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サクセスリポート  

人見石工
〒601-0262 京都市右京区京北細野町風ヶ鼻9-9乙合地
TEL/FAX:075-852-0887
http://www.hitomi-ishiku.com

自然石を職人技で積み上げる工法に定評のある人見石工。京都市右京区京北地域を中心に、住宅の石垣から河川の護岸工事までさまざまな石積みを手がけている。安全性と美しさを両立する昔ながらの石積みを絶やさないため、自ら研鑽に努めつつ、知名度向上に取り組む五代目・人見真一朗さんに伺った。

 
 

人見石工は1900年初代中嶋千吉氏の創業以来、五代にわたって石積み業を営んできた。住宅や建物の周囲を囲う石垣造りを中心に、河川の護岸工事や災害復旧工事などの公共工事も手がけている。

コンクリートブロックを積み上げる正確、かつ、ていねいな仕事で顧客の信頼は厚いが、人見石工の強みは、「野面積み」と呼ばれる自然石を積み上げる高度な職人技にある。「野面積み」とは、大小さまざまな大きさ、形の自然石を自在に組み合わせて積み上げていく伝統的な石積み工法。「均一な石垣と違って、表情豊かな美しさが野面積みの魅力です。当社ではその地域に合った石選びにもこだわっています。京北地域の石は硬い石、やわらかい石、また青や赤、黒みがかるなど色のバリエーションも豊富。とりわけ自然石は年数を重ねると風雨にさらされて石の色味が変わっていく。その変化も楽しんでいただきたいですね」と語るのは、昨年五代目を継いだ人見真一朗さん。

野面積みは、画一性がないだけに一つ間違えれば簡単に崩れてしまう危険性がある。一見無造作に積み重ねたように見えるが、そこには職人の緻密な計算と高度な技が詰まっているのだ。特に人見石工では、練り積みといい、石垣を補強するために、石垣の裏側にコンクリートを流し込み、石と石の面がピッタリと接するよう組むため、そのコンクリートが表から見えない積み方をしている。また、小石や砂利を入れてより自然な風合いに仕上げる石積みを重視しているため、組み方が重要になる。「使う石を迅速に選び出し、角度や向きを即座に見極めて的確に積み上げていく。職人の『目』とセンスがモノをいいます」と人見さん。全体の配置、バランスを考えて積み上げられた石垣は、互いの石が各面でしっかりと支え合い、たとえ石を一つ抜いてもビクともしない。「同業者は石垣の前面にあたる『顔』を見ただけで『これは人見石工の仕事だ』とわかる。それだけに一つひとつの仕事に手を抜けません」。

 

顧客のさまざまな要望に応えることはもちろん、その場所や目的に合った積み方を提案できるのも、高い技術を持つ人見石工ならでは。たとえば川土手の護岸工事では、自然石を使いながらも表面にあまり「こぶ」を出さないよう面選びと組み合わせに工夫を凝らす。また大小さまざまな石が崩れて止まったまま形を留めたように見える「崩れ積み」など、ダイナミックで迫力のある石積みにも定評がある。

さらに人見石工では、独自に「こぶ積み」と呼ぶ工法を考案。「意図的に凸凹を見せて積む工法で、規則的な美しさのある野面積みと、職人の遊び心が生きる崩れ積みの両方の良さを取り入れています。表面に出したこぶが石垣に陰影を作り出し、さまざまな表情が生まれます。どう仕上げるか、職人の腕の見せどころです」と人見さんは言う。

 

近年、自然石を使った石積みの需要の減少に伴って、職人の数も減っている。「自然石の石積みの伝統や技を絶やしたくない」と語る人見さん。口コミや昔からのお客様を大切にする営業スタイルに加え、最近はWEBサイトを立ち上げ、facebookといったSNSを使って情報を発信するなど、新たな手法で知名度の向上に取り組んでいる。そうした初めての試みに挑戦する際に頼りにしているのが京北商工会だという。

「どうやって発信したらいいか、私達だけでは分からないことばかりです。そんな時、具体的なアイデアやアドバイスをいただけるのがありがたいですね」。「知恵の経営報告書」の作成や、新事業に取り組む際の助成金の申請なども商工会のアドバイスのもとで積極的に取り組んできた。

「10年後、20年後、『自然石の石垣なら人見石工』といわれるようになりたい。そのためにはまだまだ技を磨いていかなければ」。今後の成長を見すえ、気を引き締めている。

 

石積みは、各地域で産出される石の種類や地形などによってさまざまな工法が生み出され、代々伝承されてきた伝統技術でもある。

人見さんが父親の淳一さんに弟子入りしたのは約20年前。「技は基本『目で見て盗むもの』」という昔堅気の先代の方針から、子どもといえども手取り足取り教えてもらった記憶はないという。

「先代が仕事をする横で見よう見真似で積んでみると、『ダメ』の一言。どこがダメなのかは教えてくれません。及第点をもらえるまで何度も何度も積み直す。毎日その繰り返しでした」と人見さんは振り返る。

目地をコンクリートで固定しない野面積みの場合、石の向きや組み合わせを間違えると石垣が安定しない。

「重心が上下逆になる『逆石』など、やってはいけない積み方がいくつもありますが、それを見極めるのはプロでも容易ではありません。何十回、何百回と積みながら、目と技を鍛え上げていくしかない。一人前と言われるまでに10年はかかるといわれるのはそのためです」。

今では人見石工を背負って立つ立場になり、顧客から熱い信頼を寄せられる人見さんだが、それでも「先代の経験にはかなわないと感じることがあります」と謙遜する。「父親が開発した当社独自の『こぶ積み』は、石工の個性が魅力ですが、私はまだまだ型にはまった積み方をしてしまう。遊び心のちりばめ方は父親には及びません」。

 

石積みの技を次の世代に継承していくことも責務だと考えている人見さん。「現在は先代と私の2人で仕事を請け負っており、事業を継承してくれる若い人材を育てることが課題です」と語る。

そのためには受注を増やし、継続的に従業員を雇用できる環境を整えていかねばならないと考えている。石積み業に加えて造園業を手がける理由もそこにある。

「石垣造りを請け負った際に、庭木を植えたり、剪定したり、庭石を置くなどの作庭を依頼されることがあります。主要事業ではありませんが、そうしたお客様の細かいご要望にも応えていきたいと考えています」と人見さんは意図を語る。造園業を始めるにあたっては、京都府の「中小企業ステップアップ事業」に申請し、補助金を獲得。京北商工会からのアドバイスが役立ったという。

 

「より多くの人に石積みを知ってもらうためには客観的な『お墨付き』も必要」と、人見さんは2005(平成17)年に石材施工技能士の一つである石積み1級技能士の資格を取得した。

「公共工事を請け負う場合、石材施工技能士の有資格者が求められることが少なくありません。技能士1級を取得したことで、それまでになかった公共工事の依頼を受けることも多くなりました」と人見さん。

平等院の近くを流れる宇治川の護岸工事に参加したこともその一つだ。周囲の環境を重視し、自然石で行われた護岸工事の石積み技能士の一人として、人見さんが指名された。その他、京都御所の周囲を取り巻く石垣の石積みなど、歴史的な建物を含めた環境を大切にする公共工事の際には地域をまたいで依頼されることが少なくないという。

従業員を雇用できるまで安定して受注を増やすことが目下の目標。未来を見すえ、人見さんの研鑽はこれからも続く。


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