京都府商工連だより
文字サイズ

キザキ食品株式会社

おいしく、安全な和束産ジビエを多くの人に届けたい。

キザキ食品株式会社 代表取締役
ざき ゆう

猪肉

ジビエ鹿肉ドッグフード生産

店舗「牛匠きざき本店」

自社加工工場
「京都南部ジビエ加工センター」

 相楽郡和束町を拠点に、精肉店での小売りをはじめ、卸売り、猪肉や加工品の販売、飲食店経営まで幅広く手がけるキザキ食品株式会社。さらに2024(令和6)年、新たに鹿肉を使ったドッグフードの販売を開始した。これまでの取り組みから新規事業への挑戦、今後の展望まで、代表取締役の木﨑裕太さんに伺った。
キザキ食品株式会社
〒619-1205 京都府相楽郡和束町中平田46
TEL 0774-78-2983
https://kizakifood.co.jp/

精肉店から卸売 猪肉・加工品販売へ事業拡大

 1953(昭和28)年、和束町で精肉店を開業して以来、70年以上の歴史を数えるキザキ食品株式会社。主事業は、小売店「牛匠きざき」での精肉販売だ。全国から質の高い食肉が集まるという京都食肉市場で目利きした牛を一頭買いする。「赤身でも脂が乗って深い味わいがある信州産の雌牛を中心に、厳選した肉を仕入れています」と語るのは、同社の3代目で、代表取締役の木﨑裕太さんだ。
 一頭買いの強みを生かし、レストランやホテルなどへの卸売り、ハムやソーセージなどの加工品の製造、さらには、自社の牛肉を使った特製ハンバーグを提供する飲食店「肉バルキザキ」の経営など、多角的に事業を拡大している。
 「キザキ」の名を県外にも広げる契機となったのが、猪肉のインターネット販売だ。同社は創業当初から、和束地域で獲られる天然の猪肉を販売してきた。11月中旬から始まる猟期には、近県からも同社の猪肉を買いに来る人が後を絶たない人気ぶりだ。それに加えて2003(平成15)年から、「猪肉のキザキ」の名称でインターネット販売を開始した。精肉に加えて、特製の味噌が付いた「ぼたん鍋」セットが評判を呼び、今では東京をはじめ関東圏からの注文が8割を占める。「ネットを見た料亭などの飲食店から卸売りの依頼もくるようになり、取引が拡大しています」

天然鹿肉を使ったドッグフードを開発・販売

 さらに現在、新たな事業に挑戦している。それが天然鹿肉を使ったドッグフード「WAJICA(わじか)」の開発だ。「和束はお茶の産地として知られていますが、猪だけでなく鹿も多く、近年、茶畑を荒らす獣害が深刻になっています。猟友会と地域が連携し、駆除に取り組んでいますが、その後の処理が課題の一つになっています。鹿肉を使用することで、そうした課題解決の一助になればと考えました」と木﨑さん。
 そこで和束産の天然鹿を乾燥させてジャーキーやふりかけ状に加工。無添加・無着色で、人間が食べても安心な高品質のドッグフードを実現した。「鹿肉は高たんぱく低カロリーで、犬の好む味が特徴です。特にペットの健康や安全に関心の高い人に喜んでいただけると思っています」と自信を見せる。
 新商品を製造するにあたって、新たに自社加工工場を新設した。衛生管理の国際規格HACCPに対応し、搬入から捌きや加工、スチーム殺菌、乾燥、梱包・出荷まで、品質管理を徹底し、一貫してできる体制を整えている。
 2024(令和6)年11月に新商品を発売。今後、百貨店などに販路を開拓していく計画だという。

新規事業の立ち上げを商工会が強力支援

 和束町商工会は、同社の新規事業を力強く支援している。「事業を構想していた時、和束町商工会が主催する無料の個別相談会を紹介されたことも、その一つです。中小企業診断士に相談し、商工会の支援もあり事業方針が明確になったことに加えて、助成金も獲得でき、事業を具体化する目途を立てることができました。資金調達や営業支援など、全面協力してくれる心強い存在です」と信頼を寄せる。
 今後は「まずドッグフードの事業を軌道に乗せること」と目標を語った木﨑さん。「それを達成したら、新たな事業に挑戦したいと思っています」と目を輝かせ、前を見据えた。

「人の役に立ちたい」と精肉店を開業

 キザキ食品の前身の木﨑精肉店を創業したのは、木﨑裕太さんの祖父・木﨑健之さんだ。
 もともと木﨑家は農業を営んでいたが、1953(昭和28)年8月に京都府南部一帯を襲った集中豪雨・南山城水害で、家屋や田畑が流されてしまった。そこで健之さんは一念発起し、新たな商いを始めようと思い立つ。
 「人の役に立てる仕事はないかと考え、当時和束町になかった精肉店を開こうと決めたのが始まりと聞いています」と、木﨑さんは振り返る。その後、1989(平成元)年に法人化し、キザキ食品株式会社を設立。木﨑さんの父・木﨑健介さんが代表取締役に就任した。
 同社では、長年、こだわりの牛を一頭買いして自店で解体し、捌いた質の高い精肉を提供してきた。木﨑さんも若い頃から店を手伝い、捌き方の基本を覚えた後、食肉専門学校に入学。食肉に関する専門知識とともに捌きの技術を習得。さらに他の精肉店で数年間修行を積んだ後、家業に戻ってきた。2006(平成18)年に父の跡を継いで代表取締役に就任した後も、経営を担いながら自ら先頭に立って捌き作業を行ってきた。

迅速・的確な処理で、高品質のジビエ肉を安定して提供

 創業当初から人気商品の一つだったのが、天然の猪肉だ。現在も専属の猟師が京都府南部の山間で獲った質の高い猪肉だけを厳選し、販売している。
 「猪肉の質を決めるのは、何より迅速な処理です。当社では捕獲した後、すぐに血抜きし、1時間以内に捌いて、急速冷凍しています」と木﨑さん。猪の猟期は短く、11月からの約3ヵ月間に限られる。同社では、高い処理技術に加えて、冷凍設備を完備。1年を通して質の高い猪肉の提供を可能にし、それが、インターネット販売にもつながった。
 さらに2024(令和6)年11月から販売を開始したのが、和束産の鹿肉を使ったドッグフード「WAJICA」だ。無添加・無着色で、人間が食べても安心な「ヒューマン・クオリティ」を実現している。「鹿肉の難点は、食用にした場合、廃棄しなければならない部分が多いことです。ドッグフードにすれば利活用できる部位が増え、フードロスの削減にもつながると考えました」と言う。
 11月1日よりECサイトで先行発売。一方で、木﨑さん自ら百貨店、高速道路のサービスエリアなどに提案営業を行い、卸売り先も増やしていこうとしている。
 天然の猪肉や鹿肉を扱えるのは、和束に拠点を構える同社ならではの強みだが、課題は、猪や鹿を捕獲し、処理する技術を持った猟師が減少していることだ。「今後は、猟友会と協力し、猟師を育てる活動にも力を入れていきたい」と語る。

食肉流通を通じて、地域にも貢献したい

 店舗だけでなく、卸売りやインターネット販売などにも事業を展開する木﨑さんだが、生まれ育った地元・和束町への愛着は、ひと際強い。現在も和束町に本店と自社工場を構え、また地域の獣害対策などに力を注ぐのも、地域を大切にする思いからだ。
 地域を盛り上げる一助になればと、2024(令和6)年8月には、盆踊り大会を開催した。地域では長らく盆踊りの開催が途絶えていたが、若い世代からの「復活させたい」という声に共感し、会場として同社の駐車場を提供した。
 「商工会の仲間も駆けつけ、設営や運営を手伝ってくれました。異業種の商店などとのつながりが深まるのも、商工会の良いところです」と言う。
 盆踊り大会には人口約3400人の町ながら、2日間で推定800人が集まり、大盛況となった。開催したのはお盆の只中。精肉店にとっては、まさに書き入れ時だ。「店も、盆踊りも大忙しで、大変でした」と言いながら、木﨑さんは嬉しそうに笑った。
 「食肉流通を通じて社会貢献」を企業理念に掲げる同社。これからも事業を通じて、地域にも尽くしていく。