能見さんの家づくりは、素材である木材の選定から始まる。
現在主流となっているプレカット材(工場で製材された構造材)は、使用せず、材木市場に足を運んで使用する箇所に応じた材木を探したり、木こりの方と一緒に山へ立ち木を見に行ったりと、良質の木材へのこだわりにより確立した独自のルートから納得のいくものだけを仕入れている。このようなネットワークを活用することで、良質の木材を安く仕入れることができるのだという。例えば、質はよくても曲がっていることで通常では商品にならない特殊木材も、使う箇所によっては住居の魅力を増すので選択肢の一つとなるが、これができるのも能見さんに目利き力と加工技術があるからだ。
また、多くの木材がされているような乾燥機による強制的な処理も行わない。木のねばりがなくなり、ノミを打っても反発しないスカスカの材料になってしまうからだ。自社の作業場で時間をかけて自然に乾燥させた木材を、能見さんをはじめとする大工が墨付けを行い、丁寧に刻み、加工することで、骨組みとなる木材ができあがっていく。
「当社のように伝統工法を専門とする工務店は他にもあります。ただ全国の工務店のおよそ9割が、プレカットで家づくりを行っているのが現状。そういう意味では、当社のような存在は希少かなと思います」と能見さん。
こうした利益だけを追求しない、手間暇を惜しまない家づくりの原動力は、何なのか。この問いに、能見さんはよどみなくこう答えた。
「修業時代、一番勉強になったのは、築100年を超える家を解体する仕事でした。隠れたところに、今まで見たこともないような職人による丁寧な仕事がふんだんに施されているのを目の当たりにして、こうした技術は後世に残していくべきだと強く思いました」
スピード重視ではなく、木の本来の特性を活かした建築物の価値と魅力を世に伝えたい。そんな使命感が、能見工務店の屋台骨となっている。