京都府南丹市に工場を構えて50年近くになるパール染色株式会社。京都市街から離れ、公共交通機関の便もそれほどよくないこの場所に、世界の名だたるハイブランドの靴やカバン、衣服の生地が持ち込まれる。同社は、国内でも数少ない手摺りの顔料プリントに特化した企業として、服飾関係業界では知られた存在だ。
染色は一般に、染料と顔料という材料の違いによって大きく2種類に分けられる。水に溶かした染料に白い布地を浸し、繊維に染料を化学的に結合させる方法に対し、パール染色が主事業とするのは、顔料に接着剤を混ぜ、生地の上に塗布して固着させるプリント方法。とりわけ同社の強みは、機械では対応できない生地を職人の手仕事で摺り上げるところにある。
「生地に別の加工が施してある、あるいは生地が分厚すぎるなどの理由でプリント機械に通すことのできないものや、撥水加工を施したナイロン生地など、特殊な素材のために他社では染めることのできなかったものなどが『なんとかしてくれ』と持ち込まれることが多いですね」と語るのは、代表取締役社長の林 宏樹さん。注文を受けると、生地の素材に合わせて最適な接着剤の種類や混合量を検討するとともに、「滑り止めのようなざらざらした肌触り」、「光沢のある風合い」など、顧客の要望に応じてサンプルを作る。「その際心がけているのが、お客さまの希望通りにプリントしたものに加えて、もう一種類サンプルを提出すること。お客さまの求める雰囲気を実現するにはこうした方がいいというように、染色のプロとして提案します」と林さん。
加えて、短納期に応える柔軟さもパール染色が顧客の信頼を集める理由の一つ。注文を受けてから2、3日で数千枚のプリントを仕上げるといった「高速対応」も少なくないという。