ビジネストレンド京都
サイト検索
 
サクセスリポート  

株式会社 能見工務店
〒610-1126 京都市西京区大原野上里男鹿町1-5
TEL:075-203-6037
http://www.noumi-k.com

地震が多く湿度の高い日本の風土に適した伝統的な工法の家づくりにこだわる能見工務店。十数年後には大工職人の数が半減すると言われるなか、「この技術を後世に残さなければ」という使命感を支えとし、次代を担う職人の育成にも尽力する能見太郎氏に、経営者としての思いを伺った。

 
 

現在も多くの竹林が残る長岡京市に作業所を構える能見工務店。そのこだわりは、近所にある自宅兼事務所に一歩足を踏み入れれば一目瞭然だ。釘などの金物を一切使用しない伝統工法の木組みに、半年寝かせて作った土を用いた壁。着工から6年目の今もなお檜の香りに包まれる空間には、四季があり地震が多い日本で快適に暮らすための知恵が凝縮されていると能見さんは言う。

「日本で生まれた工法としては、高度経済成長期に確立された在来工法と、古くから伝わる伝統工法とが挙げられますが、その大きな違いは、地震の揺れに対する考え方にあります。在来工法は、筋交い、金物、構造用合板を用いた耐震構造。地震の揺れに耐えるものとなっており、剛構造と呼ばれます。一方、自然素材を用いた伝統工法は柔構造と言われ、地震の力を逃がし被害を最小限にとどめる免震構造。数々の震災を経て、多くの建築家から伝統工法のよさが見直され始めています」。

修行時代、「伝統工法の魅力を広く伝えたい」と思ったという能見さん。伝統工法で建てられる住宅が少なく現場で経験を積むことは困難だったため、ほぼ独学で古来より伝わる木組みなどを学び、3年の御礼奉公を終えたことを機に独立を決意した。

 

「勢いで独立したものの、初めの半年間はまったく仕事がありませんでした」と、能見さんは独立当初を振り返る。チラシのポスティングや不動産屋さんへの飛び込み営業をしているなかで、少しずつ仕事をもらえるようになったという。それらは伝統工法に関わる仕事ではなかったが、「経営の基盤を築き、信用を得るための通過点」と考えた。

「売上は伸びてはいるものの、本当にやりたい仕事ができない」。そんな葛藤の日々から脱する契機となったのは、意外にも自身の結婚だった。「家を建てようということになったとき、伝統工法で建て、たくさんの人に見てもらうことでそのよさを知ってもらうことを思いついたんです」と能見さん。2010年に着工し、仕事をこなしながら約2年をかけて、匠の技と自然素材からなる総檜造りの自宅兼事務所を完成させた。4日間のオープンハウスでは約120名を動員し、初の新築工事と和室のリフォームを受注。さらに口コミや紹介で、能見工務店の名が広がっていった結果、竣工の翌年から現在に至るまで、年間2棟の新築をコンスタントに受注している。「もちろんすべての案件で、伝統工法の木組みを採用しています」と、能見さんは笑顔で語る。

 

「伝統工法の家の魅力を広めたい」という思いの実現を目指す能見さんは、目下の課題の一つとして職人の育成を挙げる。その背景にあるのは、高齢化による職人不足が深刻化し、伝統工法で施工できる工務店が減少の一途を辿っているという現状だ。今は、採用して2年目となる弟子の育成に力を注いでいるという。

もう一つの課題は、情報力の強化。その一環として行ったホームページのリニューアルとリーフレットの作成をサポートしたのが、長岡京市商工会だった。能見さんは、「それまで商工会に加入しているだけでしたが、小規模事業者持続化補助金の申請書作成で、的確なアドバイスをいただきお付き合いが始まりました」と話す。

さらにその後、経営支援員の勧めで、京都府『知恵の経営』の認証獲得に挑戦。経営支援員のきめ細やかな助言の甲斐あって、2016年6月に実践モデル企業として認証を受けることができた。その意義について能見さんはこう語る。「最大の収穫は、報告書の作成を通じて何を発信していくべきかが明確になったこと。必要性を感じながらも手をつけられずにいた経営理念を策定することができました」。

紡ぎ出された経営理念、『お客様が愛着を持ち住み続けられる家づくり』を胸に、「夢は能見工務店のブランド化」と語る能見さんの歩みは、次世代へ向けて加速していく。

 

能見さんの家づくりは、素材である木材の選定から始まる。

現在主流となっているプレカット材(工場で製材された構造材)は、使用せず、材木市場に足を運んで使用する箇所に応じた材木を探したり、木こりの方と一緒に山へ立ち木を見に行ったりと、良質の木材へのこだわりにより確立した独自のルートから納得のいくものだけを仕入れている。このようなネットワークを活用することで、良質の木材を安く仕入れることができるのだという。例えば、質はよくても曲がっていることで通常では商品にならない特殊木材も、使う箇所によっては住居の魅力を増すので選択肢の一つとなるが、これができるのも能見さんに目利き力と加工技術があるからだ。

また、多くの木材がされているような乾燥機による強制的な処理も行わない。木のねばりがなくなり、ノミを打っても反発しないスカスカの材料になってしまうからだ。自社の作業場で時間をかけて自然に乾燥させた木材を、能見さんをはじめとする大工が墨付けを行い、丁寧に刻み、加工することで、骨組みとなる木材ができあがっていく。

「当社のように伝統工法を専門とする工務店は他にもあります。ただ全国の工務店のおよそ9割が、プレカットで家づくりを行っているのが現状。そういう意味では、当社のような存在は希少かなと思います」と能見さん。

こうした利益だけを追求しない、手間暇を惜しまない家づくりの原動力は、何なのか。この問いに、能見さんはよどみなくこう答えた。

「修業時代、一番勉強になったのは、築100年を超える家を解体する仕事でした。隠れたところに、今まで見たこともないような職人による丁寧な仕事がふんだんに施されているのを目の当たりにして、こうした技術は後世に残していくべきだと強く思いました」

スピード重視ではなく、木の本来の特性を活かした建築物の価値と魅力を世に伝えたい。そんな使命感が、能見工務店の屋台骨となっている。

 

同社の家づくりの特長は、もう一つある。それは、プランニングの段階に見られるものだ。通常メーカー住宅には、あらかじめ建築面積や空間構成、間取りなどが決められており、その中で個別の希望を取り入れていく規格プランと、自由度が高いフリープランとがある。フリープランの場合、一次プラン提案後の修正については設計契約を結ぶ必要があり、別料金が発生するのが一般的だ。

しかし同社では設計契約を結ばず、何度でもプラン修正を行い、顧客の納得できるプランをつくり上げていく。

「木造、しかも規格のあるプレカット材を使用せず建築できるので、間取りは自由自在です。お客様と話をして、たとえばもっと大きい空間がほしいといった要望が出れば、それを実現するための骨組みを考えて対応できます。とことんやるのが当社のスタイル。間取りの打ち合わせが1年に及んだこともあります(笑)」

経営理念の『お客様が愛着を持ち住み続けられる家づくり』は、ハードとソフトの両面で実践されているのだ。

 

昨今、高齢化やプレカットによる家づくりが主流となったことによる、日本古来の伝統建築の技術を有する職人の不足は深刻さを増している。今後について、「次代に伝えるということが特に大事」と話す能見さん。大工として一通りの仕事ができるようになるまでには7、8年かかり、技術を向上させていくためには多くの現場を踏むしかない。いかに若い世代がモチベーションを持ち続けられるような環境を整えるかという課題を前に、試行錯誤の日々を送っているという。

その一環として行っているのが、極限まで薄いカンナ屑を出せるかを競う“削ろう会”、マサカリやチョウナを使って丸太をはつり材木にする技術を競う“はつろう会”など、全国の職人が腕を競い合う大会への参加。参加者の年齢層は幅広く、弟子と同年代の職人もいるため、刺激になるそうだ。

「じっくりと時間をかけて取り組むべき課題だと思っています。最終的な目標は、伝統工法の家づくりなら能見工務店と言われるような、ブランド化の実現です。職人が、能見工務店で働いていることを誇りに思えるような存在になることを目指したい」と、力強く語る能見さん。時間と手間を惜しまない丁寧な家づくりと人づくり、その両方の実践による、さらなる飛躍に期待したい。


このページのトップへ

 

 

Copyright (c) 2002-2016 京都府商工会連合会. All Rights Reserved.