焚火用の薪を通じて、キャンパーに憩いの時間を提供する。


薪の他、ドリンクやスナック菓子を販売する店舗

24時間購買可能な薪の自動販売機

焚火やバーベキュー用の薪が人気
キャンプ場の間近で「あったらいいな」を提供
木津川の下流にある笠置キャンプ場。シーズンともなれば、広大な河川敷にテントを張り、バーベキューや川遊びを楽しむ多くの人々で賑わう。2018年、このキャンプ場のすぐ近くにオープンしたのが、笠置BBQ COMPANY M5(以下M5と称する)だ。「山や川に囲まれた自然豊かな場所で、周辺には店舗もあまりありません。そこで、キャンプ場を利用する人々が『こんなものがあったらいいな』と思うモノやサービスを提供しようと始めました」と、代表を務める滝口昌宏さんは語る。 最初は、食材から調理器具まで揃えたバーベキューセットを提供。最近では、笠置地域で獲られた鹿やキジなどのジビエ肉も販売している。「地元の事業者と提携し、獲って間もない新鮮な状態で真空・冷凍パックした肉を仕入れ、バーベキューを楽しむお客さまに販売しています」 また店舗では、コーヒーやアルコール類、スナック菓子などを販売する他、24時間使用可能なコイン投入型のシャワールームも設置。多くのキャンパーたちに喜ばれている。
焚火用の薪が大人気ソロキャンパー用が好評
中でもM5の主力商品が、薪だ。近年、キャンパーたちを中心に焚火がブームになる中で、焚火やバーベキュー用に、薪を求める客が爆発的に増えた。とりわけ笠置キャンプ場は、JR笠置駅にほど近いという立地から、電車で訪れる人も少なくない。そうした人々に、キャンプ場の間近で調達できる薪は、大きな人気を呼んでいる。M5では、着火に適した針葉樹と、大きな火力で長く燃える広葉樹の2種類の薪を用意。薪を扱い慣れていない人にも使いやすいサイズで提供していることも、好評の理由の一つになっている。 特に売上拡大を大きく後押ししたのが、滝口さんのアイデアで生み出した、ソロキャンパー向け薪セットだ。「笠置キャンプ場には、一人でキャンプを楽しまれる方が数多く来られます。そうした方々が持参される用具は、一人用の小型のものがほとんどです。それに合うように、通常より短く、細めにカットしたコンパクトな薪を用意したところ、たくさんの方にお求めいただくようになりました」と言う。 さらに夜間などの店舗の営業時間外に薪を買いに来る人のために、薪の自動販売機を設置した。コインロッカー型の販売機で、コインを入れると、薪1セットを取り出せる仕組み。現在は休業日でも、1日に何度も薪を補充しにいかなければならないほど、ニーズは高い。
商工会のサポートで多様なアイデアを形にする
さまざまなアイデアで、事業を広げている滝口さんを支援するのが、笠置町商工会だ。「親身になって相談に乗ってくださるありがたい存在です。薪の自動販売機を導入するにあたって補助金を得た際にも、申請書類の作成などをサポートしてもらい、助かりました」と語る。 笠置町で育ち、長年、ガソリンスタンドを営んできた滝口さん。笠置町商工会とも青年部からのつきあいだ。「アットホームなところが商工会の魅力です。商工会の活動を通じて、他の商売をされている地域の方々にも可愛がってもらい、協力し合う関係を築いています」 今後は、薪販売の店舗を増やすなど、事業の拡大を考えている滝口さん。「いつかは自分でキャンプ場を運営したい」と、大きな目標を見据えている。
思わぬところに商機を発見。廃材から薪の販売を着想
滝口さんは、地元である笠置町で、長くガソリンスタンドを経営している。笠置BBQ COMPANY M5 を開業したのは、「既存の事業に留まらず、事業拡大を図りたい。それによって自社の持続的な発展だけでなく、地域経済の活性化にも貢献できれば」と考えたからだった。 折しもキャンプブームの到来で、笠置キャンプ場にも多くのキャンパーたちが訪れていた。こうしたキャンパーたちが求めるモノやサービスを提供しようと、現在の事業を思いついたのが、M5の始まりだ。 「最初は、バーベキューセットや食材を販売することを考えており、薪の販売は念頭にありませんでした」と明かす滝口さん。それが、思わぬ偶然から薪に商機を見出すことになる。 「笠置キャンプ場のすぐ近くにある元パレット工場だった建物に着目。店舗にするために片づけ作業をしていた時のことです。建物に残った廃材を捨てようと外に運び出していたところ、通りかかったキャンパーに『焚火をしたいから、その廃材を譲ってくれませんか』と声をかけられたのです」と言う。直感的に「これは商売になる」とひらめき、すぐに焚火用の薪を商材の一つに加えることを決めた。 「廃棄物も見方を変えると、魅力的な商品になる。アイデア一つで事業が広がることに、面白さを感じました」と振り返る。
夜間・休業日にも対応する忙しさ。打開策として薪の自販機を導入
しかしそれからが、想像以上に大変だった。燃料用の薪をどこで調達すればいいのか、アテがまったくなかったからだ。そこから調達先を探し、奔走する日々が始まった。 「あらゆるところにアンテナを張って、調達先の情報を集めました。それだけでなく、周辺地域に車を走らせ、木材が目についたら、飛び込みで『仕入れさせてもらえないか』と、交渉することもありました」 苦労の末に、近隣で間伐材を提供する業者を見つけ、ようやく安定して調達できるようになった。現在は、焚火ブームを追い風に需要が高まり、販売量も飛躍的に増加。M5の屋台骨を支える主力商材となっている。 M5では、針葉樹と広葉樹という特性の異なる2種類の薪を扱っている。「針葉樹は、火が着きやすく、すぐに燃えるので、着火用に便利です。一方広葉樹は、硬い材質で燃えにくいけれど、一度火が安定すれば、大きな火力で長く燃え続けるので、焚火や調理に適しています。お客様には、この2つを組み合わせて使うことをお勧めしています」と滝口さん。キャンパーのニーズに応える薪を揃えたことも相まって、薪人気はさらに上昇した。 しかしそれが困った事態を招くことになった。それは、店舗の営業が終了した夜間や休業日にも「薪を販売してほしい」と、頻繁に電話がかかってくるようになったことだ。 「買いたいと言ってくださるのは、ありがたいこと」と、可能な限り要望に応えていた滝口さん。「お正月の3ヶ日に、お客様のご依頼に応じて店舗を開けに行ったこともありました」と言う。こうして休日どころか、長時間の外出もままならない状況を打開するために導入したのが、薪の自動販売機だった。「商品が売切れれば、補充する必要はありますが、以前に比べ、かなり対応時間の削減につながりました」
地域の事業者との連携も大切に、事業拡大を図る
長年、笠置町商工会青年部の活動にも積極的に関わってきた滝口さん。地域の他の事業者とのかかわりや連携も大切にしている。さまざまなアイデアを形にし、事業拡大を図りつつも、近隣の事業者と競合する商品は扱わないなどの配慮を徹底している。今後は、笠置キャンプ場だけでなく、他キャンプ場をターゲットに薪の販売拠点を増やすことを検討しているが、「その地域の事業者の方々とのコミュニケーションを取ることが先決です」と、慎重な姿勢を貫く。 「将来、自分でキャンプ場を運営するのが、大きな夢。まずは今の店舗の敷地で、ガレージバーベキューを楽しめるよう設備を整えることを構想しています」 滝口さんの挑戦には、まだまだ先がありそうだ。