京都府商工連だより
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株式会社百里衆

原木しいたけの栽培を通して里山を守り、多くの人を笑顔にしたい。

株式会社 ざと しゅう  代表取締役 
みや 西 にし しん

原木シイタケ「京ぽんぽん」

加工場で製造される「京のおばんざい」シリーズ

 京都市右京区の京北地域にて2023(令和5)年に設立し、シイタケ、マイタケ、レイシといったキノコ類の栽培を行う株式会社 ざと しゅう 。主軸の原木栽培では、樹木の伐採・植樹も生産工程に組み込んだ里山循環型の生産を実践し、里山の保全を目指す。代表取締役の宮西真也さんに、設立初年度の苦労や展望について伺った。
株式会社百里衆
〒601-0534 京都府京都市右京区京北下弓削町沢ノ奥26-19
TEL 075-606-4120
https://kyotake.jp/

“森づくりから”をコンセプトにキノコの原木栽培を始動

 キノコ栽培は、菌床栽培と原木栽培の大きく二つに分けられる。菌床栽培は、オガクズと養分をブロック状に固めた菌床に菌を植菌し、湿度・温度を管理して育成するもので、年間を通して収穫できる。一方、原木栽培は、伐採した木を扱いやすい長さに切って乾燥させた原木に植菌。野生に近い環境で手間暇かけて育て、収穫は主に春・秋の年2回だ。
 株式会社百里衆は両方を手がけるが、主軸に位置づけているのは原木栽培。「 きょう たけ 」ブランドとして原木シイタケ「京ぽんぽん」、原木マイタケ「京おはな」、京都ではあまり栽培されていないという原木レイシの「京てずま」などを展開しており、キノコ本来の濃厚な旨みが特徴。設立2年目にして世界的なホテル、老舗百貨店、星付きレストラン、祇園の名店などを顧客に持つことが、その証左だろう。
 そして同社の最大の強みともいえるのが、“里山保全につながる循環型”へのこだわりだ。森林は伐採・植樹など適切な手入れを行うことで若さが保たれ、山崩れなどの災害を防ぐことができる。「設立初年度は京都にある、長年手入れされていなかった雑木林の所有者に交渉し、私の手で約2300本のクヌギを伐採。その跡地には、京都で拾い集めたドングリから育てたクヌギの苗木を植えました」と宮西さん。キノコづくりを通した“山づくり”で地域に貢献したい。その揺るぎない思いが、宮西さんの原動力となっている。

農作物で収益安定を図りながら原木シイタケの増産に注力

 宮西さんは同社設立前の約10年間、京都市京北森林公園(現 京北森のひろば)の管理・運営を担っていた。その業務の一つとしてあったのが、シイタケ狩りのための原木栽培。一般の事業者から「買いたい」という要望があり、来園者が少ない日に採れた余剰などの販売が広がっていったという。「もっとたくさん作ってほしい」との声が多く寄せられていたこともあり、運営が京都市から民間事業者へとバトンタッチされるタイミングで会社の設立を決意した。
 だからこそ、複数あるキノコの中でも原木シイタケを主力に据えたいとの思いが強い。しかし初年度は、猛烈な暑さや激しい乾燥などの影響で思うように収穫できず、「待ってくれている方にさえ満足に供給できなかった」と振り返る。キノコは収穫時期が限られるため、設立当初からリスクヘッジとして野菜の栽培を行っており、2024(令和6)年からは新たに、大豆の栽培もスタートさせた。
 「収穫量を増やさなければ、目の前の作業に追われ、伐採・植樹はもちろん、ブランディングや販路開拓もままなりません。そこで今年は3500本の原木を仕入れ、シイタケ用原木の総数を前年の約3倍以上にあたる5000本超としました」
 大豆栽培の検討においても、地域貢献という視点にブレはない。
 「納豆発祥の地の一つとして伝わる京北には、大豆の栽培・加工の設備やノウハウを持つ企業があります。そことタッグを組み、地域課題である遊休農地を活用して、全量買い取りを前提に、ビーガンやアレルギー対応のスイーツ・ラーメンに用いる大豆の栽培を進めています」

商工会の伴走支援で安定収益の土台を強化

 月次収益の安定性向上を図るうえでは、季節を問わず原木シイタケを味わえる加工食品の充実も欠かせないが、その後押しをしたのが京北商工会だ。シイタケ増産計画を踏まえ、「小規模事業者持続化補助金」申請に向けて書類作成を徹底サポート。2023年度に採択され、加工場のリニューアルが実現した。京北の交流拠点施設でのイベントでは加工場を活用し180食ものカレーを用意するなど、地域貢献にも一役買う。宮西さんにとって「幅広い業界とのつながりを持つうえでも不可欠な存在」である京北商工会のバックアップのもと、里山を次世代につなぐ同社の挑戦は続く。

地域のつながり、新たな出会いを通して広がる可能性

 原木シイタケの増産を目指し準備を進めながら、年間を通してキクラゲなどの菌床栽培、米・大豆・野菜などの栽培まで手掛ける宮西さんの日常は、実に多忙だ。そうした作業の合間を縫って、ブランディングや販路開拓を推進するための基盤づくりに努めてきた。
 設立初年度は、自治体の支援を活用して行ったクラウドファウンディングによって得た資金で、地元の友人の協力のもと、ホームページを立ち上げた。その友人の紹介で、当初は入会するつもりのなかった京北商工会に加入。後の加工場の改装につながった。また継続的に、自治体のマッチング支援事業や海外での販路開拓に関わる講習などにも、積極的に足を運んできたという。地道に横のつながりを広げていく中で形になったものの一つが、前述の大豆栽培。現在、キノコを使った宇宙食開発のプロジェクトも進行中だ。
 「今はまだ、何屋かと聞かれると困ってしまうような状況。この先どうなるのかも、やってみなければわかりません。もしかしたら何年後かには、大豆農家になっているかもしれない(笑)。ただ確かなのは、選択肢や引き出しが増えていっているということ。本業ではないうえに、それがたとえ薄利であったとしても、誰かに喜んでもらえること、地域に役立つことはやるというのが今の私のスタンスです。これからも原木シイタケという軸を忘れずに、でもそこにこだわりすぎるのではなく、“何者にでもなれる自分”でありたいですね」

協働を通して感じた、地域社会の1ピースであることの重要性

 宮西さんは、主軸である原木栽培そのものも、周囲とのつながりを生み出し、活かしながら進めてきた。その最たる例が、原木栽培に使う木の伐採と植樹。伐採こそ一人でやり切ったが、拾ったどんぐりを苗木にする工程は、地元の育苗業者に依頼。植樹は、育苗業者と獣害防止ネットメーカーに手伝ってもらったそうだ。
 「どんぐりは3000個ほど拾ったものの、植樹するのは400本程度。残りのどんぐりを商品用として提供する代わりに、苗木栽培をお願いできないかと交渉したところ、快諾してくださいました。獣害防止ネットのメーカーからは製品の実証実験に活用させてほしいとのお申し出があり、代わりにネットを安く提供していただいています」
 そうした連携は、「会社を運営するということは、地域社会の1ピースになるということ」だと、強く実感する機会になったという。
 「一人では何もできません。誰かの力を借りなければ、物事は成立しないのです。だからこそ事業を展開していくうえでは、いかに地域に還元するかという視点が必要なのだと、あらためて気付かされました」
 高校の森林系専門学科や大学で、環境保全について幅広く学んできたという宮西さん。その上に確立された地域貢献への使命感は、高まっていくばかりだ。

里山保全にとどまらない、多角的な地域貢献を目指して

 目下の目標は、原木シイタケのファンに十分に届けられる生産量を確保することと、リニューアルした加工場をフル稼働させること。地域貢献については、次代に里山を受け継ぐための“山づくり”はもちろん、“まちづくり”にまで思いを巡らす。その第一歩として、移住者のための不動産事業をスタートさせた。
 「将来的には、独居の高齢者が一緒に住める集合住宅をつくりたいとの思いがあります。多くの課題があり、決して簡単ではありませんが、もし実現できれば、入居者が住んでいた空き家をリノベーションすることで、山林や農地を宅地に変更することなく人口増加に貢献できます」と力強く語る。“何者にでもなれる自分でありたい”という自身の言葉を実践し続ける、宮西さんの今後に期待が膨らむ。