京都府商工連だより
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株式会社 道

障がい者の就労支援を通じて地域に活気を呼び戻したい。

株式会社 道 代表取締役
かみ 寿 ひと

総菜の中でも人気の手作りコロッケ

主力の「えごま茶」の他、えごまを使った商品

栽培した野菜を使った弁当を販売

 乙訓郡大山崎町で、就労継続支援B型事業所「Go Way」を運営する株式会社 道。利用者の就労支援として、無農薬で栽培し、すべて手作業で加工した「えごま茶」などを販売している。代表取締役の三上嘉寿仁さんに、障がい者の就労支援に取り組む思いとともに、今後の展望を伺った。
株式会社 道
〒617-0837 京都府長岡京市久貝2丁目15-17 坪内マンション1F(旧ビストロフローラ内)
TEL 075-925-6969
https://otokuni-kyoto.sakura.ne.jp/wp/itookashi/area/nagaokakyo/goway/

障がいを持つ人の働く場所就労継続支援事業所を開設

 株式会社道は、2015(平成27)年に就労継続支援A型事業所「GoWay」を開設されその後、就労継続支援B型事業所へと移行された。障がいなどによって一般就労が難しい人に、就労や就労訓練の機会を提供している。
 現在、11名の利用者が、代表取締役の三上嘉寿仁さんをはじめ6名のスタッフの支援を受けながら働いている。野菜の栽培のほか、タケノコの収穫や竹藪の管理、また収穫した野菜を使った加工品や弁当・惣菜の製造・販売も行っている。
 利用者は一人ひとり、目標も違えば、障がいの種類や程度によって、できることもさまざまだ。「一般就労を目標に就労経験を積みたいという方もいれば、自分のペースで長く働き続けたいという方もいます。最初にどのような力を身につけたいのかをお聞きし、それに合わせてご自身の強みを生かせる仕事をしていただいています」と三上さん。
 事業所内はいつも明るく、会話や笑い声が絶えない。「誰もが話しやすい職場づくりを目指しています。中には、最初はほとんど喋らなかったのに、数年当社で働いて、今では『人が変わった』と思うほど、お喋りになった方もいます」と言う。

無農薬・手作業で作る「えごま茶」を販売

 「GoWay」で生産している野菜の中でも主力となっているのが、「えごま」である。「農業をするなら、大山崎の地に根差した野菜を育てたいと考えていた時、大山崎町が、かつて『えごま油』の生産で栄えたことを知り、やってみようと決めました」と三上さん。えごまは、栄養価は高いものの、独特の味わいが苦手な人も少なくない。また、えごま油を製造するほどの収量を確保することは難しいため、加工品にすることを思い立ち、「えごま茶」を商品化した。
 その工程は、えごまの葉の部分だけを手摘みすることからはじまり、丁寧に洗って天日干しし、それを細かくちぎって茶葉にするまで、すべて手作業で行う。それが、えぐみや苦みのない、すっきりとした味わいと豊かな香りを生み出している。「根気のいる作業は、利用者の皆さんの得意とするところです。当事業所の強みを生かせる商品だと考えています」
 「えごま茶」のほか、えごまのほうじ茶や、粉末にした茶葉を使った「えごま塩」「えごま唐辛子」、さらにえごまの実を一粒ひと粒摘み取った「えごまの実」などの商品を開発。事業所や地域で開かれるイベントなどで販売している。定期的に購入する顧客も増え、安定した収益を確保している。

志に共鳴し、大山崎町商工会が事業を力強く支援する

 大山崎町商工会は、三上さんの福祉に対する高い志に共感し、創業当初から支援してきた。「福祉の専門家ではあっても、経営についてはわからないことばかりです。商工会さんの紹介で、勉強会に参加して勉強しています。また専門家派遣の制度を紹介していただいて、専門家のアドバイスを得ながら『えごま茶』のパッケージデザインを作成したこともありました。いつも気にかけ、さまざまな情報を提供してくださるので、頼りにしています」
 今後は、大山崎地域以外、京都府全域に販路を広げていくことを考えている。「いつか全国展開できたら嬉しい」と、三上さん。「障がいを持った方々の就労支援とともに、地域を元気にすることにも貢献したい」と思いを明かす。三上さんの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

福祉の事業を通じて地域活性化にも貢献したいと開設を決意

 福祉系大学を卒業し、社会福祉士や精神保健福祉士の資格を取得していた三上さん。両親が営んできた小売店を共に経営しながら、「いつか福祉の仕事に就きたい」と、思いを膨らませていた。
 一方地元に戻ってきて以来気にかかっていたのが、生まれ育った地域が、以前とは様変わりしていることだった。「私が子どもの頃は、地域の人たちが大勢店に来てくださって、買い物をするだけでなく、集まってはおしゃべりしたりして、とても賑やかでした。それが少子高齢化の影響か、人通りもすっかり減り、まちが活気を失っていることに驚きました」と言う。
 「福祉の事業を通じて、地域の活性化にも貢献できないか」。そう考えていた時、大山崎のエリアには就労継続支援事業所がなく、働く意欲はあっても働く場所のない障がい者の方々が少なくないことを知り、自らその場所づくりの担い手になることを決意した。

えごま茶のほか、栽培した野菜を使った弁当・総菜が人気

 主力商品のえごまの栽培シーズンは、春から夏にかけて。摘み採ったえごまの葉は、新鮮なうちに加工してえごま茶や粉末にする。「5月下旬頃、最初に摘み採った若葉は『一番茶』といって、甘みや香りが強く、他にはない味わいがあります」と自信を見せる三上さん。収穫とえごま茶作りに大忙しの日々は、9月頃まで続く。
 無農薬栽培で、収穫や加工もすべて手作業。品質と安全性にも細心の注意を払う。「天日干しし、乾燥させた葉を手でちぎって細かくした後、不要なものが混ざっていないかを丁寧に確認し、小さな欠片までピンセットで取り除いています」。こうした手間を惜しまない商品作りが、購入者が絶えない所以だ。
 またえごまの栽培のない期間は、季節に合わせてさまざまな野菜を栽培している。採れた野菜は地域に出荷しているが、規格外で売り物にならない野菜を有効利用する一つとして、弁当や総菜作りを始めた。
 日替わり弁当には、自家栽培の野菜の他、できるだけ地元産の米や野菜を使用する。ボリュームと低価格、何よりそのおいしさから、毎日のように買いに来る客も多い。弁当以外にも、利用者が一つひとつ手作りするコロッケも人気を呼んでいる。
 「自分たちで作り、販売したものをお客様に食べていただけることが喜びです。『おいしかったよ』などと直接声をかけていただくことが、利用者の方々にとっても大きなやりがいになっています」と語る。
 常に利用者の就労に対する希望や適性を尊重しながら仕事を任せるのが三上さんの方針。それによって、商品の品揃えも変わる。「お菓子作りが得意な利用者さんがいる時には、えごまの葉の粉末を混ぜ込んだパウンドケーキやクッキー、大福などの菓子類も製造・販売していました。今後も、利用者さんの希望に沿いながら、消費者の方々のニーズに合った新商品も作っていきたいと考えています」

多様な視点で障がいを持った人の個性や強みを生かしたい

 「利用者の方はもちろん、それを支援するスタッフも増やしていきたい」と三上さん。「職場に多様な視点があることが重要」と、その理由を語る。
 「私の目だけで判断するのではなく、さまざまなスタッフが利用者さんを見ることで、『こんなこともできる』『実はこういう仕事が得意』などと、私の気づかない長所を見出してくれるかもしれません。不得手なところを私たちスタッフが補い、利用者さんの個性や強みをより生かしていけたらと考えています」
 障がいを持った人が地域でイキイキ働ける拠り所として、今後「Go Way」はますます存在感を増していくに違いない。