木津川市に本社、および自社工場を構え、量販店の什器やオフィスの家具、鉄道車両の内装品などを製造する日産スチール工業株式会社。多様な業界に事業を広げるだけでなく、自社商品を企画・開発、提案する。次々と新商品のアイデアを生み出す代表取締役の西部清志氏にお話を伺った。
日産スチール工業株式会社は、スーパーマーケットなどの量販店用の什器をはじめ、オフィス家具や鉄道車両の内装品などの製造・販売を手がけている。顧客の提示した図面通りに作るだけでなく、設計から製造、設置まで一貫して担えるのが同社の強み。1975(昭和50)年、船舶内で使用される家具を固定する金具の製造から事業をスタートさせ、ロッカーやキャビネットなどのスチール家具、さらにステンレスや樹脂製の什器と、製造ノウハウを蓄積しながら取り扱い商品を増やしてきた。
事業拡大の転機は1990(平成2)年、大手スーパーマーケットに導入されるベルトコンベアータイプのレジ台の製造を請け負ったことだった。「設計から部品調達、組み立てまで自社でまかなうことで、当初単独受注していた大手メーカーの半値以下で作ることができました」と振り返ったのは代表取締役の西部清志さん。この実績が評判を呼び、流通市場へ参入。2006(平成18)年には、流通最大手・イオン株式会社の全店舗に導入するレジ台1万台を受注。以来、10年以上にわたって指名発注を受けるほど信頼を獲得している。
同社が多様な業界に販路を広げてきた理由は、その企画提案力にある。
「注文通りに商品を製造するだけでなく、お客様の課題を解決・改善する周辺機材や新商品を自ら提案することにも力を入れています」と西部さん。ロール袋ホルダー「きりひら君」もその一つだ。スーパーなどで購入した商品を袋詰めするためのサッカー台に置かれているビニール袋のロールから片手で簡単にビニール袋を取ることができる。その他、レジのキー操作ミスを防ぐ「ミスナイ」など、「現場のお困りごと」に細かく目を配った商品だけでなく、将来を見越し、時代を先取りした革新的な商品の提案も行う。「去年から徐々に導入が始まった、買い物カートが通過できるカートアウトタイプのレジ台を最初に提案したのは10年前」というから先見性の高さは折り紙つきだ。
「知らないことは勉強し、知識と技術を蓄積すれば、それが次の開発につながる糧になります」と、畑違いの分野でも臆せず開発に挑む。そうして生まれたのが、生鮮食品の鮮度を保つシート「フレッシュママ」だ。
原材料に練り込んだ特殊な素材が野菜や果物の腐敗を進めるエチレンガスを分解することで鮮度を保つ。「このシートを野菜・果物の輸送に用いれば、廃棄ロスの低減が期待できます」と提案する西部さん。ハワイのパパイヤ農家が「フレッシュママ」でパパイヤを覆って空輸したところ、廃棄ロスが3割から1割にまで減るなど、その効果はすでに実証されている。「農家さんの助けになりたいと考えたのが開発の発端。食料危機が叫ばれている今、世界中で食料を必要としている人々に新鮮な野菜や果物を届けることに『フレッシュママ』がお役に立てれば嬉しいです」。
こうして独創的なアイデアを次々に商品化する陰には、木津川市商工会の支えがある。「新規開発のための補助金を獲得する際など、アドバイスやサポートをいただいています」と西部さん。「知恵の経営」報告書の作成にも力添えするなど経営課題の解決を支援している。
「より良いものをより安く、期日通りに納めることが使命。それだけでなく、これからもお客様や社会に貢献する自社商品を開発し続けていきたい」と、未来を見すえる。
「『フレッシュママ』の開発にあたっては、大阪大学と連携し、開発した素材がエチレンガスを二酸化炭素と水に分解する触媒として作用していることを突き止めるとともに、野菜や果物を使った実証実験で効果を検証するなど、科学的な裏付けを得ています」と語った西部さん。
さらに1年をかけて「フレッシュママ」をブラッシュアップさせた。「これまで3時間で65%のエチレンガスを分解していたのですが、同じ時間で約80%を分解、6時間でほぼ100%分解できるまでに機能を高めました。それに加えて、新たに水分調整も可能にしました。これにより、水分量の多い野菜・果物の長期保存もできるようになります」。
現在は本業であるスチール加工技術を組み合わせ、生鮮食品輸送用の小型コンテナも開発している。この取り組みは、京都府商工会連合会の2016(平成28)年度革新企業顕彰事業において「優良技術革新賞」を受賞した。
「今後は、販路の開拓が課題になる。すでに数多くの問い合わせを受けているというが、まずは流通業者や生産農家などを対象に販売を開始し、将来的には小売りも目指す。近く国内の展示会に出展する予定だが、関心は想像以上に高く、強い要請を受けて海外の展示会にも出展していくという。
日産スチール工業がこれまで大手総合スーパーを中心に流通業界で顧客を獲得してきた背景には、同社のマネジメント努力がある。企画開発、製品設置時はもちろん、その後も同社社員が導入店舗に赴き、来店客やレジ通過状況などを確認し、データを収集。課題やニーズ、改善点を見出し、新たな開発・提案に生かしている。「お客様からオーダーがなくても、毎年1回、必ず当社の方から改善提案を行うようにしています」と西部さん。カートイン、カートアウトレジ台もそうした観察の中から生まれた。
また顧客ごとに製品の規格化を進め、工程管理や仕様のマニュアルや書類なども独自に作成することで、常に品質を保つとともに仕様変更の依頼にもフレキシブルに対応できる体制を整えている。現状に甘んじることなく、顧客にメリットを提供し続けることが、長期にわたる取引につながっている。
2017(平成29)年、本社工場を新設。生産体制をより強固なものにした。
しかしそれまでシェアを伸ばしてきた郊外の大型スーパーに陰りがみられる近年、大手スーパーでもコンビニエンスストアなどの別業界への業態変革が始まっている。流通業界を主力顧客に据えてきた同社も将来を見すえ、新たな事業開拓の必要性を感じている。
そうした中で、受注を増やしているのが内装や建築関連製品だ。これまで駅構内に立てられるアルミポールなどを手がけてきた。
「筒内には通信や防犯カメラなどのための電線が通っています。金属製品の製造はもちろん、本業以外の分野であっても柔軟にお客様のご要望に応えてきたことから声をかけていただきました」。
それが縁で、豪華な内装が施された寝台列車や特殊車両の内装に用いられる天井躯体や窓枠サッシ、シャワールームなどの製造を請け負った。
「今後はさらにこれまではあまりお付き合いのなかった公的機関や大学などとも連携して新規事業を開拓し、会社の事業構造の転換を目指していきます」と西部さん。同社が次にどのような分野にどんな画期的な新製品を投入するのか。楽しみでならない。