京都府商工連だより
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株式会社上尾製菓

伝統の京菓子の技術を強みに、新商品開発に挑戦する。

株式会社うえせい
専務取締役 うえ ふみあき
代表社員 石田 幸広 氏

ギフトショーで大反響を呼んだ
「ねこもにゃか」

 茶の産地として名高い宇治田原町で、40数年にわたって京菓子の製造卸業を営む株式会社上尾製菓。三代目となる専務取締役の上尾文昭さんは、自社商品の開発やOEM生産など、新たな取り組みを次々と成功させ、企業を成長させている。今回、そうした挑戦や企業の発展への意気込みを伺った。
株式会社上尾製菓
〒610-0253 京都府綴喜郡宇治田原町贄田植山34-1
TEL 0774-88-3243
https://ueoseika.com/

伝統の京半生菓子の数少ない製造卸業

 1980(昭和55)年の創業以来、40余年を数える上尾製菓。自社で製造から販売まで行う製造直販が主流の業界にあって、問屋や商社を通じて全国の小売店に商品を販売する製造卸を主事業にする数少ない会社として、存在感を発揮している。
 らくがんなどの干菓子、水分量30%以下の柔らかい京半生菓子など、扱うのは「日持ちのする和菓子」が中心だ。「らくがんの製造からスタート。さまざまな伝統的な京菓子を職人から仕入れ、自社で詰め合わせたギフト商品を提供してきました」と語る専務取締役の上尾文昭さん。その後、仏前に供えるお供え菓子やひな祭りのお菓子など、季節・節句の菓子にも商材を広げてきた。

自社開発の新商品が大反響OEM生産の足がかりに

 「京半生菓子の製造卸業界は縮小傾向にあり、菓子を作る職人も減り続けています。今後の存続を考えた時、何か新しいことに挑戦しなければならないと強く感じていました」と語った上尾さん。仕入先の職人の廃業に伴い、製造ノウハウや道具を引き継ぎ、内製化に力を注いできた。現在では「錦玉羹きんぎょくかん」といわれるゼリー菓子をはじめ「ほうずい 」、「琥珀糖こはくとう」など主力商品の多くを自社工場で製造している。それに加えて着手したのが、自社商品の開発だった。
 最初に手がけたのが、「ねこもにゃか」。猫のイラストをプリントしたもなかの中に、色とりどりの京半生菓子をぎっしり詰めた。菓子を食べた後は、備え付けの餡をもなかに挟んで食べるという楽しい商品だ。「既存商品に比べて上代価格が高くなることから、開発には社内でも反対の声が挙がりましたが、それを押し切って商品化しました」と言う。しかし最初は既存の取引先に扱ってもらえず、苦戦が続いた。事態が一変したのは、東京で開催されたギフトショーに出展したことだった。そこで大反響を呼び、注文が殺到。結果的に大ヒット商品になった。
 これを機にさまざまな会社からオリジナル商品のOEM生産の依頼が舞い込む。「複雑な形も繊細に表現できるらくがんの製法やフードリント技術を生かし、キャラクターを象ったラムネ菓子や干菓子を提供するようになりました」。
 同社の強みは、企画から製造、パッケージまで一貫生産できることにある。「多種多様な菓子を小ロットで生産し、一つの箱に詰め合わせられることに加え、多様なデザインのパッケージを提案し、出荷まで一括して請け負えます。京菓子業界では他にない当社ならではの特長です」。
 OEMの増加により、売上は大きく上昇。2023(令和5)年には、本社社屋を兼ねた新工場を竣工し、生産能力を大きく拡大した。

新商品開発や展示会出展新たな挑戦を商工会が支援

 こうした上尾製菓の取り組みを支援しているのが、宇治田原町商工会だ。「補助金取得のための伴走支援はもちろん、展示会への出展を後押ししてくださったり、地元の販売先や倉庫・外注加工といった協力会社を紹介してくださることも力になっています」と上尾さん。
 コロナ禍にはクラウドファンディングを活用し、新商品「ねこ忍茶かぷちーの」を開発。多くの支持を得るなど、苦境にあっても歩みを止めない。
 今後は、海外進出も視野に入れているという上尾さん。「伝統的な京菓子の製造技術が私たちの強み。これを生かし、OEM、自社商品開発共に事業を大きくしていきたい」とさらなる成長を誓っている。

現代のニーズを汲み取りつつ、京菓子の特長を生かした商品を開発

 らくがん・ゼリー菓子の製造から始まった上尾製菓。一人で奮闘する初代を助けるべく事業に参画した現・代表取締役の榎 俊也さんが、京菓子の職人を訪ねて仕入先を開拓し、商品のバリエーションを拡大。色も形も異なる多種多様な菓子を詰め合わせた商品を開発し、販売ルートを広げたことで、事業を軌道に乗せた。
 それを引き継ぐ上尾文昭さんも、現代のニーズを的確に汲み取りながら、京菓子の特長や製造技術を生かした、他にはできない商品を作っている。
 自社開発商品の琥珀こはくとう「きらめきこはく」もその一つだ。「琥珀こはくとうは、寒天を煮溶かし、砂糖を加えて作る伝統的な和菓子です。表面を結晶化させることで、外側のシャリシャリとした歯触りと、中の寒天ゼリーのしっとり柔らかな食感を楽しめます」。上尾さんは、この琥珀こはくとうを彩り豊かに詰め合わせ、「きらめきこはく」と名付けて商品化した。商品は、その美しさから「食べる宝石」といわれ、SNS などで大きな話題に呼ぶことに。現在も生産が追かないほどの大ヒット商品になった。

京菓子の伝統製法で作った自社開発商品が大ヒット

 近年事業の柱になりつつあるOEM生産においても、京菓子の伝統的な製法・技術が、新市場に挑む同社の強みになっている。「例えば、ラムネ菓子のように、粉末を固めて成型するタブレット菓子は数多くありますが、その多くは、高圧で型に押し込む乾式打錠法で成型されます。一方、当社が作るラムネ菓子や干菓子には、湿式打錠法といって、湿度を加えて成型する昔ながらのらくがんの製法を用いています。この製法だから、複雑な形を繊細に表現することも可能なのです」と説明する。
 コロナ禍中に開発された新商品「ねこ忍茶かぷちーの」にも、らくがんの製法が生かされている。かわいらしい「ねこ忍茶(にんじゃ)」は、ほうじ茶や抹茶とミルクを粉状にして固めたもの。「ねこの顔の表情や額に載せた葉っぱといった細かな形が崩れない程度に固さを保ちつつ、お湯をかけたらきれいに溶ける。その絶妙の固さに成型するのに苦心しました」と開発秘話を明かす。その甲斐あって、企画商品として生まれながら、現在も注文が途切れない定番商品の一つとなっている。
 ていねいなものづくりが強みになる反面、多くの工程が手仕事のため、OEM に対応する生産量を確保できないのが課題だった。「そこで宇治田原町商工会の力を借りて補助金を獲得し、らくがん成型機を導入しました。これによって、ある程度大ロットのオーダーにも応えられるようになりました」と語る。
 新工場を設立した際にも新たに設備を導入し、生産能力の拡大を進めている。「今後も新規設備の導入を計画しています。機械化することで、OEM生産のさらなる需要に応えていきたいと考えています」。

海外への販路拡大が次の目標。さらなる成長を目指す

 自社商品開発や OEM 生産といった新たな挑戦によって、全国のテーマパークやレジャー施設から、神社仏閣、多様な業界の企業まで、販路は飛躍的に拡大した。次の一手として狙うのは、「海外」だ。
 「宇治田原町商工会に声をかけていただき、手始めに“日本の食品”輸出 EXPO に出展しました。海外に展開するには、販売ルートを確保することはもちろん、輸送・流通期間を考慮に入れた商品作りが必要です。さまざまなハードルはありますが、一つひとつクリアするべく進めています」と上尾さん。
 最近、外国人従業員も雇い入れ、海外バイヤーと英語で連絡や交渉を行う体制も整えつつある。「どんな商品なら外国人の方に喜んでいただけるのか、マーケティングをしながら海外向けの商品を開発していくつもりです」と意欲的だ。今後の上尾製菓のチャレンジに目が離せない。