京都府商工連だより
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御菓子司光栄堂

地域のお客様を大切にしながら、若い世代にも和菓子のおいしさを広げたい。

御菓子司光栄堂
菓子職人 かわ としゆき
代表社員 石田 幸広 氏

ターフ看板

 久御山町で約50年にわたって和菓子店を営む御菓子司光栄堂。地域に愛される昔ながらのお菓子を揃える他、近年は若者のニーズに応える新商品も次々生み出している。三代目店主として、また熟練の菓子職人として、新しいことに積極的に取り組む加川利幸さんと、それを支える妹の上坂真理子さんにお話を伺った。
御菓子司光栄堂
〒613-0034 京都府久世郡久御山町佐山東代4-28
TEL 0774-44-7205
https://www.instagram.com/kou.eidou?igsh=MTl5ZXBuNzc0NDFlMA==

地域の人々に愛され季節・節句の和菓子を提供

 御菓子司光栄堂は、1975(昭和50)年に久御山町に店舗を構えて以来、地域に根差し、地域の人々に愛されてきた。細工の美しい上生菓子から、日常に楽しむ大福や団子などの餅菓子やまんじゅう、贈答に喜ばれる焼き菓子、おこわや赤飯まで、現在三代目店主を務める加川利幸さんと、店主を譲った今も現役の職人である父親が、毎日早朝から丹精込めて作っている。
 「創業者の祖父の代から変わらない材料・製法で、餡から手作りしています。化学調味料や甘味料などを使わず、材料は米粉や小豆、砂糖などシンプルなものばかり。一目でわかるので、アレルギーをお持ちの方にも安心して食べていただけます」と加川さんは言う。
 みたらし団子や鮎菓子、羊羹など、一年中注文が絶えない人気商品の一方で、季節や節句、行事に欠かせない菓子のニーズも高い。「秋は、お火ひた焚きまんじゅうや亥の子餅が有名です。とりわけ地域で昔から大切にされている節句や行事に合わせ、お菓子を提供するようにしています」

新商品をSNSで発信若い世代に客層を広げる

 一方で、新商品作りにも積極的に取り組む。累計商品数は、100種類を大きく超える。中でも現代のニーズをくみ取った新しい商品のアイデアを出すのは、加川さんの妹の上坂真理子さんだ。地元の農家から仕入れた新鮮な朝穫れイチゴを使った大福や団子、おはぎなどのイチゴシリーズ、夏はカラフルで涼しげな三色の水まんじゅう、ハロウィンにはカボチャ、クリスマスにはサンタクロースやトナカイを象った上生菓子など、見た目にも華やかで楽しい商品を次々に発案。加川さんの職人技で、それを形にしている。
 「せっかく良い商品を作ったのだから、多くの人に知ってほしい」と、近年、真理子さんが中心になってSNSでの発信を開始した。「コロナ禍で、常連のお客様の足が遠のいている中、『SNSを見た』と、若いお客様が買いに来てくださるようになり、お客様の年齢層が大きく広がりました」と言う。
 また近隣地域で定期的にマルシェを開くほか、イベントも開催している。真理子さんが企画し、会場を確保するための交渉から運営まで引き受ける。イベントには毎回地元のさまざまな商店がこぞって出店を希望し、大いに賑わいを見せるという。2023(令和5)年秋には、地域の中学・高校と連携し、ハロウィンイベントを開催した。「商品の販売はもちろんですが、地域のいろいろな方とつながることが面白い。皆で地域を盛り上げていきたいと思っています」

看板設置や帳簿管理商工会が寄り添い支援

 長年、光栄堂に寄り添い、支援し続けているのは、久御山町商工会だ。「例えば商品をPRするターフ看板やのぼりを作る時に補助金を紹介してもらったり、また帳簿の管理や会計処理についても、細かいことまで丁寧に教えてもらえるので助かっています。どんなことも相談できる存在が身近にいるのは、安心できます」と加川さん。一方で久御山町と商工会が主催するイベント事業に協賛するなど協力し、支え合う関係が確立している。
 「私の技術は、まだまだです。もっと勉強して、これからも新しい商品を作っていきたい」と加川さん。謙虚ながらも情熱を持って店の発展に挑んでいる。

牡丹餅の卸売りからスタートし、三代にわたり味を受け継ぐ

 加川さんの祖父が戦前、大阪で牡丹餅の卸売店を開業したのが光栄堂の始まり。久御山町にショッピングセンターがオープンすることになった時、そのテナントとして誘われたことから京都に拠点を移す。そこで20年にわたって営業した後、テナント契約の満了に伴って現在の場所に移転し、店を開いた。以来約50年、二代目の父、そして加川さんが技と味を受け継いできた。
 「私も小学生の頃には、いずれは菓子職人になって父の後を継ぐと思っていました」と振り返った加川さん。専門学校を卒業し、祖父と同じく大阪で和菓子店を営んでいた叔父の元で修業した後、実家の光栄堂に入った。「現在は、父と二人で菓子を作り、母と妹が店頭やイベントで販売し、家族で営んでいます」

みたらし団子、鮎菓子、羊羹、長く愛される商品を作る

 店のショーケースには、一年中注文の絶えない定番商品から季節のお菓子、さらにアイデアが光る新作まで、さまざまな菓子が所狭しと並べられている。老若男女に人気が高いのが、みたらし団子。三つ連なる団子は、女性や子どもが一口で頬張るのが難しいほど大ぶりながら、驚くほど柔らかい。優しい甘さの餡に浸けて保温しているので、いつ購入してもできたてのような温かさを味わえる。1本90円と、子どもにも買えるようにと良心的な価格を貫くことも、愛される理由だ。「100円玉を握りしめて買いに来ていたお子さんが、大人になってご自身のお子さんと買いに来てくださると、嬉しいですね」と顔をほころばせる。
 その他、加川さんが叔父の店での修業時代に作り方を習得し、光栄堂の商品に加えたのが、鮎を象った鮎菓子だ。「中に入れる餡は、白い羽二重餅の他、抹茶とこし餡の3種類。一般的には夏のお菓子ですが、うちでは白い羽二重餅が入った鮎菓子を一年中販売しています」
 定番商品にも工夫を加え、「光栄堂のお菓子」にするための努力は惜しまない。人気商品の「久御山羊羹」も、よく見かける羊羹とは少し趣が異なる。「昔はうちも、筒状の羊羹を作っていました。羊羹を切り分けて、残った分を置いておくと、表面の砂糖が結晶化して白い膜を張ったようになります。それを食べてみたら、意外にもシャリシャリとした食感でおいしかった。それならいっそ、これを商品にしようと思いつきました」
 そこで、あらかじめ羊羹の表面に白い砂糖の結晶をまとわせた商品を開発。小豆の他に、抹茶と黒糖の羊羹を発売し、ヒット商品になった。

斬新なアイデアと確かな技術で生み出す新作

 最近は、妹の真理子さんが次々と考え出すアイデアに応えて、従来の和菓子にはない形や味に挑戦することも増えている。「地元の農家さんから新鮮なイチゴを仕入れられることになった時には、よくあるイチゴ大福だけでなく、熟したイチゴを潰して生地に練り込んだイチゴ団子や、イチゴをもち米と粒あんでくるんだイチゴおはぎ、通常より三回りほど大きいイチゴを載せてショートケーキに見立てた上生菓子など、4、5種類ほど作りました。とりわけイチゴおはぎは、もち米と粒餡、さらにジューシーなイチゴと、食感の異なる三素材が一体化し、予想以上にいい出来になりました」と言う。
 真理子さんの斬新な発想と、それを実現する加川さんの技があってこそできる商品の数々。「『こんなのを思いついたから、作ってみて』と言うと、いつも渋い顔をしながら、必ず形にしてくれるんです」と、真理子さんも太鼓判を押す。
 真理子さん自ら企画・運営するイベントやSNSでの発信によって、久御山地域以外にも光栄堂ファンが広がっている。「2024年4月には、地域の総合病院の駐車場を借りてイベントを開催する予定です。高齢で遠出するのが難しい方や、車イスの方も気軽に来て、楽しんでいただきたいと思っています」と言う真理子さんの人柄・熱意に引き寄せられ、約40店の参加が決まっている。これから光栄堂の菓子とともに、地域の輪が広がっていきそうだ。