石積みは、各地域で産出される石の種類や地形などによってさまざまな工法が生み出され、代々伝承されてきた伝統技術でもある。
人見さんが父親の淳一さんに弟子入りしたのは約20年前。「技は基本『目で見て盗むもの』」という昔堅気の先代の方針から、子どもといえども手取り足取り教えてもらった記憶はないという。
「先代が仕事をする横で見よう見真似で積んでみると、『ダメ』の一言。どこがダメなのかは教えてくれません。及第点をもらえるまで何度も何度も積み直す。毎日その繰り返しでした」と人見さんは振り返る。
目地をコンクリートで固定しない野面積みの場合、石の向きや組み合わせを間違えると石垣が安定しない。
「重心が上下逆になる『逆石』など、やってはいけない積み方がいくつもありますが、それを見極めるのはプロでも容易ではありません。何十回、何百回と積みながら、目と技を鍛え上げていくしかない。一人前と言われるまでに10年はかかるといわれるのはそのためです」。
今では人見石工を背負って立つ立場になり、顧客から熱い信頼を寄せられる人見さんだが、それでも「先代の経験にはかなわないと感じることがあります」と謙遜する。「父親が開発した当社独自の『こぶ積み』は、石工の個性が魅力ですが、私はまだまだ型にはまった積み方をしてしまう。遊び心のちりばめ方は父親には及びません」。