京都府商工連だより
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石田プロダクツ合同会社

世界の糖尿病患者の足切断を防ぐ。夢に向かって新会社をスタート。

石田プロダクツ合同会社
代表社員 石田 いしだ 幸広 ゆきひろ
代表社員 石田 幸広 氏

フットケアアプリイメージ

 長岡京市で2019(平成31)年に創業した石田プロダクツ合同会社。代表社員の石田幸広さんは、臨床工学技士としての専門性を生かし、セミナー開講や医療機器開発のコンサルティングを行ってきた。今回、現在取り組む糖尿病患者の足切断を防ぐ新規事業について伺った。
石田プロダクツ合同会社
〒617-0836 京都府長岡京市勝竜寺巡り原22-9
TEL 080-4019-8587
https://www.assigo.biz/

医療機器のスペシャリストとして病院勤務から起業へ

 病院で使われる医療機器の操作や管理を担う臨床工学技士として、20年近いキャリアを持つ石田幸広さん。医療機関で働きながら、2015(平成27)年から医療業界の関係者を対象にプレゼンテーションを学ぶ場をつくり、独自のプレゼンテーションセミナーを始める。セミナーは評判を呼び、受講者は累計1500人以上を数えた。
 一方で医療機器のスペシャリストとしての強みを買われ、企業の医療機器開発のコンサルティングも手がけるようになる。異分野から医療機器製造の分野に参入しようとしているものづくり企業から依頼を受け、ニーズ調査や製品評価などをサポートするようになった。こうして自ら創出した事業を推進するため2019(平成31)年2月、石田プロダクツ合同会社を設立した。

糖尿病の足切断を予防する新規事業をスタート

 石田さんは現在、これまで培った経験・知見を生かし、新規事業に挑戦している。それが、「糖尿病患者の足切断予防ソリューション」だ。
 「いまや世界の糖尿病人口は5億人を超えています。それに伴って、深刻な合併症である糖尿病性足潰瘍による足の切断も増加し、その数は年間100万件を超えるともいわれています」と石田さん。その原因として問題視するのが、「教育不足」だ。「糖尿病の患者さんにアンケート調査を実施したところ、患者さんは皆、足切断のリスクを承知しているにも関わらず、それを自分事として捉えられていないために足の管理・ケアを怠り、その結果、切断にまで至る実態が分かってきました」
 この問題を解消するため、石田さんはデジタル技術を活用してフットケアに導く教育と、それを継続する管理の仕組みを考案した。「一つがVRを用いた患者教育です。没入型の映像コンテンツで、足切断を自分事と認識させ、フットケアへの動機づけを行います。二つ目にセルフフットケア・管理用アプリケーションを開発し、患者自身が足の状態やケアを記録・管理できるようにします」
 石田さんは、このソリューションを、医療機関を介して糖尿病患者に届けるビジネスモデルを設計している。「医療機関にVRのハードとソフトを無料で提供し、糖尿病患者への教育に活用していただくとともに、患者へのアプリケーションの導入を促していただきます。アプリには閲覧機能をつけ、診察や指導にも生かしていただけます」と説明する。

起業時から伴走支援商工会の助言が力に

 長岡京市商工会は、起業当初から石田さんの挑戦に寄り添い、サポートしてきた。「ビジネスについてはまったくわからなかったので、創業間もない頃、『教えてください』と訪ねたのが始まりでした。商工会は、事業や経営について、どんなことでも相談できる心強い存在です」と石田さん。商工会の助言や補助金の紹介が事業推進の力になっているという。
 2023(令和5)年春、ついにアプリ開発をスタートさせた。同年8月、株式会社に改組し、社名を株式会社セカンドハートに変更(予定)。糖尿病のフットケア・足切断予防に特化したスタートアップとして新たなスタートを切る。
 まずはソリューションを開発し、国内の医療機関への提供を目指す。「いずれはASEAN諸国、さらには欧米など世界の糖尿病患者に当社のソリューションを届けたい」と大きな展望を描いている。

東南アジアの糖尿病による足切断の問題に直面し、事業化を決意

 「糖尿病による足切断ゼロ」を使命に掲げ、2023(令和5)年8月、株式会社セカンドハートとして第二幕がスタートする。
 石田さんが糖尿病患者の足切断に問題意識を抱いたきっかけは、2022(令和4)年6月、東南アジアの方々と行った医療に関するディスカッションだった。「東南アジアでも糖尿病が増えており、それに伴って足切断の増加も深刻になっていると聞いて、これが世界的な課題であることに気づきました」と言う。
 臨床工学技士として、とりわけ透析分野を強みにしてきた石田さんは、それまでに約300人もの糖尿病患者と接し、足切断の厳しい現場を見てきた。その経験からも足切断防止の必要性を強く感じ、ソリューション開発を決意した。
 同年、経済産業省と独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)が主催する次世代イノベーター育成プログラム「始動 Next Innovator」に応募。数百に及ぶ応募の中から100名に選抜されただけでなく、成果報告会「DEMO DAY」の発表者12名の一人に選ばれた。「ここで評価されたことで意義のある事業だと確信を持つことができた。新規事業をスタートさせると心に決めた瞬間でした」
 今年の6月には、JETROの「起業家育成支援シリコンバレー派遣プログラム(7月)」にも採択され、海外展開を視野に入れた活動に拍車がかかる。

フットケア・教育に高い実績を持つ看護師が参画

 「糖尿病患者の足切断予防ソリューション」として、現在、「VRコンテンツ」と「アプリケーション」の開発に取り組んでいる。
 「VRでは、没入型の特性を活用し、足切断のリスクをリアルに感じられるコンテンツを提供します」と石田さん。VRでフットケアに対する動機づけを行った後は、その実践方法を落とし込んだアプリケーションに誘導する。アプリでは、『セルフフットケア』のための記録・管理機能を搭載する他、教育コンテンツの配信やフットケア関連商品の販売なども考えています」と言う。
 同事業には、医療機関で数多くの糖尿病患者へのフットケアや教育に取り組み、足切断予防に突出した実績を持つ看護師が参画し、アドバイザーとして製品開発に関わっている。「完成すれば、フットケア・管理に特化した世界初のソリューションとなります」と石田さん。すでに特許も出願している。

人生100年時代を自分の足で生き抜く。ビジョンに向かって始動

 製品が完成したら、医療機関と連携し、糖尿病患者を対象にソリューションの提供をスタートさせる計画だ。「しかし『足切断ゼロ』を実現するには、それだけでは十分とは言えません。糖尿病になる前段階から予防に寄与していきたいと考えています」と石田さん。医療機関だけでなく、将来は企業や教育機関にもVRを使用していただくことを想定している。
 「人生100年時代を自分の足で社会に参加し続けることができる未来をつくります」。新たな掲げたビジョンに向かって、大きな一歩を踏み出した。