで作物を育てる自然栽培。「自然界では草木が育ち、やがて枯れると土に還って微生物に分解され、それが次世代の草木を育てる養分となります。この自然循環の原理を応用するのが、自然栽培の農法です」と説明する赤穂さん。水と空気の通りを良くして田畑に生える雑草を土に戻し、土壌の微生物を活性させることで、肥料がなくても農作物が育つ土壌ができるという。

無農薬・無肥料で育つ野菜は、安全・安心というだけでなく、味の点でも秀でていると赤穂さんは言う。「肥料を与えすぎると、おいしさの大切な成分である糖分(甘み)が失われる上、余剰の窒素が苦みやえぐみの原因になります。肥料を使わないと、野菜本来のすっきりと透明感のある味になる。だからうちの野菜は、通常生食しないものでも、そのままおいしく食べることができるんです」。

 

また、F1種(交配種)ではなく、固定種を使うことにもRed Rice自然農園の特長がある。スーパーなどで一般に売られている野菜のほとんどを占めるF1種は、一代雑種と呼ばれる人工的に交配させたもの。形や大きさがきれいに揃い、大量生産・流通に向いている。一方、栽培した野菜から種を取り、それを再び植えてまた種を取るというシンプルな方法で取るのが、固定種。これを何代も繰り返すことで、選別・淘汰されて、その地域の気候風土に合った種が固定化される。「固定種の野菜は形も大きさも不揃いで、流通には不向きですが、おいしさは抜群です」と赤穂さんは力を込める。

固定種の野菜は一般の流通に乗らないため、Red Rice自然農園では、独自に販売先を獲得してきた。現在はWEBサイトで情報を発信し、自然栽培の野菜を求める全国の小売店から注文を受ける他、消費者への直販も行う。それ以外に月1回、地域で催されるマルシェにも出店している。

 

Red Rice自然農園を開業する以前は、企業に勤めながら「人が生きるために欠かせない衣食住に関わる仕事をしたい」という思いを温めていた赤穂さん。お子さんが生まれたことで、とりわけ「食」の重要性を意識するようになり、さらに海佳さんの力強い後押しを受けて農業への転向を決意した。勤めながら2年間、三重県の自然農塾に通って自然農法を学び、さらに1年間、自然栽培農家で研修を受け、プロのノウハウを学んだ。

「『自然栽培』という根幹を堅守しつつ、事業として収益を上げ、持続的に発展させていくことも重視したい。『自然栽培でもやっていける』と実証することが、次世代につなげることになると思うから」と覚悟をもって取り組む赤穂さん。事業を営む経営者として支援を仰ぐのが、木津川市商工会だ。「設備投資の際の助成金の活用や販路開拓など経営者としての悩みにアドバイスやサポートを受けられるのがありがたいですね」。

経営支援員のアドバイスを受けながら「知恵の経営報告書」を作成したのもその一つ。「1年をかけて報告書をまとめたことで、事業を客観的に把握でき、課題も明確になりました。何より一緒に取り組む妻と経営ビジョンや方針を共有できたことが良かったです」と語る赤穂さん。農業を始めた当初は海佳さんと意見が食い違うこともあったが、目標を同じくすることで今まで以上に協力し合えるようになったという。「事業を軌道に乗せ、次世代に引き継いでいくこと」と目標を語った赤穂さん。夫婦二人三脚の歩みはこれからも続いていく。

 

Red Rice自然農園を開業して3年、少しずつ収穫高も安定し、顧客も増えてきた。今後の成長を見すえて目下の課題は、「生産性の向上」だと赤穂さんは語る。

肥料で栄養過剰になった土壌とは異なり、自然栽培の場合、土壌の養分を最大限吸収しようと植物は深く広く根を張るため、通常より苗の間隔を2倍以上空けて植える必要がある。すると必然的に1m2あたりの生産量も通常の栽培法の半分以下になる。といって農地を広げれば作業量が膨大になり、夫婦二人では到底追いつかない。収益を増やすためには、生産を効率化し、1m2あたりの収穫高を増やすことが不可欠だ。

そこでまず生産効率を上げるための方策として赤穂さんが考えているのが、機械化だ。「植え付けや草刈りなど機械で済ませられるところは機械を使い、農作業のスピードアップと省力化を図りたい」と語る。

耕作機械など設備投資の費用をねん出するにはどうすればいいか、赤穂さんが頼りにするのが、木津川市商工会だ。

「経営指導員のアドバイスのおかげで、京都府や京都市が中小企業を支援するための補助金なども獲得できました」。

 

加えて、栽培する野菜の種類を絞り込むことも検討している。

「最も生産効率がいいのは、一つの畑で1種類の野菜を栽培すること。とはいえうちの場合、お客様の多くは八百屋などの小売店で、さまざまな野菜を求めておられます。今後は、多品種少量から『中品種中量』の生産体制をつくりたい。どの野菜をどの程度栽培するのが最適か、絞り込んでいるところです」。

何を栽培するかを決める上で最も重要なのは、「その野菜が地域の風土に合っているかどうか」だと続けた赤穂さん。どれほど顧客ニーズがあっても、乾燥した地域で米は育たないし、水分豊富な土地でジャガイモを育ててもおいしくはならない。最も理にかなっているのは、この地で昔から栽培されてきたもの。赤穂さんも3品種の米を育てているのも、稲作が盛んなこの地域に倣ってのことだ。育てるのは、農園名の由来にもなっている古代米の一種・赤米と、「イセヒカリ」「トヨサト」という品種。いずれも知名度は低いが、「自然栽培に適しているだけでなく、食べると有名ブランド米よりずっとおいしい」と赤穂さんは太鼓判を押す。

また赤穂さんが使っている固有種は、何代も交配を経る中でその地域の風土に合った性質を強化していく。「いずれこの地だけのオンリーワンの固有種を生み出したい。それが他にはない強みになっていくと思います」。

 

農業に加え、最近赤穂さんの妻・海佳さんが主体となって新たなことに取り組んでいる。野菜を使った洋菓子や野菜パウダーなどの加工品の製造だ。

「野菜は日持ちしない上に、収穫高にも波があります。豊富に採れた野菜などを加工品にすることで、ロスを減らせたらと考えたのです」と海佳さん。

スナップエンドウや春菊、カボチャ、ニンジン、紫イモなど四季折々で採れる野菜を練り込んだプリンや蒸しパン、マドレーヌ、クッキー、シフォンケーキなどを手製し、月1回、オーガニックマーケットなどで販売。お客様の評判も上々だという。

また野菜を乾燥させ、粉末状にした野菜パウダーもさまざまな種類を開発中だ。たとえばオクラパウダーは水分を含むと、とろみが復活し、カレーやお好み焼きのつなぎに適している。野菜スイーツを作る際にも、乾燥した野菜パウダーの方が扱いやすく、味や風味も損なわれないという。とりわけ自然栽培の野菜で作るパウダーは、安全性の面からも自信を持って勧められるため、乳幼児の離乳食用などに重宝されている。

「まずは本業を安定させてから、いずれ加工品の製造・販売にも事業を広げられたら」と、展望を描く赤穂さんご夫妻。

二人手を携えて取り組むRed Rice自然農園のこれからの飛躍に期待したい。


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