京都府商工連だより
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株式会社Season

農業の多様な価値を創出し、地域に貢献したい。

株式会社Season 代表取締役社長兼CEO 
とき のり
代表社員 石田 幸広 氏

万願寺とうがらしの収穫のようす

三和ぶどうを使ったストレート果汁100%ジュース

 福知山市三和町で、特産品の万願寺とうがらしと三和ぶどうを生産する株式会社 Season。従来の農業のあり方を問い直し、組織化することで持続的発展を目指している。代表取締役の久保世智さんに、これまでの苦労から農業に見出した可能性、今後の展望まで伺った。
株式会社Season
〒620-1431 京都府福知山市三和町辻755-1
TEL 0773-45-8368
https://season-vege.com/

万願寺とうがらしを生産会社組織で安定経営を目指す

 福知山市三和町で、2014(平成26)年から農業を営む株式会社Season。代表取締役社長兼CEOの久保世智さんは、WEB制作会社を独立後、「『食』に関わる事業で、地域に貢献できることはないか」と考え、農業にたどり着いた。「農業者の高齢化や減少の一方で、世界的な食糧不足が懸念されるなど、農業を巡る課題はたくさんあります。だからこそビジネスチャンスだと思いました」と参入の意図を語る。会社を立ち上げ、大規模栽培で農業をスケール化。未経験者ならではの発想で、持続的発展を図ってきた。
 「とはいえ現実はそれほど簡単ではありませんでした」と久保さん。主力の万願寺とうがらしの安定栽培を可能にするまでにも多くの苦労を要したという。生産当初2400株から始めて毎年栽培株数を増やし、今では約1万8000株を栽培するまでになっている。「毎年失敗しては、そこから教訓や課題の解決策を見出し、改善することで規模拡大を進めてきました」と言う。
 中でも大きな課題は、労働力の確保だった。「万願寺とうがらしは収穫期間が約半年と非常に長く、その間に人手が必要になります。そこでワーキングホリデー制度などを活用し、若い外国人を積極的に採用しました」。そのおかげで安定した収穫・出荷が可能になった。

人と人とをつなげる三和ぶどうの生産を開始

 2020(令和2)年から新たに手がけているのが、地域の特産である三和ぶどうの生産だ。きっかけは、地元の有力生産者の一人が亡くなり、1haものぶどう畑の担い手がいなくなってしまったことだった。ぶどうと万願寺とうがらしは農繁期が重なるため、負担は大きかったが、久保さんはその畑を引き継ぐ決意をする。「三和町では、地域の方々が旬の三和ぶどうを買い求める長蛇の列が、秋の風物詩になっています。それを家族で味わうだけでなく、離れて住む子どもや親せきに贈ったり、いわば三和ぶどうが人と人とをつなぐ役割を果たしています。これをなくしてはいけない。そう強く思いました」と語る。
 しかし生食用ぶどうの栽培には非常に手間がかかり、それに充てるほど人材に余裕がない。解決策を模索し、考え出したのが加工品専用に栽培することだった。農薬を使わず、ぎりぎりまで完熟させた三和ぶどうを使ったストレート果汁100%ジュースを生産。ECサイトなどで販売している。
 それに加えて、規格外で廃棄するしかなかった万願寺とうがらしを利用した麹味噌や飴などの加工食品も開発・販売している。

商工会の支援が経営拡大につながっている

 8年間にわたり、Seasonの成長を伴走支援してきたのが、福知山市商工会だ。「各種補助金や商談会、展示会の案内や申請のサポートなどが大きな助けになっています。実際商工会から紹介されて参加した商談会で、大手百貨店との取引が決まりました」。加工品開発においても、テストマーケティングやラベルのデザインなど、多岐にわたるサポートが力になっているという。
 「農業の可能性は大きい。今後、生産拡大はもちろん、加工品開発や農業体験などのイベント開催など、生産以外の価値拡大にも力を注いでいきたい」と久保さん。Seasonの挑戦はまだ始まったばかりだ。

外国人の若者を積極採用し、万願寺とうがらしの大規模栽培を実現

 「農業をビジネスとして展開していくことが重要だと考えています」
 そう語る代表取締役社長兼CEOの久保世智さん。株式会社Seasonを設立し、農業を事業化することを重視してきた。「家族や個人のがんばりに支えられる農業には限界があります。当社を率いる私や副社長がいなくなっても、滞りなく続けていけるような組織にしてこそ、持続可能な農業を実現できると考えています」と語る。
 万願寺とうがらしの生産を始める際にも、スケール化して売上を確保することを考えてきた。「JAさんの話では、一人当たり1,000株栽培するのが限界だと言われました。そこで創業者の私と副社長の2人で栽培してみることになった時、一人1,200株、計2,400株を栽培することにしました」
 結果は、まったく手が回らず、大失敗。「規模を拡大するには人手が不可欠だ」と実感することになった。しかし業界を問わず人手不足が叫ばれている昨今、人材を確保するのは容易ではない。加えて農繁期は一時期で、継続雇用は難しいという課題もある。そこで久保さんが活用したのが、WWOOF(ウーフ)だった。WWOOFは、無給で労働力を提供する代わりに食事・宿泊場所や知識・経験を得るというボランティアを紹介する国際的なNGOだ。WWOOF を介して3人のフランス人に働いてもらうことで、規模を3,000株に拡大した。「この経験から、どの程度人手があれば、どのくらい収穫できるか、目途を立てることができるようになりました」と久保さん。翌年以降は、ワーキングホリデー制度を活用し、期間限定で就業してくれる外国人の若者を積極的に採用。人員を増やすとともに栽培量も拡大し、2018(平成30)年には、14,000株まで栽培できるようになった。
 労働力を増やす一方で、農業の効率化・省力化も図っている。万願寺とうがらしを栽培するビニールハウスの温度・湿度・CO2濃度などを測定し、環境を見える化。データを栽培に生かすとともに、スタッフの作業効率向上にも役立てている。「これまで延べ40~50人の若い外国人の方々に来てもらい、現在は約18,000株の栽培が可能になっています」

規格外で廃棄する万願寺とうがらしを減らすため加工品を開発

 2020(令和2)年から栽培する三和ぶどうも、加工品に適した実を育てるべく試行錯誤を重ねてきた。
 「農薬やホルモン剤などを一切使わず、樹上で完熟させてから摘み取ることで、驚くほど甘いぶどうを収穫できるようになりました」と言う。こうしてできたぶどうから極上の果実だけを厳選し、ストレートの果汁100%ジュースをつくっている。2021(令和3)年は、クラウドファンディングで支援を集めて製造。現在は、ECサイトや百貨店などで販売するほか、福知山市のふるさと納税の返礼品にも採用されている。
 三和ぶどうだけでなく、万願寺とうがらしを使った加工品も製造している。開発のきっかけは、「規格外のために廃棄せざるを得ない万願寺とうがらしをゼロにしたい」と考えたことだった。
 福知山市にある食品会社と連携し、最初に開発したのが、万願寺とうがらしを使った麹味噌だ。また福知山公立大学の学生とのコラボレーションで、飴を開発した。「万願寺とうがらしは『万人の願いをかなえる開運野菜』ともいわれます。それにちなんで、『万願成就あめ』と名付けて商品化しました」。福知山市内でテストマーケティングなども行い、パッケージデザインにも工夫を凝らす。大学のノベルティに採用されるなど、販売数を増やしている。

農業の多面的な可能性を追求し、新たな価値を創造する

「農業には多面的な可能性があると思っています。今後は、生産以外にもさまざまな価値を創造していきたい」と久保さんは展望を語る。
 加工品のラインアップを広げていくこともその一つだ。それに加えて、一般の人々を対象にした農業体験などのイベントの実施も考えている。「万願寺とうがらしや三和ぶどうの収穫体験とともに、三和地域のさまざまな文化や風習を知り、体験してもらえるような機会を企画していきたいと思っています」
 主事業においても、栽培する野菜を増やしていくことを視野に入れている。
「今後は、穀物栽培にも挑戦するつもりです。この地域でも、高齢のために離農される方が少なくありません。誰にも面倒を見られず荒廃していく田畑を当社で引き受けることで、微力ながら地域の土地を守っていくことに貢献できたらと考えています」と久保さん。三和地域の農業振興と持続的な発展に、Seasonの存在はますます重要になっていくに違いない。